キスが解禁されたようです
不定期更新です。
※キスシーンがありますので、苦手な方はご退出ください。
俺の部屋に置かれたギフト用の小さな袋には、白い花のネックレスが入っている。家庭教師のバイトも頑張ったし、下調べも十分して、百合奈に気に入ってもらえるものを探したつもりだったけど…ホワイトデーにあげようとしたら普通に断られた。
…来年のバレンタインにちゃんとチョコが渡せたら、来年のホワイトデーに貰うって言われ…馬鹿な俺は『来年』の言葉に喜んで、出した袋を引っ込めてしまった。
今更だけど…無理矢理でも百合奈の首に巻き付けてしまえば良かったのに…阿呆すぎる。
百合奈の手作りクッキーは、パズルのピースみたいに綺麗に並べて、写真を撮り、大切に少しずつ食べた。ラッピングの袋やリボンも、皺を伸ばして取っておく。次の日にお礼を言おうとしたら、「私はちゃんとしたものをあげたかったの!」とまた涙目になるから、お礼も言わず仕舞い。このネックレスだけでも、どうにかしてあげたいのに…。
早春の暖かな夕焼けに、まだまだ寒い風が吹く。部活終わりの百合奈を迎えに行き、今日の分のプリントを渡す。
「百合ちゃん、試験が終わったら、どっか行かない?春休みでも良いけど。」
「うん、いいよ!どこ行く?」
「そうだな…テーマパークとか?動物園とか?」
「動物園にする!」
はじける笑顔の百合奈が俺の手に、指を絡ませてきたので、俺も優しく握り返す。
バレンタインと夏祭りの経験上、俺が手を繋ぐと百合奈が怪我をしてしまう可能性があるから、手を繋ぎたくてもグッと堪えて、百合奈から手を繋いでくれた時だけは、ご褒美だと思って受け入れている。
「それじゃあ、今までのプリントを暗記して、学年末頑張ったら、二人で動物園行こうな。」
百合奈の頭をポンポンと撫でると、彼女は不服そうな顔で「暗記??スパルタすぎない?」と可愛い唇を尖らせた。
否応無しに百合奈の学年末試験は良い感じに仕上がり、学年上位者で掲示されたと嬉しい報告があった。このまま行けば、同じ大学に入って、念願の百合奈とのキャンパスライフが送れるはずだ。今日は動物園でデートだし、朝から顔がニヤけて仕方がない。ポケットにネックレスを忍ばせて、どさくさに紛れて百合奈の首に付けてしまおうと画策している。
「颯くん、お待たせっ!」
玄関から出てきた百合奈は、緩くウェーブさせた髪にキャップを被って、肩を露出したフリルのブラウスにジーパンを履いている。唇にはぷるぷるのリップ…この前のバレンタインの時も思ったけど、この頃…可愛さが増してないか!?キスもできない、手も繋げない、見てるだけの俺には…ただただ目の毒だけど…それでも嫌われたり、怪我させるよりはよっぽどまし。
行楽日和な春の陽気で、動物園は家族連れで賑わっていた。園内マップを見ながら、人気のライオンやトラのサバンナゾーンへの道を確認していると、はしゃぐ百合奈が勢いよく走って行ってしまう。止めたくても、手を繋いでいないから、頑張って背中を追いかける。
「百合ちゃん、走らないでよ。迷子になるから!」
「…でも…今、白くまが水の中にダイブしたよ!見逃せないでしょ!?すごい泳ぐの得意だよねー。」
俺は苦肉の策で、百合奈の華奢な腰をグッと引き寄せる。これなら引っ張って転ばすこともないし、むしろ支えてあげられる…なんでもっと早くに気付かなかったんだろう。
「颯くん、くっつきすぎだよ…耳に息がかかる。」
展示スペースの手摺を握りしめた百合奈は、赤く耳を染めている…その耳をカプっと食べたい衝動に駆られる。
「でも…俺からは手を繋げないから、こうするしかない。」
「え?なんで手、繋いでくれないの?」
「百合ちゃんに怪我させるから。バレンタインも夏祭りも。」
「私……颯くんに手を繋いで貰えないなって、この頃…思ってたの。…嫌われたのかなって。」
「…俺がお前を嫌うはずないだろ。」
「じゃぁ…私のこと好き?」
上目遣いで聞いてくる百合奈に、心底好きに決まってると思いながら、耳元でコソコソと話したって、残念ながら今は人混みの中だ。
「…あのなぁ…そういうのは二人きりの時に言うの!」
そう言うと、キャップの下で百合奈の茶色の瞳がギラっと光った。俺は手首を掴まれて、ぐんぐん引っ張られて行く…鬱蒼としたジャングルゾーンの人気の無い最果てで、百合奈は俺に向き合った。
「颯くん!」
手を腰に当て仁王立ちになった百合奈は、俺を睨みつける。すごい怒ってる。
「ハイっ!」
「私のこと、好き?」
「…は!?」
「私のこと好きかって聞いたの!」
「…?……好き。」
「一瞬、間があった!本当は好きじゃないんでしょ??だから、手も繋いでくれないし、キスもしてくれないんだ。」
怒りながら聞かれたから、思考回路がストップしただけ!と言い訳も言えずに、百合奈の瞳にみるみる涙が溜まっていくから狼狽える。怒られるのは良いけど、百合奈が泣くのは心臓に悪すぎる。
「ちがくて!百合ちゃん、泣かないでよ。…好きに決まってるだろ?」
「ううん、颯くんは私のこと好きじゃない…。好きなら手も繋ぐし、キスもするもん。」
「ちがう!」
こんなにお前のことが好きなのに…いい加減にしろ!と百合奈の被っていたキャップを外し、顎をくいっと上げさせて、唇に唇を強く押し付けた。下唇を甘噛みして、角度を変えて、もう一度…。
…ぷはぁ…
息継ぎをした唇の隙間を舌でこじ開け、百合奈の綺麗な歯列をなぞっていく。舌と舌が絡み合い、くちゅくちゅと唾液が混ざる。首筋を引き寄せて、深く深くキスをした。
「…大晦日に百合ちゃんが嫌だって言ったんだろ?それからずっと、俺は我慢してただけ。」
「…だって、私の部屋が汚くて嫌だったの。あんなとこでしなくてもいいじゃない。初めての大人のキスだったのにぃ…。」
「そうなの?百合ちゃんの部屋以外でならキスしていいってこと?…嫌じゃない?」
「うん…嫌じゃない。……私、颯くんとキスするの好きだよ。あと、手を繋ぐのも好き。」
見つめ合うと俺の心配が解けて行く。俺は啄むように何度も何度もキスをして、百合奈の細い指に、俺の指をしつこく絡める。まだ冷たい風が頬を撫でて、ぎゅうぎゅうと彼女を強く抱き締めた。
「うー、百合ちゃんが足りない。帰ったら、俺の部屋でキスの特訓ね。」
「特訓??スパルタすぎない?」
百合奈が困った顔で微笑んだ。彼女は気が付いていないけれど、首元には白い花のネックレス。
「サバンナゾーンでライオンの餌やりが始まるから行こうか。」
「わー!行きたい!」
手を繋ぎ、肩を寄せ合って来た道を戻る。キスすると、好きって何度も言うより、気持ちが伝わる気がした。耐えに耐えてきた俺のキスへの欲求が、広い動物園の中で崩壊しないと良いけど…。
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