30話 会議は踊る。
「さて、それでは査問を始めます」
目の前の高い位置に、これまた値段の高そうな机があり、白い髭がすごい感じのお年寄りが座り、そう宣言する。
髭の半分でも頭に生えてれば良かったろうにな。
「王立技術研究所、イーノ研究員より提示された、研究内容の盗難容疑について、説明を」
「は。王立技術研究所、研究主任を務めております、タターク子爵家イーノであります」
左方の机に並ぶ面々から、一人が立ち上がった。
長髪で毛先が巻いてある、男がするには変な髪型。あれか、貴族風ヘアスタイルってやつか。
「その男、あろうことか我らが長年研究を積み重ねてきた画期的発明である光魔法ライトの魔道具に関する研究成果を盗み、それを自分の発明として発表しようとしたものであります」
ああ、そっちの話だったのか。やっと、自分がなんでここにいるか解ったよ。
「本来であれば、罪を犯した平民など、即刻処罰すべき所でありますが、王女殿下の取り成しもあり、発明の詳細について明らかにするべく、このような場を設ける次第となりました」
淀みなく言葉を続けるなんとか子爵。話慣れしてる感じだな。声の大きさで成り上がってるタイプか。
後ろの傍聴席ではアイリスが泣きそうな顔をしている。自分が推薦した、とか言ってたから責任を感じてるんだろう。
まあ、有罪とか言われたら逃げるだけだな。今の俺を拘束しようとしたところで、牢屋だろうとダンジョンだろうと簡単に抜け出せると思う。
で、遠くの街にでも行ってしまえば良いだけだ。
いきなり斬りかかってこられたり、決闘だとか言われたら、そっちの方が困る。
「では、冒険者ヨシツグ。今の罪状に対して弁明はあるか?」
なんか、本当に裁判みたいだな。目の前の爺さんが裁判長? 公平な判決を下す立場なんだろうか?
平民という以前に、この国の人間でも、この世界の人間でもない俺に基本的人権とか無さそうなんだよな。
ああ、なんか王女がどうこう言ってたっけ? 権力者のツテってことか。王女の知り合いなんて居ないと思うが、その辺よくわからんな。
俺の知り合いなんて、マスターとシンディたちくらいだ。万年Dランク冒険者の剥げたチンピラなんかも、ファーレンには居なかった。
どちらにせよ、回答は一つだな。
「記憶にございません」
民主主義の発達した日本の政治家御用達の必殺弁論を食らうが良い、何も言えまい。
「なんと不遜。この男には全く反省の色がございませんな」
大袈裟な身ぶりでため息のポーズをとる、かんとか子爵。これが劇場型裁判と言うやつか。
「証拠として、押収した光魔法ライトの魔道具を提示いたします」
手回し式電灯、な。
「我ら優秀なる研究員が集まり、長年をかけて研究してきた光魔法の魔道具化ですが、残念なことに未だ最後の一歩を見つけることができておりませんでした。が、それをこの男が自らの発明と偽り、発表しようとしたことは紛れもない事実」
それって、自分達の研究は完成してないって意味じゃ?
「よって、この場において、この魔道具の理を明らかとし、正当なる裁きを求めるものであります」
要するに、なんで動くのか理解できてないから、教えろ、という意味かな?
まあ、問答無用で拷問とかされて聞き出そうとかされるよりはマシなんだろうけど。
「では、冒険者ヨシツグは、魔道具について説明を」
えー、今の話ちゃんと聞いてたの、おじいちゃん?
こいつら、自分達が成果を出せなかったもんだから、他人の手柄を奪おうとしてますよ?
だいたい、長年研究してようが、99%作り上げてようが、評価されるのは最後1%の問題解決をやりとげた人だと思うんだけどなあ。
まあ、今回はそもそも話がずれているわけだけれども。
「えーと、これはただの機械ですので、光魔法の魔道具ではありません」
俺としてはそう答えるしかない。
「ありえませぬ。現にライトの魔法は発動しているのです。この男には、使用している光魔法ライト及び付与術式についての説明を要求いたします」
だんだん、取り繕わなくなってきたな。
要するに、魔道具とやらを作るには光魔法を使って、それを付与魔法とやらで道具にするって感じかな。で、それがうまくいってないと。
「そもそも私は、光魔法も付与魔法も使えませんので」
そう答えるしかないよな。
「白状しましたな。この男には必要な魔法の才が無いと、今口にしましたぞ。ならばこの魔道具、盗んだことは明白」
話通じねぇ。
カンカンッ。
室内に響く乾いた音。
まさか、あれは伝説の裁判長の木槌か、すげえ。
木槌の下にもち米置きてえ。
ああ、団子食いたいなあ。
「では、これより数日の猶予を与え、冒険者ヨシツグには城内の工房において光の機械というものを製作することを命じます。その際作業は工房の職人が行い、冒険者ヨシツグは口頭での指示のみ行うこと。その結果によって自らの言葉を証明するように」
わー、なんか面倒臭いこと言い出した。
「では、本日はこれにて閉廷」




