19話 カツをあげられました。
手回し式電灯ができた。
「もう少し、使いやすくできないかな?」
全力で回さないと光らないのでは流石に疲れる。
磁石とコイルの極性を増やす。試作では二対で一極だったのを一気に4極だ。
回転ハンドルにはギアを噛ませて回転数を上げる。ハンドルの手回しは秒間1~2回転くらいがいいところだろう。
炭フィラメント部はユニットにして、取り替えられるようにする。どのくらい寿命があるか判らない。この部分は消耗品だ。
「おーおー、いい感じー」
夕暮れのゴミ捨て場で一心不乱に手回しハンドルを回すおっさんがいた。
俺だ。
さて、弁明をしておこう。
まずは、なぜゴミ捨て場で作業をしていたか、かな。
要するに、アースクリエイトでものを出すには、地面の上で直に作業しなければならない、という縛りがあるわけだ。
宿の部屋でやろうとしてもできないんだな、これが。部屋があるの二階だし。
すでにあるものの形を変えるだけなら問題ないのだけれど。
それで、いい具合に人も少なくて、それなりの広さがあり、目立たない場所、がゴミ捨て場だったわけだ。素材も落ちてるし。
なお、コイル部分をたくさん作ろうとしたときに、新しい気付きがあった。
同じものをそのまま作りたい場合に、収納に入れておけば参照できるというものだ。
この機能を使うことで、コイル部分の複製は容易にできたので、予備も含めて多めに作ってある。構造が複雑なものを作るのにはかなり便利と言えよう。
これを、収納コピーと名付けた。
出来上がった手回し式電灯もさっそくコピーする。これで壊れても安心だ。
新しい魔法と機械を手にして、テンションが上がるのは仕方あるまい。
そして、暗くなってくる時間帯に明るい光を出し、一人でブイブイ騒いでいる俺は、目立っていたのだろう。
通りがかったアイリスに見つかったのだ。
もともと、ゴミ捨て場なんて、誰でもやって来て良い場所だしな。
「それで、これは何でしょう?」
「えーと、おじさん、工作の趣味があってね」
「これは何でしょう?」
「あー、うん。明かりを作る機械、的な?」
まあ、見たまんまだしな。
知的好奇心を刺激されたアイリスは圧がすごい。
背中に効果音を背負っているようだ。
手回し式電灯が奪い取られる。
見よう見まねだろうか。ハンドルを回す。
明かりが灯った。まあ、誰がやっても使える。機械とはそういうものだ。
アイリスは無言でハンドルを回し続ける。
「……売ってください」
そう来たか。
「いやぁ、それ売り物じゃなくて……」
「欲しいです」
断りの言葉を言おうとすると、要求を被せてくる。最後まで言わせまいというのか。
「値段とかよく判らないし、つけられないと……」
「欲しいんです」
「あんまり、そういうのは良くないと……」
「ください」
世のお父さんお母さん達は、おもちゃをねだる子供を何と言って諦めさせるのだろうか?
あいにくと、そんな経験のない俺は、折れるしかなかったわけで。
「……あげます」
と、言ってしまった。




