26話 初めてのお誘い。
落ち着きを取り戻したファーレンの街は、祭りの後のよう。
いつもはきれいな通りにも、細かいゴミが落ちていたりする。
一度、雨でも降ればそっくり無くなるのだろうが。
「部屋、空いてるか~い」
「おう、やっと戻ったか」
いつもの場所に変わらずマスターが座っている。
「混雑は収まったん?」
まあ、アースサーチで確認済みなわけだが。
「おお。昨日キャラバン組んで、大方は王都に出発したぜ」
王都に着いたら着いたで、また騒ぎになるんだろうな。俺の知ったことではないが。
「ダンジョンの下層について、初めての情報だからな。今後攻略のために調査も入ることになるだろう」
「結局、何が原因だったんだ?」
「馬鹿でけえコカトリスだとよ」
コカトリス。
鳥の形をしているが空は飛べない。要するに鶏。
尾から蛇の頭が生えている。
代表的な石化モンスターだ。
「どうして、まとめてダンジョンから排出されたのか、なぜ石化の影響が無くなったのか、不明点だらけだ」
「定員でもあったんじゃね? 決まった人数になったらやり直し、的な?」
「かもな」
通常であれば、石化の治療には高位の治療術士が必要で、神殿の高司祭でもなければ治療できないらしい。
強力な呪い除去で治すのだとか。
石化というのは呪いだということか。
しかし、治療術か。回復魔法があるとは羨ましいことだ。魔法が一切使えないという、この身が恨めしい。
代わりにもらった神の加護はとても便利だと思っているが。怪我や病気はやっぱり怖い。
この世界の神様っていうのも、そういえば聞いたことなかったな。
「ま、今日戻ってきてよかったぜ。来なかったら探しに行かせるところだった」
「うん? なんか用事でもあったか?」
マスターは紙を一枚取り出し、見せた。
「王城から、お前さんへの呼び出し状だ。正式なもんだから断れねえぞ」
「ぱぁどぅん?」
一枚物の紙にはなにやらつらつらと書いてあり-読めない字ばかりで-最後に大仰な印が捺してあった。
俺、なんかミスしたか? いや、完璧だった筈だが……。
まだだ、まだ慌てる時じゃない。
素数を数えろ。素数とは孤独な数字。人間強度が上がる。
1、3、5、7、9、11、13 ……。
って、それは奇数やねん。
「……ふう、落ち着いた」
「話、続けていいか?」
こちらの準備が整うまで、空気を読んでくれるマスターは、流石の貫禄だな。
「正確には、王都工房からの呼び出しだな。お前さん、灯りの魔道具を持ってるんだって?」
ああ、手回し式電灯、ね。
「そいつについて説明をしろ、と書いてあるな」
「えー、それって何かの罪で拘束されたりすんのか?」
そうなら逃げるが。
「それなら、呼び出しじゃなく護送になるだろ。この国じゃ功績に対しては平民でも報奨が出る。発明品なんかもな。有用と判断されて貴族になったって例もあるぞ。やるじゃねえか」
「なのです。これはすごいものですし、ダンジョン探索でも必ず必要とされます。私が推薦しました」
いつの間にか、後ろにアイリスが立っていた。
隅のテーブルには残りの3人も席に着いている。
すっかり元気そうだな。
一人づつ様子を確認すると、ユキと目が合ったとたんに尻尾を膨らませて警戒状態。両手で尻を隠した。
え? 別に触ったりしないよ?
「そんなわけで、だ。あたしらも一回王都に行かなきゃなんないもんでな。一緒に行ってやろうと、待っててやったんだぜ?」
といって、シンディからのヘッドロック&ほっぺたツンツン。
胸が当たってます。当たってんのよっ。
「明日にでも騎馬で出発すれば、先行した馬車にも追い付けましてよ」
そう言われても、ね。
「あー、俺、馬に乗ったことないな」
世界が違うんだよ、世界が。
「はあ? アイリスでも乗れますのに?」
サイズの問題じゃ無いと思うんだよな。
「マジか。うーん、あたしと2人乗りじゃ、馬が疲れちまいそうだし、アイリスはまだ一人で乗るだけでいっぱいいっぱいだよな。エレメアか、ユキと一緒で……」
「ダメに決まってますわ」
「私はちょっと、イヤかしらね」
だから、お尻隠さなくても触んないってば。




