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負傷させたようです

不定期更新です。

 家に迎えに行くと、出てきたのは白地に朝顔が咲く浴衣を着た百合奈だった。髪を緩く結い上げて、ビー玉の簪を挿している。色付きのリップをしているのか…いつも以上に可愛かった。

「颯くん、お待たせ!」

「うん。すごく混むから早めに行こう。」

 浴衣や化粧を褒めたり、凄い可愛いって伝えたかったけれど、ヘタレな俺にはそんなこと出来るわけもない。


 電車に揺れていると、花火大会の会場に近づく度に沢山の人が乗ってくる。色々と下調べはしたけど初めてのデートだから、相当…不安だ。それなのに、百合奈は呑気に俺の肩にもたれかかって寝ているし。

「百合奈、起きろ。そろそろ着くよ。」

「…んん…もう?」

 降り立った駅は、すでに人がごった返していて、思わず百合奈の手を掴む。小さい頃はいつも繋いでいた手が、今は凄く恥ずかしかった。百合奈の手は小さくて、俺の手の中にすっぽり収まっている。カランコロンと音を立てる歩きにくそうな下駄が心配で仕方がない。俺の心配を他所に、百合奈は露店をあちこち見ていて危なかっしい。騒めく人混みの中、耳元に話しかける。

「百合奈、何食べたい?りんご飴は絶対だろ?」

「颯くんは何食べたい?チョコバナナ?」

「ははっ…チョコバナナは百合奈が食べたいものだろ?」


 露店で買い込んで、河川敷に持ってきたシートを広げる。勢いよく食べ始める百合奈の手付きがおぼつかなくて、綺麗な浴衣を汚すんじゃないかと気が気じゃない。案の定、チョコバナナの最後の一口を滑らしたので、手のひらで受け止める。

「…颯くん、ナイスキャッチ!」

「お前なぁ…。」

 手のひらのチョコバナナの欠片を、百合奈がパクっと食べた。残ったチョコレートを俺が舐めると、百合奈がふわっと微笑む。


 …ヒュルルル…………バンッ!


 晴れた夜空に大輪の花火が打ち上がる。赤や青、白や黄色の花火が上がっては消え…見上げる百合奈の横顔が鮮やかに輝く。

「綺麗だね。」

「うん、綺麗…。」

 俺の方を見た百合奈の瞳に、消えてゆく花火が映っている。その後の静けさに息を呑む。


「百合奈…好きだよ。」


「うん…私も好き。」


 また始まる爆音に、二人で夜空を見上げる。手を伸ばすと百合奈の指が絡んでくる。ぎゅっとすると、百合奈もぎゅっとした。体温が混ざって、暑い夏がさらに暑くなる。夢中で花火を見上げた。

「……くん?……颯くん?」

「…へ?」

「花火、終わったよ?」

「もう?」

「うん…どうしたの?」

 確かに、周りの人が皆んな帰って行く。余りにもあっという間で呆然とする。我に返って、シートを畳む。

「遅くなるとまずいから帰ろう。」

「颯くんとなら遅くなっても大丈夫だよ?」

「そういうこと言うな。」

「…ふふっ…。」

 また手を繋いで人混みを抜けて行くと、見覚えのある二年の先輩達がいた。


「林さん??」

「…えっと、高倉先輩?」

「やっぱり林さんだ。今日も可愛いね。すごい浴衣似合ってるよ!」

「ありがとうございます。」

「彼氏?…あれ、もしかして一年の秀才くんじゃん。二人は付き合ってるの?」

「幼馴染で……。」

 百合奈が俺の顔を伺いながら言葉を濁している。ヘタレな俺がちゃんと『付き合って』って言っていないから…そうなるよな。

「幼馴染?…ふっ…なんだ。よかったら林さんも俺達と一緒に遊びに行かない?」

 こっちは手を繋いでるんだから空気読めよと苛々してくる。

「…えぇと…今から帰るところで…。」

「まだ早いから大丈夫でしょ?ちゃんと送ってくから。」

 先輩が百合奈の腕を取ろうとしたから、手をぐいっと引っ張って片手で抱き締める。

「高倉先輩…百合奈は俺のなので、すみません。」

 ぺこっとお辞儀をして、その場から遠ざかろうと足早に歩いていると、百合奈がひょこひょこしているのに気が付いた。立ち止まると鼻緒の回りが赤くなってる。

「…百合奈、足?どうした?」

「ちょっと擦れたかも…。」

「…血が出てる。痛いだろ?ごめん…ちょっとここで待ってられる?コンビニで絆創膏、買ってくるから。」

 俺は慌てて走り出し、コンビニに駆け込んだ。色々と上手く行かない。せっかく可愛く着飾ってきてくれたのに…結局のところ、肝心なことは何一つ言えないし…ましてや痛い思いさせて。はぁぁ〜…俺は混雑した店内で、盛大に溜息をついた。


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