夏祭りに行く約束をしました
不定期更新です。
『今日、スポーツドリンクありがとう!冷たくて美味しかったよ。』とスマホに打ち込みながら、閉めたカーテンを少し開け、颯の部屋を見る。
会いたいし…メールじゃなくて、直接言いに行こうかなと迷っていると、『ピンポーーン』と玄関のチャイムが鳴り、お母さんが私を呼んだ。
急いで階段を駆け降りると、玄関でお母さんと颯が話す声が聞こえる。
「相原くん、百合奈が迷惑かけたみたいでごめんなさいね。あの子、カーテンを開けておく癖があって、何度言っても駄目なのよ。」
「いえ、迷惑とかじゃなくて…っ…元はと言えば、俺がいつも家に一人でいるから、百合奈が心配してカーテン閉めなくなっただけなんで。俺のせいです。」
…今の今まで忘れていたけど、きっかけはそうだったかもしれない。
「あら、そうだったのね。大学受験もあるし、エアコンの付いているお兄ちゃんの部屋に移動させるから、安心してね。」
「えぇっ!?…そんな…百合奈の部屋にエアコン付けてあげて下さい。俺、家庭教師のバイトしてるので、金出しますから。」
…家庭教師のバイトなんて優秀な颯らしい。颯のこと、知っているようで何も知らないなぁ…。
「ふふっ…相原くんにそんなことさせられないから、パパに相談してみるわね。」
「はい、お願いします。」
深々と頭を下げる颯に、お母さんはニコニコしながら「大丈夫よ。」と声を掛けている。
「……颯くん、どうしたの?」
「あっ、百合奈。コンビニ行かない?俺、アイス食いたくて。」
「うん、いいけど…。」
お母さんに五百円玉を貰い、「夕ご飯までに帰ってきなさい。仲良し復活したの??」と耳打ちされて、すごく恥ずかしくなる。早く私から会いに行けば良かった。
「混合ダブルス、どうだった?」
夕暮れでも、少し歩くだけで汗が吹き出してくる。夏でも真っ白な颯は、涼しげに前髪を風に靡かせて、暑苦しい私とは大違いだ。
「二年生の高倉先輩と組むことになったよ。混合は初めてだったけど、すごいフォローしてくれて助かった。」
「二年の高倉…?へぇー。」
「颯くん…今日、スポーツドリンクありがとう。冷たくて美味しかったよ。」
「……うん。」
この前は話すことがいっぱいあったのに、何だか今日は会話が続かない。心配になって、颯の垂れ目を見上げると、ぷいっと目を逸らされてしまう。
コンビニでラムネ味のアイスバーを選ぼうとすると、颯が「百合奈、今日はこっちにしようぜ。」とクッキーとクッキーの間に濃厚なアイスクリームが挟まっているお高めのアイスを勧めてくる。スポーツドリンクのお返しがしたかったのに、これじゃあ五百円では足りない。
「颯くん、私…ラムネ味がいい。」
「でも、キャラメル味も好きじゃんか。まぁ、俺は何でもいいけど。」
私はラムネ味のアイスバーを二袋取って、レジに持って行こうとすると颯に奪われる。
「あっ、颯くん!私が払う。スポーツドリンクのお返しがしたいの。」
「何言ってるんだか…。」
颯は呆れたように頭を振って、お会計を済ませ、お店の外にスタスタ出て行ってしまう。
「颯くん、早いよ。待って!」
「はい。」
袋から出されたアイスバーを口元に差し出されて、颯の手から受け取る。細い綺麗な指先に触れてしまって、胸が急にどきどきしてきた。
「ありがとう…。」
「百合奈、これ行かない?」
コンビニの窓ガラスに貼ってある夏祭りのポスター。花火大会に沢山の人が来て、露店が立ち並び、すごく賑わう人気の夏祭りだ。
「うん!行く!」
「…ふっ…約束な。」
颯の優しい口元が、ようやく笑ってくれた。それを見て、私も自然に笑顔になる。無言で来た道が嘘みたいに、いっぱい話しながら帰る。学校のこと、友達のこと、そして自分のこと…空白の時間を取り戻すように。もっともっと颯のことを知りたかった。
評価やリアクションを励みにしています。応援をよろしくお願いします!