137話 残された仕掛け
おっさん枢機卿はメダルを手に入れたと確信したことだろう。
でも、伸ばした手から忽然とメダルは消えた。
おっさん枢機卿の目には、台座の上ではなく、ガラス面の中に収納されているメダルが見えているはずだ。
完全に蓋をされたそこには手を出すこともできない。
はっはっはー。まんまと騙されおって。
幻覚? 催眠術? 超スピード? そんなチャチなものでは断じてない。
もともと、メダルは台座の中に保管されていた。
そして台座の内部は、パラボラミラーを向かい合わせにした空間になっていたわけだ。
パラボラっていうのは、衛星通信の電波を受けとる時に使われる曲面のことね。
それを鏡にして向かい合わせにし、片側の中央から覗くことができるようにすると、内部に入れた物体が外に置いてあるように見える。
目の錯覚を利用した現象だが、その様はまさに立体映像と呼べるほどの代物になる。
初めて見たら、そりゃ騙されるってもんよ。
「ベルンシュテルン枢機卿を取り押さえよっ」
事ここに至ってはすでに弁明の余地もない。
こうして、裁判は終わりを告げた。
勝敗は戦う前から決まっているってね。
ヒース君パパがこっちの味方なんだから、楽な勝負だったなぁ。
さて、こうして俺たちは無罪となり、おっさん枢機卿は更迭されるという結果となった。
しかし、事態としては芳しくはない。
タケル君の安全は確保したものの、その友達の行方は依然不明。というかあからさまに敵対する次第となった。
なお、大怪我をしたかに見えたタケル君だが、本当に大怪我をしていたらしい。
ピンピンしているのは例の奥の手のおかげ。
その名も大黒丹。
指で摘まめるくらいのサイズであるその黒い粒を飲み込めば、怪我も病気も治るそうな。
……うらやましい。回復手段だと?
大黒様って、どれだけ万能なんだよって話だな。
まあ、見た目は腹痛に良く効く臭いの強い薬みたいだったけども。
何故か歯痛にも効くやつ。
ま、それはともかくとして、現在必要なのは現状の把握と情報収集だ。
という訳で、中庭に作られた東屋で面会をしてもらっている次第である。
相手は、ヒース君パパともう一人。
パルテノン神殿あたりでブルータスに裏切られそうな雰囲気の大柄な男性。
超人の閻魔様と言うか。
「うちの子が世話になったようであるな。感謝するである」
と、その大男は俺に向かって頭を下げてきた。
「えーと、うちの子というのは……」
「メイベルのことである。顔を見せるである、メイベル」
大男がそういうと、東屋の横に立つ木の枝葉から光の粒がこぼれ落ちてくる。
それは小さな女の子の形をとった。
「お父様。しばらくぶりでしゅ」
俺の膝の上でにっこりと笑うのは、北の大地に居るはずのメイベルであった。
「我ら世界樹は、世界樹のある場所であれば姿を形作ることができるのである」
えーと、つまりこの庭に生えている隣の木も世界樹で、その木を通して北の大地にある若木であるメイベルと話ができる、と?
そうすると、この大柄な男性は……。
「そして、彼が世界樹そのもの、ということになりますな」
「御館様でしゅ」
ヒース君パパとメイベルがそう教えてくれた。
頭を下げたままだった世界樹さんであったが、さらにもう一つ頭を沈める。
「重ねて、お詫びするである。エルフの娘には、そなたの試しと見極めを頼んでいたである。こちらの勝手な都合で不快なこともあったやも知れぬ」
「世界樹の使命はこの大陸を外敵から守る事でしてな。異物である貴方に対しては害のあるものかどうかを見極める必要がありました。悪意ではないのです」
とヒース君パパが続ける。
「もっとも、害意となるかどうかは見極めの結果次第ではありましたが」
「結果は既に得られているである。我らはお主を受け入れるのである」
こっそり監視されてたってことか。
まあ、懸念だった教国からの干渉問題が解決したと思えば良いのかな?
いや、教義がどうとか言ってたし、上はともかく下の方が暴走する危険はあるのか。
それで、エルフの娘って……エレメアの事だよな、やっぱり。
試し? 見極め?
あいつのあの態度と行動は、本人の素だと思うぞ?




