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附録  外法学入門

本章は、物語と直接関係はありませんが、読者様が本編をよりよく理解できるよう、専門用語の解説を載せました。今後、専門用語が当然のように使用されますので、ひととおり目を通して頂くことをお勧めいたします。

今日は、事務所の会議室に従業員の一同が集まり、弥生遼子による『外法学入門講義』が行われていた。


「社長、これマジでやるんすか?」

「アタシ、勉強は無理っすよぉ」


辰巳とグレイはそういって、だらだらと机にへばりついてしまった。


「今から教える知識は、あんたたちがこれから上級の鬼と戦っていくうえで必要不可欠だから、やんないとダメよ。まあ、死にたいのなら別だけど」

「はぁい、わかりましたぁ」


辰巳は、だらしなく返事した。


「じゃあ、さっき配ったテキストの3ページ目を開いてもらえる」


弥生がそういうと皆、該当ページを開く。そこにはこのような記述があった。

  

1 物理と外法

  物理とは、物理法則が適用されるものをいう。これに対して、外法とは、物理法則を無視し、外法規則が適用されるものをいう。

  両者の区別は、属性の区別において重要である。

  

2 実物と虚物

  実物とは、現実に存在するもの一切のことをいう。平たく言えば、実体があるものを実物という。

  これに対して、虚物とは、実体として現実に存在しないものと定義する見解もあったが、虚物には可視的なものや、触覚で認識できるものもあるので、この見解によると虚物に含めることのできない領域が生じてしまう。そこで、積極的に定義することは不可能であるとして、虚物を実物でないものと消極的に定義する消極説が通説である。

  この2者の分類は、後述の属性とならんで、攻撃能力や防禦能力にかかわってくる。


3 属性

  属性とは、対象へ攻撃をいかに到達させるのか、という手段に着目した分類である。

  属性には、『物理属性』と『外法属性』がある。

  物理属性は、物理法則にしたがった攻撃手段のことである。他方、外法属性とは、外法規則にしたがった攻撃手段のことである。

  したがって、一見、魔法のような攻撃手段であっても、それが物理法則にしたがってなされる限り、それは物理属性である。その逆も然りである。

  なお、属性とは、実物や虚物よりも下位の概念であり、実物にもかかわらず外法属性ということも当然にありうる。


4 方法

  方法とは、攻撃にいかなる効果を付するかという、効果に着目した分類である。

  現実には、人をナイフで刺せば傷害あるいは死という効果が当然に生じるのであるが、外法学においてはそのような常識的な結論が生じるとは必ずしもいえない。たとえば、人をナイフで刺しても、病気が治るとか、ノイローゼになるとか、ここでは当然にありうる結論である。すなわち、ナイフで刺すという行為は属性に関わる領域であるのに対し、傷害ないし死亡という結果は方法の領域であって、両者を考えるにあたっては、完全に論理法則や因果関係を切断して考えねばならない。だからこそここで、『方法』として、効果を独立に論じる必要があるのである。

  方法には、『物理方法』と『精神方法』がある。もっとも、客観方法と主観方法と呼んでもよい。

  物理方法は、物的なものに対する攻撃方法である。これに対して、精神方法とは、心的なものに対する攻撃方法である。精神吸収攻撃は後者に含まれると解される。


5 攻撃の種類

  攻撃を構成する要素としては、大きく分けて属性と方法のふたつがある。外法学における攻撃は、必ず何らかの属性と方法に属している。そして、その種類はまず、属性によって分類され、さらに方法によって分類されることにより、その性質が決定される。

  そのため、単純に考えて、4通りの種類が存在する。

  すなわち、物理属性物理方法攻撃、物理属性精神方法攻撃、外法属性物理方法攻撃、外法属性精神方法攻撃の4つとなる。


6 攻撃能力

  攻撃能力とは、攻撃による効果を対象に与え得る、攻撃手段としての資格をいう。

  攻撃能力が否定されると、いかに攻撃力が高かろうとも、攻撃を与えることができないで排斥される。これは、攻撃能力が手段にかかわる要件であって、効果発生前の手段の適否の段階で攻撃が排除されてしまうということの帰結である。

  攻撃能力を否定する方法としては、各種属性攻撃無効シールド、各種属性攻撃反射シールド、各種属性攻撃吸収シールドなどがある。

  このことから、攻撃能力と密接に関係があるのは攻撃の属性であるが、実物による攻撃一切を無効にする対実無効シールド、その逆の対虚無効シールドなどもある。いずれも属性とは無関係である。


7 攻撃力

  攻撃力とは、その攻撃に付された効果のことである。

  攻撃能力が認められてはじめて、攻撃の効果として攻撃力が対象に現れる点で、攻撃能力とは混同しないように注意したい。

  攻撃力の場合、攻撃能力のようにそれがあるかないかで決せられない。ここは、量の問題である。

  攻撃力を減殺する方法としては、各種方法攻撃ガードバリヤがあり、効果を弱めることができる。


「あの、社長」


突然、辰巳が挙手をした。ところが、彼女の目は死にかけているようである。


「はい、なんでしょう」

「全然わからないです」

「わからないじゃなくて、死ぬ気で理解しなさい」

「そんなぁ、こんなの誰も分かりませんって。ねぇ、まもる?」

「え?私は、よくわかったよ。はるきちゃん、本当に戦うことしかできないんだね」

まもるは、辰巳に対して嫌味ったらしい笑顔をふりまいた。


「まもるのくせに、アタシをコケにするなんざ100万年早いんだよ!!」


当然に辰巳はぶちぎれて、まもるの胸倉を掴み上下に大きく振った。


「ごめんなさい。ごめんなさい」

「こら!辰巳春樹、やめなさい」

「ちぇ」

辰巳は、掴んでいたまもるを突き飛ばした上、彼女に対して舌をだした。


「あと、来週にテストをしますが、これで合格点に満たない者は、『あいちゃん』と一緒に残業を無給で手伝っていただきます」


それを聞いた辰巳は、一気に青くなってしまった。完全に血の気が引いてしまい、失神しそうになる。


「マジすか?社長、それだけは勘弁してくださいよ」


辰巳が弥生に泣きついた。


「私は知らないわよ。お友達と協力したら?」


辰巳は、先ほど自己の暴行の対象となった、まもるを見る。


「グレイ、わからないところある?」

「おう、助かるぜ、まもる」


そして、まもるは辰巳をニヤニヤした顔で見ていた。やられた、このアマァァァ。まさに江戸の敵を長崎で討たれたのである。


「まもるさま、私が間違っておりました。どうか、教えを乞いたく存じます」


しかし、背に腹はかえられないと、辰巳はまもるに対して土下座をしたのである。


「しょうがないなぁ、はるきちゃんは。グレイ、どうする?」


この女、なぜそこでグレイに同意を求めるんだ。


「どうすっかな、なんかおごってくれるんじゃね?」


この男も、棚から牡丹餅の分際で、ふざけたことを抜かしやがる。本当に、こいつら性格最低だ。


「はるきちゃん、おごってくれるんだ。何にしようかな」


おい、おごるなんてひと言も言ってねぇよ。


「500円までにしてください」


しかし、拒否はできなかった。テストがおわったら、覚えていやがれ。


「おいおい、ワンコインじゃ、せいぜい吉野家がいいところだぜ」


お前、本当に黙れ。このシスコンが。


「でも、あんまり高いところいくとはるきちゃんかわいそうだよ」


金がない辰巳にとって、その発言は助かるが、同時に辰巳が貧乏人ということを前提としている点でむかつく。


「本当に勘弁してください。まもるさま。ごめんなさい」


辰巳は引き続き土下座した。


「うそだよ、はるきちゃん。ほら、みんなでコーラでも飲みながら、勉強しよう」


そういって、まもるは手を差し伸べてくれた。


「まもるさま・・」


辰巳の目には涙が浮かんでいた。ちなみに辰巳は、コカ・コーラが大好きである。このとき、辰巳の目にはまもるが、コカ・コーラに見えていた。


「うん、行こう」

「はい!」


そういって、3人は会議室を出て行って、近くのコンビニへと向かっていった。


「はぁ・・」


最後にひとりのこった、弥生遼子は大きくため息を吐いた。

  

  挿絵(By みてみん)


  注:挿絵はゲイボルグ・Dです。

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