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第13話  赤き守護者

ちょうどナインと辰巳春樹が空中を飛んでいる頃、詩季とまもるのペアは、ちらほらと襲い掛かってくる鬼を駆逐しつつ、みなとみらいを陸上移動し、山下公園にまもなく到着しようとしていた。到着予定地点の様子はいまいち黒煙でわかりかねるが、弾がたくさん飛んでいるのでナインたちは交戦に入ったのだろう。ちょうど、その時、ふたりを見つけたグレイがそこに降りてきた。


「わりぃ、燃料頼むわ」


ゲイボルグは青鬼の討伐のため飛び回っていたのであろう、エネルギーが残り少なくなっていた。まもるは、幾層もの装甲板をオープンすると、その中に大事そうに保管していたBW社製エネルギーパックを取り出す。詩季は、まもるからエネルギーパックを受け取ると、ゲイボルグに詰め替える作業を行う。


「グレイ、バックパック開けてくれる?」

「あいよ」


グレイは自分のコクピットで何やらパネルを操作し始めた。すると、ゲイボルグの背中のバックパックがパカっと開く。


「グレイ、そっちはどう?」


詩季は、古いエネルギーパックを取り出しながら、グレイに問う。


「ああ、空の奴ならもう片付けたぜ」

「さすが、グレイとゲイボルグだね」


まもるは、詩季から古いバックパックを受け取り、自己の装甲内部にしまいこみながらいう。


「あんな奴ら、マジで大した事ねぇよ」


グレイは、照れ隠しにそうは言うものの、まんざらでもないような表情を浮かべた。


「あとは、ナイン君がうまくやってくれればいいけど・・・」


最後に、詩季はゲイボルグのバックパックを、車のトランクを閉めるようにバタンと閉じた。その時、山下公園のほうから強く、そして巨大な閃光がほとばしった。その衝撃波は、数秒してこちらにも到達するほどである。


「おい・・・やべぇぞ、あれ」

「まさか・・ナイン君・・」

「はるきちゃん」

「みんな、急ごう」

「うん」


今まで見たこともないようなとてつもない衝撃に不安を募らせる3人。しかし、ナインたちの無事を祈りつつ、彼らは赤鬼がいると思われる、山下公園へと急いだ。


(二)

ほぼ同刻、弥生遼子と西田武彦は特殊な任務をこなすため、赤レンガ倉庫に来ていた。


「隊長、こんなところで一体何をなさるおつもりで?」


弥生は応えない。正確には、いま自分の目的がよくわかっていないため、応えられないといったところか。代わりに弥生は、西田に問い返す。


「やっぱり、いないのかしら?」

「何が、でしょうか?」

「横浜を探索しても原型が残っている建物なんてここぐらいだったから、もしやプロトオーガでもあるのかと思ってたけど」

「たしかに、ここにもいないとすると、隠れるにしても他に適当な場所はないですからね」


西田の言うとおり、赤鬼の周囲3キロメートル圏内は、ここを除いて人工の建造物は瓦礫と化している。いわんや、プロトオーガをすっぽり格納することのできるような建物はないし、そういった基地らしきものもない。


「これは一体、何を意味するのかしらね」


弥生はその意味するところを考えても答えを出すことはできなかったので、すぐそこにいる西田にそれとなく聞いてみる。


「隊長、それってまさか・・」


西田が突然何かを閃いたようだ。


「何か、わかったの?」

「敵のプロトオーガが俺たちにおそれをなして逃げた!そういうことですね、隊長!!」

「あんた、マジで死んでいいわよ」


弥生はこの男に合理的な論理的推理を期待したことを強く後悔した。


「た、隊長が死ねというのなら・・・、御免!!」


西田は泣きながら腹を切る準備に入る。


「ちょっと、西田。ふざけてないで、あれ見て」


もはや西田に突っ込むのも面倒だった弥生は、さらに奥を探索すると、彼女にとって非常に興味深いものをみつけることができた。そう、弥生が指差す先には薄気味悪い研究室があった。なにやらそこは、薄緑色の淡い光があふれて、怪しい様子に包まれている。


「あれって・・、まさか鬼か・・」


いや、鬼がいるような音もないし、気配も無い。ふたりは、より入念に警戒しつつもさらに足を奥へと進める。電源などはかろうじて通っているのであろうか、端末などもつけっぱなしであり、つい最近まで誰かがいたようなぬくもりは感じられないでない。


「メンタルスフィア・・・」


大きな研究室の隅にある巨大な培養棟。ふたりは、そこに安置されている鬼の心の輝きを見たのであった。また、その培養棟には幾つものパイプが敷いてあり、どこからかエネルギーを受け取って醸成を促されているように思えた。


「しかも、メンタルスフィアが3つも・・」


さらに、その培養棟の中には精神球体が3つ存在した。なぜこのような場所に鬼の力の淵源たるメンタルスフィアがあるのか。先のなぞと相俟って、この3つのメンタルスフィアの存在がさらに真相解明を迷宮入りにさせるのであった。


「赤鬼のやつはこれでも守ってたんですかね?」

「赤鬼がいるのは山下埠頭よ。そこと此処とじゃ、場所的間隔が大きすぎるわ。とすると、単純に赤鬼がここを守っていたと即断することはできないわね」


もっとも、両地点は決して遠すぎるわけではなく、西田の考え方も成り立たないでない。しかし、仮に赤鬼がここの護衛を任務とするのであれば、なぜもっと倉庫に近い位置で任務にあたらないのかといった不合理な点が生じるのだ。


「だとすると、赤鬼は一体何を守っているんでしょうかね」


人はなにかの目的の下に行動をする生き物であると同様に、鬼にもなにか特段の目的があって行動しているはずである。しかし、それは全く不明なのだ。


「とにかく、ここをもう少し調べる必要があるみたいね」


弥生は知的興奮を抑えられずも、速やかに研究施設内の捜索をはじめた。


(三)

「辰巳!!」


ナインは巨大な衝撃波がすっ飛んでいった方へ目をやる。その時、通信が入る。


「へへ・・せんぱい、ロケランは無事っすよ。けど、ちょっとヤバイかな・・」


赤鬼の攻撃のおかげで、視界がよくなり、後方の辰巳機がよく見える。光の通過コースとそうでないところの明暗がくっきりわかり、辰巳はそのちょうど限界地点にいた。すなわち、ロケット・ランチャーを持っていた右半身は生きているが、左半身はごっそりと消失し、仰向けに倒れては動くことさえできずにいる。

あの状態の辰巳に対して、赤鬼の攻撃がなされた場合、彼女がそれを回避する術はない。したがって、辰巳は絶体絶命という状況にあるのは明白である。


「辰巳、いまたすけ・・」


ナインは赤鬼を背に、辰巳の方へ急降下する。


「くるんじゃねぇ!!」


しかしながら、辰巳はナインに向かって怒鳴り散らすように叫ぶ。


「アンタの任務はアタシの救出じゃない。逆にアタシの任務はアンタの援護なんだよ。それをアタシが足引っ張っちゃ、死んだ方がマシだ、ボケェ!!だから、アタシにかまわずそいつを殺せ!!」


辰巳は目が血走っていた。これは彼女が命を賭けてナインに与えたわずかな時間なのだ。にもかかわらず、かかる辰巳の努力を徒労に帰すような行為は状況を悪くするだけである。


(そうだ、俺は何をしているんだ)


ナインは辰巳の覚悟を愚弄するところであった。辰巳はいつもそういう思いで戦っているのだ。いつも、偉そうに先輩面して辰巳を注意していたが、何にもわかってないのはむしろ自分であったのだ。


「辰巳・・・、死ぬんじゃないぞ」


ナインは再び赤鬼に向かい直る。一刻も早く、射程範囲まで接近しなければならない。もう、チャンスは今しかない。これを逃せば、辰巳は死ぬ。これは、彼女がくれた絶好の時間。そう、強力な攻撃をすれば必ずそれだけのリスクが生じる。その攻撃が強ければ強いほど、その代償も大きくなるもの。この比例原則はたとえ外法であろうが例外なく適用される万能の摂理、あるいは真理である。したがって、今、奴は達磨であると同義。


「やれぇぇぇ!!なぁいぃぃんん!!!!」


力を解き放て。怒りの力を。貴様がいままで葬ってきた人々の無念もこめて。


『胸部大型波動砲発動要件をクリア』


いまは、チャンスをくれた辰巳を守るために。あの鬼を地の果てまで吹き飛ばすのだ。


「くらえぇぇぇぇ!!」


光の力は解き放たれた。先刻、赤鬼が放出したものとは比較にならないほどの分厚い力。それはもはや光の壁か。通過地点に存在するものを全てすりつぶし、破砕する大いなる怒りの力。

赤鬼の上空から繰り出されたその一撃は、赤鬼の巨体を一気に地に叩きつけ、その頑強な装甲を引き剥がし、毟り取って、内部から蒸発を促していく。赤鬼は完全にその光の中に包まれた。それはまるで光の牢獄であり、その中では火炎地獄による処刑が執行されているのだ。

やがて、光が消えると、変わりに黒い煙幕のような煙が赤鬼のいた地点を覆い隠すのである。


「やったのか?」


わからない。少なくとも、あの煙が仮に取り払われたことを考慮しても、あの巨大なラグビーボールのような体積には到底及ぶべくもないので、かなりのダメージを与えることができたのは間違いなさそうである。


「!!!」


何かが黒煙の中から飛んできた。赤い棒らしきものである。ナインは一瞬判断が遅れ、右の羽がそのままもぎ取られてしまう。ナインのプロトオーガはそのまま浮力を失い、地面に着地する。


「これが、赤鬼・・・」


しばらくして、塵が失せると、そこには非常に長く、かつ昆虫のような細い線状の腕を無数に持つ赤い人型の鬼が立っていた。先ほどに比べると明らかに非戦闘形態であると思われる。しかし、今、ナインの鬼から右翼を奪い去ったのはあの手に違いない。多少の攻撃などモノともしないこの鬼の肉を毟り取るということは、相当の強さがあるのは明らかである。とすれば、これこそ赤鬼の真の姿であることがわかった。そう、それはまるで大樹のような鬼といってよい。赤鬼の背中に生えた無数の触手のような細い手は、幾重にも枝分かれし、まさに木の枝のように見えるのである。ただ、真っ赤な大樹などいままでお目にかかったことなどなく、神樹というには程遠く、妖樹のような邪悪さが満ち溢れている。

そうだとすると、なるほど、赤鬼の第一形態は単なるフィルターに過ぎない。前形態で敵を仕留めそこなった時に、変態して第二形態で確実に敵を排除する合理的な戦法。侵入者排除の合理主義者。それが赤鬼の真の強さ。


本当の恐怖はこれからはじまるのである。


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