25話 新たなスキル。
大勢の冒険者がダンジョンから一斉に帰還した。
そのニュースでファーレンの街は大騒ぎだ。
国内有数の有名冒険者もいたとかで、王都への連絡、報告、帰還の準備など、街をあげてサポート体制が敷かれた。
そんな中で、俺はどうしていたかというと、北の森でキャンプである。
酒場の方も大忙しで、ぶっちゃけ部屋が足りていなかったし、件のドワーフなおっさんに顔を見せたくなかったからだ。
誰がどんな順番で意識を戻したか、最初は誰なのか、あたりを追求されるかもしれないからな。
あのおっさんが俺の顔を覚えていて、一番最初が俺だったと言われるのはちょっとまずい。
というかそもそも、あの場に俺がいたとバラされる時点でまずい。
なら、なんで最初に一人だけ治療したのか、と言われれば、実際やってみないと本当にできるのか確信が持てなかったわけで、万が一失敗するとか、注意点みたいなものが存在するとか、そんな可能性もあったわけで。
と、こんな言い方をすると、実験台かよ、ドワーフ差別かよ、ムサいおっさんなら事故ってもいいのかよ、等と非難されそうなので弁明はさせてもらいたい。
ただ、そう。太陽が眩しかったから。
「アースホール。ストーンニードル」
お決まりの攻撃コンボ。ホーンラビットは死ぬ。
毛皮がダメになるので、換金目的のときには使わなくなったコンボだ。
魔法を解除して死体を取り出す。
「石化」
そして、死体への石化付与。
これを今回、試しているのだ。
ホーンラビットの死体は徐々に薄い灰色に変色してゆき、固まって行く。血の流れも止まる。
そして、石の塊となった。
「アースディテクト」
確認すると、石化したホーンラビットの死体、と判る。
石化能力が取得できたのだった。
そもそもの発想は、石化状態を治療できたことから。
ならば、再度石化させることもできるのではないか。というか、できそうだな、と思ったわけだ。
なのだが、実際やってみると、やはりというか制限が大きい。
まず、生きているホーンラビットを石化はできない。
レジスト、というのだろうか。まず成功しない。弾かれてしまう感じだ。
川の魚レベルでもダメ。
ダンゴムシなら石化させられた。
ホーンラビットや魚は、死んだ後であれば石化できる、という状態だ。
それになんの意味があるか、と言えば、とても大きな意味がある。
狩りの獲物を、収納で運べるようになったのだから。
石化したものは俺の収納に入れることができるのだ。
これは獲物に留まらない。木の枝など、今まで収納出来なかったものも、一度石化させるという手順をとることで収納が可能になった。
石で作った容器に川の水を入れてまるごと石化させると、液体である水すら石化収納できる。
まあ、獲物の血液ごと石化できてるわけだからな。
とはいえ、人前で使うとマズそうなので隠す方向で。
あと、追加の補足。
生きたダンゴムシを石化させると、石化を解除してもダンゴムシは死んでしまっていた。全身石化した時点で生きていられないらしい。
生きたまま石化するような繊細な技術は、バケモノでなければ取得できないようだ。
なので、逆に寄生虫なんかがいても、石化させた時点で死んでしまうと思われる。
そのうち、刺身や生卵にチャレンジするか。でも、どっちも米と醤油がないとな。
もう一つの実験。
以前作った風呂は、焼いた石を湯船に入れることでお湯を作った。
代わりにマグマを入れてみた。
もう、ちょっと入れただけでお湯になったね。少しピリピリするが。
酸性湯かな。
で、思ったわけだ。マグマをアースクリエイトできないかな、と。
正確には、アースクリエイトする際に温度を上げてクリエイトする、になるのか。
はたまた、石に対して形状ではなく温度に対して変化させたもの、とみるべきか。
細かい理屈はともかく、結論を言えば可能であった。湯船の壁面を直接加熱させることもできれば、ストーンシェルで床暖房にすることもできるって寸法だ。
これで冬が来ても快適な生活が約束されたわけだな。
ああ、そうそう、もう一つ。
マグマの中でも溶けずに固体のままという部分があった。
プラチナとタングステンをゲットした。
何の役に立つかは今のところ未定。
そんなこんなで、ほとぼりが覚めるまで獲物を狩って、収納しまくっていた。
これでもう、何があっても飢えることはあるまい。




