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理性が勝ったようです

不定期更新です。

※キスシーンがありますので、苦手な方はご退室ください。

 ペンケースに付けたキーホルダー。手のひらサイズのくらげのぬいぐるみ…百合奈がこれが良いと言ったから、お揃いで淡いピンクとブルーにした。図書室の机に参考書を広げ、ペンケースと一緒に並べると、しっくり馴染んでいる。


 水族館の暗闇に紛れて、初めてキスをした。

 …三ヶ月記念日だったこと、百合奈は全然気が付いていないだろうな…まぁ、いいけど…。

 いきなりキスして抱きしめたのに、「もっと」と言われて、俺は心底困り果てた。人目が気になるけど、百合奈を見ると…どうしたって要求に応えるしかない。俺だって、もっとキスしたいし、もっと抱きしめたい。本当は…百合奈を俺の部屋に連れ込んで色々なことしたいけど…心の中をすべて吐き出したら、重過ぎて嫌われる気がする。


 淡いブルーのくらげを、指でつんつんする。

 …はぁ…今日も耐えられるかな…

 初めてのキスは思い出になった方がいいだろうと思って我慢していたけれど、一度してしまうと俺は歯止めが効かないほど、隙さえあれば彼女にキスしてしまっていた。それを怒るどころか無意識に煽ってくる百合奈…もう耐えられなくなる日も近い…図書室の窓から遠くを見つめる。


「よっ、秀才くん!」

「……どうも。」

 目の前の椅子に座ろうとしている高倉先輩が、「赤点でさ。」とニコッと笑う。

「中間テストがやば過ぎて、部活の禁止くらった。」

「はぁ…。」

「試合近かったのに。でも賭けにも負けそうだったから、むしろ良かったかもな。ねぇ、秀才くん、勉強教えてよ。」

「百合奈の試合はどうなるんですか?」

「そこ気になるとこ?林さんに悪いし、試合には出るよ。スマホも止められてて、打ち上げとかも行けないけどなー。」

「なら良いです。」

「この問題教えてよ。明日の朝、提出なんだ。秀才くんっ…お願い!」

「……いいですよ。百合奈の試合、全力出してくれるなら。」

「おう!」

 高倉先輩は意外と飲み込みが早かった。教えるとあっさり課題の問題を解き、再試の準備まで手伝わされる。窓の外は、もう真っ暗だ。



「百合ちゃん、ごめん!遅くなって。」

「ううん、私も今来たとこだよ。」

 百合奈の高校に着くと、正門から部活終わりの生徒がぞろぞろ出てくる。

「百合奈、また明日ね!…あれ?彼氏さんじゃん!友達の朱音でーす。」

「颯くん、テニス部の山本 朱音ちゃん。」

「初めまして。相原です。」

「相原 颯くん!わぁ、近くで見るとさらにイケメン!よろしくでーす。」

「……よろしくお願いします。百合ちゃん、帰ろう。」

「朱音、また明日ね!」

 百合奈と手を繋いで、歩き出す。角を曲がる瞬間、正門の前でさっきの女友達がまだこっちを見ているのが目に入った。


「今日、高倉先輩に勉強教えてた。」

「颯くんが?でも、二年だよね?」

「俺、二年も三年もだいたい終わったから。」

「えぇっ!どれだけ優秀なの?颯くんって、凄いんだね。」

「凄いのは百合ちゃんだよ。今日も昨日の続きやる?」

「うん!今日も颯くんをこてんぱんにする!」

「ははっ…百合ちゃん、天才だもんな。」

 この頃、二人でスポーツゲームにはまっている。意気揚々と帰ると、玄関には鍵が閉まっていて、いつもはいる百合奈の両親が居なかった。キッチンには二人分の夕飯が置いてあり、『ママとパパは結婚記念日なのでお外でご飯を食べてきます。相原くんにご飯食べるように言ってね。』とメモが置いてある。

 夕飯をご馳走になり、いつも通り百合奈の家のリビングでゲームを始めるけど…二人きりだと思うと集中できない。

 百合奈は呑気にソファでアイスクリームを食べながら、「今日すごく下手だね。」と逆撫でしてくる。痺れを切らして、アイスとスプーンで両手が塞がっている彼女を、どさっとソファに押し倒した。

「きゃあ!」

「百合ちゃん…二人きりなの気付いてた?」

「…っん!」

「…甘い。」

 百合奈の唇はバニラ風味だった。赤くなっている彼女の手からアイスとスプーンを抜き取って、机に置く。彼女の顔の横に両手を突くと、身動きが取れない百合奈はどんどん涙目になってくる。

「泣いても駄目だよ。」

「…っんん!」

 覆い被さるように、ゆっくりキスをする。

 …ちゅう…

 百合奈を見ると、薄茶色の瞳がとろん溶けて俺を見つめ返す。額にそっとキスをして、また唇と唇を優しく触れさせる。百合奈の両手が俺のシャツを握りしめ、唇が離れると「はぁはぁ…。」と荒く息をした。

 甘い吐息…俺の腕の中にいる無防備な彼女をどうしようか…理性と欲望がせめぎ合う。


「百合ちゃん、早く大人になりたいね。」


 必死に首を縦に振る百合奈の頭を撫でる。もう一度、ゆっくり唇を押し当て、目を閉じる。

 …ちゅ…ぅう…

 

「大好きだよ。」

「…私も大好き…。」

「アイス溶けちゃった…ごめん。」

「颯くんのいじわる。」


 二人で汗をかきながらゲームをしていると百合奈の両親が帰ってきた。「仲良しねぇ。」と言われ、夕飯のお礼を言い、そそくさと自分の家に帰る。誰も居ない家だけど、いつだって俺は寂しくなかった。目の前の百合奈も大切だけど、俺には最終目標がある…いつか本当の家族になること。

 時の流れを早送りしたい…早く早く大人になりたい。


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