ヘタレ確定のようです
不定期更新です。
『だったら、見に来てみろよ。』
無防備なショートパンツにTシャツ姿の百合奈が俺の部屋にいる。カーテンの隙間から覗いていたことを咎めもせずに、裸と下着は違うと言う…鈍感すぎる百合奈が俺の心を逆撫でする。思ったこともない『嫌い』っていう言葉を言った瞬間、百合奈は泣き出した。昔から百合奈が泣くと、俺は右往左往するだけで何も出来ずに…ひたすら謝って泣き止むのを待つしかない。
もう一生…関われないんだろうなと思っていた百合奈と久しぶりに話せたから、俺はどこかで舞い上がっていたんだと思う。
「……要は、お前が好きってこと…。」
小さい頃はいつも一緒にいて、生活のすべてが百合奈だったのに…中学校の雰囲気に呑まれて遠い距離を感じた。無視したことなんて一度も無いし、むしろ女子達が固まって話しかけられるような隙もなかったのに…勘違いがひどくないか!?百合奈は女子校に行くって母親から聞いて、安心したのと同時に、もう一緒の学校にすら居られないんだと肩を落とした…俺は、ずっと百合奈が好きだったんだ。
「……………私も好き…。」
余りにも驚きすぎて、頭が真っ白だった。
「…私だって、初恋をこじらせてる。」
頬を染める百合奈を見ながら、混乱しすぎて何も考えられない。
「…颯くん、何か言って?」
俺だって何か言わないといけないって必死だけど…怪訝そうな百合奈の顔を見て、額から汗が吹き出す。もしも…両想いだとしたら『付き合ってください』って言いたいけど、緊張で乾いた喉が引っ付いて声が出ない。
「カーテンちゃんと閉めるから、怒らないで?ごめんね。お邪魔しました!」
勢いよく出て行く百合奈を捕まえようとした右手が空気を掴む。急いでカーテンを開け、向こうの部屋を見ると、百合奈が入ってきてカーテンをシャッと閉めた。
…俺はヘタレか…???
スマホの画面を何時間も見るけど、一向に最初の言葉が打ち込めない。『さっきは悪かった。もう一度話したいから時間を下さい。』って畏まるか?…『さっきはごめん。もう一度、話せる?』と送るか?…日付が変わり、朝になり、夜になり、また朝になり…もう『さっき』ではなくなった。
…俺はヘタレ確定だ。
『こんばんは。明日、颯くんの高校に混合ダブルスの練習で行くよ。』
落ち込んでいた俺に奇跡のメールが届く。『そうなんだ。練習、頑張って!』と打っては消し、『暑いから気をつけろよ。』と打っては消し、『何時から練習?応援しに行くよ。』と打っては消し、『何時に終わるの?そのあと暇?』と打っては消し…気が付いたら明日になっていた。絶望的なヘタレだ…。
学校に行く用事なんてないけど、朝から制服を着込む。とりあえず朝から待っていれば、いつかは会えるだろ…。最もらしく、何冊も参考書を持って出かけた。
図書室の窓際に陣取り、運動場を眺める。真夏日なのに運動部の奴等は良くやるなと感心する。そこに珍しい女の集団が現れ、何やら仰々しく挨拶をし、混合ダブルスの練習が始まった。すぐ行くと百合奈を待っていたみたいだから、今か今かと練習を見守る。小一時間ほどで、休憩時間に入った。
冷えたスポーツドリンクを片手に、百合奈に会いに行く。こんがり日に焼けた百合奈は、女友達とケラケラ笑いながら、爽やかにポニーテールを揺らしていた。
「…きゃあ!」
百合奈の頬にペットボトルをくっ付けると、驚いた顔で振り向き、色素の薄い瞳が俺を捉える。
「百合奈、これやる。」
「颯くんっ!ありがとう!来てくれたの?」
笑顔が可愛すぎて直視できない。確かに、このためだけに来たけど、正直に言えるはずもない。
「たまたま図書室で勉強する日だったから。暑さに気を付けろよ。」
「うん、ありがとう!」
最後にチラッと百合奈の顔を拝むと、目が合って、口元がニヤける。昔と全然変わらない、はじける笑顔が俺には眩しかった。手を振って、足早に図書室に戻る。もう一度、ちゃんと話したい…もっと一緒にいたい…もしもあの時聞いたことが本当なら…こんなヘタレな俺だけど、どうか彼氏にして欲しい。
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