29話 はるばる来たぜ王都へ。
夕刻到着、というには少し遅れたが、王都の門は開いていた。
先行部隊のキャラバンが手続きしていて手間取っているようだ。そこに合流した。
マイ・カーも収納する。ここからは歩きだ。
「王都も暫くぶりですわね」
エレメアが独り言ちる。
「こっちにはよく来るのか?」
今回は急ぎで来たが、普通に移動すれば数日かかる日程だろう。気軽に、とはいかない。
「あたしら、もともとこっちに住んでんだよ。あたしは実家がこっちだし、アイリスはまだ学生だしな」
ああ、一人だけ年が違うなとは思ってたが、学生なのか。魔法学院とか言ってたやつかな?
何で冒険者やってんだか。学校で単位取るのに実習がいるとかか?
列が減ってゆき、俺たちの番になる。
ファーレンで作った身分証を見せるが、その後は俺だけ別室に。
なんでも、街ごとに身分証は個別らしい。
とはいえ、ファーレンの身分証が無意味なわけではなく、見せることで手続きを簡略して王都の身分証が貰えた。こちらでも出稼ぎ扱い、とのことだ。
正門に併設する勝手口のようなドアを通り、俺は王都へと入った。
「遅いわよ」
そこに待ち受けていたのは、白猫獣人こと、ユキだった。
ユキに道を教えてもらい、泊まる予定の宿へ向かう。
他の連中は用事を済ませるとかで、ユキが残ってくれた形だ。
まあ、初めての街だし、ファーレンよりもさらに大きいし、時間も遅いしで、それはとても有り難いのだが。
「なあ、前歩いてくれればちゃんと着いてくぞ?」
「嫌よ。あなたに後ろからじろじろ見られたくないもの」
とのことで、俺が前を歩き、後ろからユキに指示を出される。
首輪とリードは無いものの、犬の散歩をされている気分だ。もちろん、犬役は俺。
「そこ、右に曲がって」
王都は広い通りだけでも縦横に組合わさっており、ファーレンのような区画整備された街並みとは違っている。
「なあ、横歩くとか……」
「冗談は顔だけにして? 通行の迷惑よ」
いや、街を縦一列で歩くとか、どこの勇者だよ。
周り見たって、そこまで混んでないだろ。
ほんと俺、何かしたか? してないよな?
「その先よ、見れば判るわ」
そう言われて目を向けると、そこにあったのはファーレンの街にある酒場と全く同じ建物だった。
手に馴染むスイングドアを押し開けて中に入れば、カウンターにはいつものマスターの姿が。
「いやいや、あんた今日の朝、ちゃんと店に居たよな? 何で先回りしてんの?」
「んあ? 何言ってんだ、お前」
相変わらずカウンターに嵌まっているような佇まいだ。ワープでもしてんのか?
「宿をお願いするわ」
「おお、お前さんか。なんだ、こっち来てんのか」
ユキは何事もなさげに流す気なのか?
「ってこた、あれか。ヨハンの店の客だな。俺はヨシュアだ。この店のマスターをしている」
「いや、だからマスターなんだろ?」
知ってるよ。
「解らない人ね。王都の酒場、笑福亭でマスターをしているヨシュアさんよ。あなたが知っているのはファーレンにある三遊亭のマスターでヨハンさん。ご兄弟よ」
「まあ、そういうこった。ファーレンからやってくる客はみんな同じ反応するからな、気にすんな」
は、なに? この店そんな落語家みたいな名前だったの?
ってか、マスターに名前あったの?
いやそれよりも。
「酒場って、全世界の街でおんなじ顔のマスターが経営してるシステムなの?」
「んなわきゃねえだろ。うちは二人兄弟だ」
そんなこと言って、従兄弟とか出てくるんじゃないだろうな。
「マスター、気にしないで。この人ちょっとアレだから」
王都の酒場は何から何まで作りが同じ。
俺が泊まった部屋位置まで同じだった。
遠出してる気がしないな。
そして翌日。身柄を拘束された俺は被告席に立っていた。
なんで?




