28話 爆走道中。
翌早朝、西門で待ち合わせた。
4人はすでに騎乗している。
「それで、移動なんだけどなぁ……」
申し訳なさげにシンディが何か言おうとするが。
「まかせろ。準備は万端だ」
それを遮って、サムズアップ。
「いでよ、マイ・カー」
収納からマイ・カーを取り出す。
「シーット、オーン」
着座する。
「ヒィィィィト、オーン」
燃料箱にマグマをクリエイト。
最初に、弾み車を手で回して回転させると、その後は自動で回り続ける。
シュコシュコとピストンが高速動作する音が心地良い。
「レェェェェッツ、ゴー」
クラッチを繋ぐと、マイ・カーは静かに走るのであった。
「これは、これは。ここはいったい。これがこうで、こっちが、ほうほうほう」
出発してからずっとアイリスが付きまとっている。
並走するのは良いが、右にいったり左に回ったり、忙しない。
前見ろよ、危ないぞ。
それでも、ちゃんと走れているのは賢い馬のおかげだ。ご苦労馬様です。
流石にスピードを出そうとすると馬の方が早いらしい。こっちはスピードの微調整とか出来ないしな。
その代わりに、永遠に走り続けることが出来る、というメリットがある。ボトルネックは俺の尻がどれだけ耐えられるか、だ。
とはいえ、騎馬と同行するのだから、休憩は必要。勝手に走って最後に帳尻が合えば良いというものでもない。
マイ・カーの走る速度に馬の方が合わせてくれている状態である。
「これは、私でも走らせることが出来るのですか?」
「いや、魔法を使わないと動く力が出ないな。しばらくは走れても、すぐに止まる」
常にマグマの温度を上げなければならないからな。
「魔道具でしょうか? エレメアなら動かせますか?」
「無理。俺の魔法を使ってるから」
と、いうことにしておこう。
前にも少し聞いたが、魔道具というのは使用者の魔力を吸いとって動く道具のことで、魔法を使えない人間でも、必要な魔力を持っていれば動かせるらしい。
魔力のない俺には使えなかった。
「でも、先程から呪文は唱えていませんよね? そういえば、収納から取り出すときも、起動の時も。いえ、起動の時に何か言ってましたか。……詠唱短縮?」
「呪文って、エレメアが魔法を使うときに、たまに口にしてるやつ?」
「たまに、ではありませんわ。魔法というのは呪文を唱えて使うものです」
横から、当のエレメアが口を挟んできた。
「呪文の文面って、どうなってんだ? 学校とか本とかで勉強すんの?」
「当たり前ですわ。王都には魔法学校もありますし、図書館には魔法構文を研究した蔵書も……」
「そういえば、ヨシツグさんが呪文を唱えてるところ、見たこと無いような?」
エレメアの言葉をアイリスが遮った。
そりゃだって、呪文なんてそもそも知らないしな。マナがなんとか言って、命令してる感じだったか?
「まあ、そんなのなくても、頑張ればできる、みたいな?」
「出来ませんわよっ」
「む、無詠唱魔法? ……」
マズかっただろうか? でも、さっきからアイリスの方は詠唱短縮だの無詠唱だの言ってるしな。やって出来ないことはないって感じじゃないかな?
よし、出来ることにしよう。いまさら、唱えてるフリするのも面倒だし。
おっと、上り坂だな。ギアチェンジ。
「おーい、遅れてんぞー」
スピードダウンした俺に、シンディが声をかけてくる。
いかん、限界を越えた。ピストンが負荷に負けてストップだ。
「すまん、坂道に弱いんだ。越えるとこまで乗せてくれ」
「ちっ、しゃーねえなぁ」
マイ・カーを収納し、一時的にシンディに乗せてもらう。
もう少し、パワーが出ると良いんだがなぁ。




