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第58話  Child prey

ふたつの拳が強烈な衝撃波を走らせる。

そのために、アニミストとアーリマンの間でたちこめていた闇は一斉に散り散りとなって吹き飛んでいく。これによって、えらく闇の中に沈んでいた、互いのオーガのおぞましき表情が、はっきりと浮かぶようになるのだ。にらみつけるような鋭い眼光が、それぞれ互いの敵をしっかりと捉えるのだ。

彼らは、目の力のみで牽制し、威圧し、挑発する。そのためか、ふたつの間には何者にも付け入る隙のない不気味な沈黙が渦巻いていた。


「アニミストを完全に腐らせたってわけか。これでは、俺が圧倒的に不利だな」


アーリマンの外法封じによって、アニミストの機能のうち、大半がその機能を失ってしまうことになったのだ。とりあえず、なぜかアニミストのコアであるメンタルスフィアまで機能停止には陥っていないのは、なんとも良心的ではあるのだが・・・。それでも、主力兵装のほとんどを外法規則に頼っているアニミストは、空手に等しい状況にある。


「圧倒的に不利ってことはないよ。だって、アーリマンのせいで外法に頼れないのは僕も同じだからね。もっとも、アーリマンは、物理属性による戦闘において最強のオーガとして設計されているんだ。本来、オーガは、対オーガ戦闘を想定してはいないから、外法封じなんてあっても何の意味も無いんだけど・・・。でもね、このアーリマンは完全に対オーガ戦を、特にアニミスト対策をねらいとして設計されている。だからいかにアニミストといえど、現状の戦闘能力でいえば、君はアーリマンにはるかに劣っているんだよね」


そう、彼の言うとおり、拳をひとつ交えただけでアーリマンのパンチ力の方が圧倒的に強いのは、決してお世辞ではなくて、明らかなる事実であった。なにせ、向こうは大したダメージを負っていないのに、こちらは右腕が使い物にならなくなってしまっているのだから。そもそも、アニミストは、肉弾戦を想定していないのだ。


「なるほど。お前のアーリマンは、オーガでありながら、対オーガ用のいわば、アンチ・オーガだな・・・」

「そう言われるのは心外だな。だって、まともにアニミストなんかと戦ったら絶対に僕が負けちゃうもん。これも立派な戦略というもの。だけど、こうやって外法規則を無効化すれば、君と思う存分に戦える。君と最高の殺し合いができるんだ」


ノイは、涎を垂らしそうになりながら、アーリマンにファイティング・ポーズをとらせる。


「お前・・・、どうしてそこまでして俺と戦う必要があるんだよ。少なくとも俺は、お前と戦う理由なんてどこにもない」


そんな準備万端のノイに対して、団堂は、彼の出鼻を挫くように言う。それを聞いたノイは、やはり出鼻を挫かれたらしく、せっかく準備したファイティング・ポーズを取りやめて、前のめりになってしまう。なんともしらじらしいノリ突っ込みであろうか。


「どうしてって・・・、君と戦いたいから・・というのは答にはなっていないかい?そもそも、戦いに理由なんて必要なのかな?」


ノイは、団堂の気持ちが理解できず、ボリボリと頭を掻いた。


「ふざけるな。これは、スポーツとは違うんだ。理由もないのに、お前を殺すことなんてできるわけがないだろう」


どうしても戦おうとしない団堂を前に、ノイはとうとう腕を組んでしまう。


「どうしたんだよ、先生。う~ん、どうにもまいったなぁ。もしかして、僕のことを心配してくれているの?もしそうだったら、はっきりいって愚問だよね。どっちにしろ、袴田先生がチャプター9によって、僕ごと消去しちゃうんだからさぁ。本当に僕のことを考えてくれているのなら、むしろ全力で僕を殺しにきてくれたほうが、僕はうれしいよ」

「お前の都合なんて知るか。これは、お前を殺したくないっていう、俺個人の都合だ。だから、そこをどけ。ていうか、お前、前に俺に言ったよな。友達の願いは絶対だって。これが、その願いだ。早くどけ」


ノイの熱心な説得に対して、団堂は、いつぞやノイ自身が使った論理を持ち出して、すぐに切り返しの反論をし、彼に食い下がった。


「先生、ここでそれを使うなんてずるいよ。確かに、友達の頼みを聞くのは、友達としての義務だよね・・。それは、僕が君に対して言ったことだよ」

「ならばそこをどけ」

「でもね・・。ゴメン、先生。その頼みだけは聞いてあげることができないんだ。本当に、ゴメンね・・・」


そういいながら、ノイは、改めてファイティングポーズをとった。


「ノイ!」

「だから、もし君に戦う理由がないのなら、僕が作ってあげる。僕が君を全力で殺しにかかって、君を強制的に戦わせる」

「そんな挑発には乗らない。俺は、お前がオーガの執行官だとしても、滅ぼされなければならない者だとは思わない。お前はまだ子どもで、いくらでもやり直しが利くんだ。そんなお前と殺しあう意味が、いったいどこにある?」

「先生・・・、君に僕の何がわかっているというんだい?いや、やっぱり君は、僕のことを何一つわかっていない。先生が知っている僕は、あくまで偽りの僕。ただのひとりの人間として、社会性という仮面によって、その本性を隠蔽した僕さ。本当の僕は、ヒトという生き物の邪悪そのもの。そう、このアーリマンのように非情で、残忍で、冷酷な悪魔さ。何よりも自分の欲望に忠実で、自分の目的のためならば何だってする。たとえば・・そうだねぇ・・・」

「・・・・」

「ちょっと話は長くなるんだけど、ひとつ、君にいいことを教えてあげようか。実はこのアーリマンの花粉は魔の媚薬でね、ヒトの精神に作用し、狂気を掻き立てる効用があるんだ。そう、あれはたしか・・ソウルで君とシックスが戦っていた時だったかな。君が伸びているときにアニミストの中に大量に積んでおいたんだけど、よく効き過ぎちゃって、オーガに乗るヒトは、殆どみんなおかしくなったでしょ。あれ、全部、僕の仕業なんだ」

「じゃあ、俺があのとき、異常な行動に出たのも・・お前の仕業だっていうのか?」


団堂は、あのときのゾッとするような感覚をはっきりと思い出していた。心が闇に沈み、怒りなのか、狂気なのか、圧倒的な絶望が自分に襲い掛かってくる気分が再生産されるのだ。


「そう。おかげで、圧倒的に不利だった君も、シックスのアホを打ち殺せたわけだし、アニミストの覚醒もなされたというわけ。感謝してよね。まあ、でもそのせいで、団堂先生、君は君の大切なヒトを、まさにその自らの手によって、ばらばらにしちゃったわけだけどね。あはははははははははははは・・・・」


ノイは、団堂を見下し、蔑み、あざ笑う。


(なん・・だと・・・)


ノイのささやくような、それでいて呪文のようなその言葉は、団堂の心を鷲掴みにして、彼の記憶の中に刻銘に刻まれた、ばらばらになった詩季の姿を蒸し返し、半ば強制的にフラッシュバックさせていた。

切り裂く肉の感触、噴出す大量の鮮血。握りつぶされたようなコクピットの中で、血の海に沈んでいた彼女の見るに耐えない姿。


(ノイ・・・お前が・・俺の・・敵・・・)


眼球が血涙に埋もれてしまったのか、それとも脳全体が燃えるような深紅の怒りに支配されているのか、団堂の目の前は真っ赤になる。とにかく身体が熱い。心臓部分が燃えているのか、全身が熱くて、手足が震える。呼吸が荒くなる。いったい、何なのだろう。この気持ちは・・・。身体が、熱くてたまらない。まるで、これは自分の身体ではないようで、地に足が着いている気がしない。しかし他方で、客観的に自分を見ている自分がいて、でも、熱くなった身体を止められなくて、手をこまねいている。


「あはははははははははは。あははははは。愉快。愉快。あはははははは・・・・」


空間が爆砕する。雷鳴が一瞬轟くような音がなったのだ。

そう、何も考えられなくなった団堂は、いつのまにか、無意識にもアーリマンをぶん殴っていたのだ。そのため、大爆笑をしていたノイの叫びのような笑い声も急停止する。

アーリマンの細い身体が、大地に叩きつけられ、3~4回バウンドし、そこで止まる。

少し油断していたノイは、突然の強い衝撃に口内を噛み、口の端から血が垂れる。だが、その反面、彼の表情は怖気がするほどの歓喜に満ちていた。


「やっと、戦う気になってくれたんだね。そう、彼女の死も、君の覚醒も、全てはこの僕が仕組んだ罠だったんだ。この僕が、何も知らない君をして、意のままに君を操り、君の大切なヒトを自らの手によって殺させたんだ」


アニミストの一撃によって、アーリマンの右頬の部分がひしゃげ、その勢い余り、後方へと仰け反りながらアーリマンは吹っ飛んでいく。その最中であっても、中のノイは、団堂が自分のことをようやく仇名すべき最悪の敵と認めてくれたことに喜び、ただただその事実に酔いしれていた。


「ノイ!お前は・・お前はぁぁぁぁ」


アニミストは、疾風怒濤のごとく追撃する。彼の前にいる物体は、紛れもないオーガなのだ。善きものを否定し尽し、正義を蹂躙する、まさに最凶のオーガ。魔性の極みたる、悪の権化。

滅ぼされる必要のないオーガだと?なんと、馬鹿げたことを抜かしたものだ。こいつは、直ちに消されなければならない。正真正銘、世界にとっての害悪だ。もっと早く気づくべきであった。情けなど、こいつに意味も無いし、必要も無い。除去せねばならない。一秒でも早く、この世界から消さねばならない。このアーリマンとは、団堂にとって、最優先に仇名すべき敵以外のなにものでもなかったのだ。


「そうだよ、団堂曹士。君の敵は、ここにいる。僕はここにいる。だから、もう言葉は要らないよね。君の叫びが、君の拳が・・・、君の想いを、君の怒りを教えてくれる」


ノイは、それ以降、まだあどけなさの残る子どものような仮面を取り外し、アーリマンの執行官としての恐ろしいほどに冷たい表情へとその表情を変えた。

見つめられたものを切り裂いてしまうようなノイの冷酷な瞳は、冴えた洞察力を駆使して、迫り来るアニミストの動きをしっかりと捉える。戦闘のために純化したノイの感覚は、するどいナイフのように研ぎ澄まされ、アニミストの音速の動きを正確に追っていく。


すっと、音もなくアニミストの右腕から打撃が繰り出される。だが、基礎部分が粉々に破壊された右腕の攻撃など、頑強なる肉体を持つこのアーリマンにとって、もはやおそるるに足らない。このまま、その右腕ごと、アニミストの顔を粉砕してやればいい。

そう考えたノイは、アーリマンを右足から踏み込ませて、強烈な左ストレートを叩き込む。


「なに?」


だが、右足を思い切り踏み込んで、アーリマンの顎が下がったところ、予想もつかないところから、その下がった顎を目がけてアッパーが飛んでくる。気づいた頃にはもう遅かった。


「がぁっ・・」


アーリマンは、下から突き上げてくるような強打を顎に受け、そのまま全身を揺さぶられながら、天に舞う。完全に不意を突かれたノイは、迂闊にも突然の衝撃に舌を噛む始末。大地震のような縦揺れの振動に蹂躙される中で、それでもノイは、アニミストを見る。すると、それには背中から2本の隠し腕が伸びていることに気づく。


(なるほど。右腕は囮か。そして、僕の一撃を読んで隙だらけの僕の顎に、隠していた腕で一発いれたのか。そういえば、アニミストには腕が4本あったんだっけ)


アニミストにとっては、格闘が不向きであるとはよく言ったものだ。武装としての外法を封じられているのに、肉弾戦最強のアーリマンに対し、その肉弾戦においてさっそくクリーンヒットさせるとは。なんとも末恐ろしいオーガであろう。


「ノイ!これで、とどめだ」


ノイが感心していると、上にふっとばされたアーリマンを目がけて、容赦なくアニミストが跳躍する。


(さすがに、次の攻撃はもらいたくないな・・・)


危機を察知したノイは、アーリマンの背中にある鋼鉄の羽を瞬時に折りたたみ、再び蕾の形態へと戻る。これによって、アーリマンは一瞬にして鋼鉄の鎧を纏うことになる。


「く・・・」


アーリマンをめがけて繰り出された、アニミストの拳は鉄壁の花弁を前にして完全に砕かれる。とんでもない装甲を誇るその鎧は、物理攻撃の一切をものともせず、傷ひとつ負わすことすらかなわなかった。

頑丈な壁に逆にやられたアニミストは、一瞬、上空でよろめく。ノイは、この期を逃さず、蕾の底部から数本の触手を槍のように突き出して襲い掛かる。団堂はこれを回避しようとするも、よろめいていたほんの一瞬の隙が命取りとなり、アニミストに数本の触手が突き刺さった。


「まだだよ、先生・・・」


両肩や、腹部を貫通した触手を通して、何かがアニミストの体内へと送られる。


「ちくしょう、これはいったい?」


団堂は、モニター画面が一斉に悲鳴を挙げたために、それに目をやった。すると、両腕及びその他の箇所における神経回路に深刻なエラーが発生しているようなのだ。確認のため、エラー箇所を動かそうとするも、殆ど反応がない。どうやら、精神的なリンクシステムが、何らかの方法によって断線したものと思われる。


「さあ、どうする先生?今、君のアニミストの中には、アーリマンの猛毒が駆け回っているよ。この猛毒が、オーガの体内に充たされた時、君のアニミストはその機能を停止し、終わる・・・」


猛毒。アーリマンの触手を通してアニミストの体内に送り込まれているのは、謎の猛毒。

そう、綺麗な花には毒があるのだ。その美しい花弁の鮮やかな色彩は、見るものの心を奪い、誘い出す。そして、花に取り込まれたが最後、いつのまにか花の毒によって、身も心も侵され、ゆくゆくは花の餌食となるのだ。今のアーリマンの姿は、まさにその危険喚起の標語を如実に物語ってくれている。


「くそ・・。どうすれば・・」


団堂は、この触手から逃れるため、かろうじて動かしうる部分でただもがく。しかし、しっかりとアニミストの身体に突き刺さった触手は、容易に離れることはなく、アニミストの身体を次々と侵食していく。アニミストの全身に行き渡るエネルギーも、枯渇を始め、モニター上のエラーはさらに深刻を極める。


「どうしたの、先生?これで終わりなのかい?残念だなぁ・・・。君の大切なヒトを殺した敵が、すぐ目の前にいるというのに、君はその程度の力しかだせないんじゃあ。ねぇ、団堂先生・・・。あはははははははは」


アーリマンの鋼の花弁に篭りながら、ノイは、団堂に対して圧倒的となった状況に笑いが止まらないでいる。そして、彼はただ悠然と余裕を振り撒いて、手を拱いてばかりいる団堂を、見下し、挑発するのだ。


「ノイ!お前はぁぁぁぁぁ!」


団堂の脳裏に消えない傷となって保存されていた詩季の記憶が、血のように赤黒い映像となって団堂の頭の中で飽和する。それは、彼の思考回路を溶解させ、機能不全にさせるに十分な威力がある。そして、完全に頭に血が昇った団堂は、とうに外法が使えないことも忘れて、毎度の必勝パターンにのっとり、必殺のニルヴァーナを放つ。

もちろん、ニルヴァーナの遠隔操作司令は外法規則に基づく効果である。だから、外法封じが支配するこの戦場では、団堂の遠隔操作司令はニルヴァーナに届くはずはない。

しかし。


「しまった・・・」


ノイの慌てる声が聞こえる。うっかり、敵に反撃を許してしまったという声だ。

外法が使えないはずのこの空間で、間抜けにも外法を使用した団堂の暴挙に対して驚く声ではない。

そう、動かないはずのニルヴァーナが、壁に突き刺さったまま止まってしまった5本のニルヴァーナが再起動し、触手に犯されているアニミストを助けに来たのだ。


「ニルヴァーナ、コイツを切断しろ」


それは鋭い刃となって、アーリマンの太い触手をいとも簡単に切断した。そして、切断された触手は、地に落ちて、猛毒を撒き散らしながらのたうちまわる。拘束がとかれたアニミストは、ややよろめきながらも、かろうじて立っていることができた。どうやら、頭に血が昇って暴挙にでたことが、結果的にはよかったらしい。


「助かったのか・・・」


次第に、アニミスト体内の浄化作用が機能を開始し、毒に侵された身体の不自由も緩やかに回復を始める。


「く・・・逃げられたか」


アーリマンは、すぐに触手を仕舞いこんで、もとの人型に変形する。再びあの、おぞましくも美しい巨大な蝶の羽が開くのだ。


「ゆけ、ニルヴァーナ」


3本のニルヴァーナが、鉄壁を解いたアーリマンの下へ向かっていく。3本のニルヴァーナは、死肉に群がるハイエナのように、アーリマンの柔肉にかみつくのだ。だが、アーリマンは、避けようとしない。


「無駄だ!」


ニルヴァーナがアーリマンに到達した瞬間、それらはまるでジャミングをかけられたように、それぞれ目標を失って、加速を失い、重い音を出して地に落ちた。どうやらまだ外法封じの効力は死んでいなかったようだ。

しかしながら、それを見た団堂は、あることに気づくことができた。


(やはり、外法封じは生きている・・・。とすれば、あのときだけ、外法封じが死んでいた、ということになるな)


それはいったいどういうことなのか。

答えは簡単だ。強力な外法封じを発動させるためには、一定の条件が必要なのだ。そして、一瞬、外法封じが効かなかったのは、必要な条件を充たしていなかったからだ。

では、その条件とは何だ。

アーリマンの蕾形態。強力な装甲と、恐ろしい猛毒を持った触手による攻撃を持つ、一見隙のない形態。

仮に、外法が使えないとすれば、あの圧倒的防御力を前にして、アニミストは為す術もなかったであろう。あの形態のままで攻め込まれていれば、アニミストに勝ち目はなかった。なのになぜ、アーリマンは、絶対的有利な状況で、あえて人型に戻ったのか。

それはおそらく、人型でなければ、外法封じを発動できないからだ。きっと、あの羽が撒き散らす燐粉にこそ、外法封じの秘密があるはず。

そう、裏を返せば、蕾形態のときには、アニミストは外法が使えるのだ。アニミストの外法を使えば、あの装甲であっても、破壊することは容易だ。


「ふ・・・」


団堂は、ノイに気づかれないように、静かに嗤った。なんという皮肉であろう。あまりに粋がいいはなしで笑えてくる。圧倒的な装甲により、傷ひとつ付けることすら許さない鉄壁の城。分厚い鋼の花びらをこれでもかというほど重ねたアーリマンの蕾形態。だがそのときこそ、アーリマンは自らの急所を曝け出していたのだから。これを皮肉と呼ばずして、なんと呼べばよい。


(ならば勝機は、次にアーリマンが蕾に戻ったときか)


団堂は、手元に残しておいた、2本のニルヴァーナを手に取り、二刀流とする。


(おそらくは、あの羽から出ている花粉が外法封じの原因だろう。それなら、花粉の触れられないアニミストの動力源には作用しないはずだ。そしてそれはニルヴァーナの動力源も侵されていないことを意味する。ならば、これを手に持っている限り、ニルヴァーナの力をほぼ100パーセント引き出すことが出きるはず)


遠隔操作は封じられているとはいえ、その攻撃力は未だ健在なのだ。これを使わない手はない。ついさっきまでは、すっかり忘れていたが・・・。とにかく、アーリマンにとって完全有利のインファイトを制するためには、こちらもエモノを使用するしかない。


(あとは、どうやって蕾形態に戻させるか・・・)


外法封じが効かなくなるという最大のデメリットがある以上、人型での対応が可能である限りは、やつは絶対に蕾にはならないはず。だから、アーリマンが蕾にならざるをえないほどの猛攻を加えてやればよい。しかし、インファイトにおける戦闘能力では、圧倒的にアーリマンが有利だ。こちらが、やつのガードをくずすことは困難。さっきは隠し腕による不意打ちが成功したからよかったものの、今度は同じ手を喰らうはずもない。


(しかし・・やるしかない!!)


団堂は、腹をくくり、ゆっくりと細い足で歩きながら近づいてくるアーリマンを見た。


「ふふ・・、ニルヴァーナ。アニミストの最強にして最悪の外法生物兵装・・・。それを手にしたということは、本気で僕を殺しにくるつもりなんだね」

「そうだ、ノイ・・・」


団堂が返事をして数秒の沈黙。

そして、ふたつのオーガの足元が爆砕し、距離を詰め合ったふたつのオーガは、クロスレンジで交差したのだ。


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