クリスマスはダブルデートになりました
不定期更新です。
「百合奈、お願い!!」
「クリスマスなのに…無理だよぉ。」
「そこをなんとかぁ!百合奈様、お願いします!!」
午前中の終業式が終わり、皆んなが「また来年ね。」と教室から出て行く中、私は心愛に呼び止められていた。絶対に逃げられないってくらい強く腕を掴まれて…私が頷くまで心愛は粘る気だ。
「それに、なんで佐伯くん??」
「だってぇ…あの時のこと、彼が『謝りたい。』って連絡してきたの。助けてくれたんだから『謝らなくて良いよ。』って返信したの!そしたら…いつの間にかクリスマスデートすることになってて、百合奈…どうしたらいい!?」
し、知らないよ〜!
混合ダブルスの試合の打ち上げの後、心愛は佐伯くんに呼び出され、大学生の先輩と朱音に暴行されかけた。結局、佐伯くんが助けてくれて無事だったけれど…何故、その彼とクリスマスデート??
「心愛、佐伯くんとデートしたら良いじゃん。だって…今日、メイクしてるでしょ??…ふふっ…すごく可愛いもん。」
「バレてた?気合い入れすぎだよね…自分でも恥ずかしいんだけど。でも、何話せば良いか分からない…っていうか二人きりとか無理っ!!百合奈、お願いだから一緒にデートしよ!」
心愛に掴まれた腕は、きつくきつくホールドされ、引っ張っても全然抜け出せない。
「うーん、分かった…聞いてみる。」
「やたっ!百合奈様ぁ!」
校門を出ると、佐伯くんに肩を組まれた颯が、遠い目をして立っていた。私も腕をがっちり心愛に掴まれているし、状況が似ていてクスッと笑ってしまう。
「おっ、佐藤さん、林さん!」
「………ゃほ…。」
佐伯くんの大きな声に応える心愛の声が小さすぎて全然聞き取れない。さっきまでの元気な声はどこに行ったの??それに、真っ赤になって下を向いて、もじもじしている。
「佐伯くん、こんにちは。颯くん…あのね、心愛がダブルデートしたいんだって。良いかな?」
「…っ…良くないだろ。今日、クリスマスだぞ。」
颯にじっとり見られて怖いけど、心愛のために頑張らないと。
「そうなんだけど…お願い!」
心愛もか細い声で「お願いします。」と言い、また俯いてしまう。こんな心愛は見たことないし、二人きりにさせたら…確かに会話が成り立つか心配だ。
「え?なになに?ダブルデートすんの?俺ら?」
佐伯くんの大きな声に、颯がうんざりしながら「そうらしい。」と言い、私の手を掴む。心愛はホッとした顔で腕を離してくれた。
歩き始める颯に引っ張られると、後ろから無言の二人がついてくる。大丈夫かな?とチラッと後ろを振り向くと、颯が「なんなの?あの二人。」と耳元で囁いた。「ふふっ…分からない。」と私も颯の耳元で囁く。心愛はずっと真っ赤で俯いてるし、佐伯くんはキョロキョロと周辺を伺って、二人は一向に話そうとしない。
「映画でも見に行こうか?この二人を連れて遊びに行くとか無理じゃね?」
「ふふっ…確かに。何見るの?」
「百合ちゃんの好きな漫画が実写化されてるけど、それは?」
「うん!それにする!」
颯が上演時間を調べたり、夜に予約したお店に人数変更の電話をかけているのを見守る。
…しっかり者だなぁ…
「色々、準備してくれてたのに…急にごめんね。」
「お前のお人好しなところ、本当に反省しろよ。」
「怒ってる?」
「……怒ってない。…俺は百合ちゃんと一緒にクリスマスを過ごせれば、それで満足。」
…優しい…
胸がキュンとして、手を繋いだ颯の腕をぎゅっと抱きしめると、私の頭に颯が顎を乗せて「はぁ…。」と大きな溜息を吐いた。
映画館に着いても、一言も話さない心愛と佐伯くん…緊張感がありすぎて、私までドキドキしてくる。
「百合ちゃん、この二種類選べるポップコーンにしよう。何味が良い?キャラメルとチーズ?」
「うん、それが良い!」
「佐伯は?彼女に買ってやらないの?」
「あ…彼女?…えぇ…と、買う買う!もちろん!佐藤さんもキャラメルとチーズで良い?」
心愛は首を縦にぶんぶん振っている…でも、大のチョコ好きなのに、チョコレートフレーバーじゃなくていいのかな?
颯が出来立てのポップコーンを私の口に入れ、次に自分の口にも入れ、二人で「うまっ!」とパクパク食べてしまう。心愛は、佐伯くんの抱えたポップコーンに全然手を付けようとしない…確かに可愛いリップが取れちゃうもんね。
「颯くんもやっぱり…ぷるぷるの唇が好き?」
「は??ぷるぷるの唇??」
「男子は好きでしょ?ほら、心愛の唇みたいな?」
颯の目線が、心愛の赤色のぷるぷるの可愛い唇に注がれ、次にポップコーン味になってる地味な私の唇に移動する。自分のせいだけど、比べられるのは少しショック…。
「ふっ…確かにお前の唇は『ぷるぷる』では無いな。」
「ひ、ひどい!私もリップしてくれば良かった…今日の心愛すごく可愛いよね?」
「ひどいこと言ったか?俺は…お前が世界で一番可愛いけどなー。」
疑いの目を向けると、颯にポップコーンを放り込まれそうになって、急いで口を開く。でも、私の唇を掠めて、ニヤッと笑う颯の口に放り込まれた。
映画が終わっても、心愛と佐伯くんは無言のまま。連れ立ってお手洗いに行くと、心愛が怒涛の如く話し始めた。
「あぁ〜っ、息が詰まる!何話せばいいの??知らんがな!佐伯くんが誘ったんだから、佐伯くんから話しかけてよ!」
「まぁまぁ、あっちも何話せばいいか分からないんだよ。」
「私はキャラメル派じゃなく、チョコレート派なのに!」
「あははっ…でも、心愛も頷いてたから、佐伯くん悪くなくない?」
「そうだけど!まだデートって続くの?何話すの??窒息寸前なんだけど。」
「あははっ…真っ赤で俯いてる心愛、可愛かったなぁ…乙女だね!」
「乙女!?違う違う!私、男性への免疫がないから!むしろ拒否反応?熱出るぅ〜。ゔぅ…!」
そんな会話とは裏腹に、心愛はぷるぷるのリップを付け直し、しっかり鏡で身だしなみを整えていた。
「心愛、そのリップ…すごくいいね!」
「本当??百合奈もやる?付けてあげる。」
「えっ!いいの!?」
心愛が私の唇をぷるぷるにしてくれた。これで、少しは颯をびっくりさせられるかもしれない。我ながら結構…可愛い。
颯と佐伯くんと合流すると、さっきの勢いはどこへやら…心愛はまた真っ赤になって俯いた。でも、ちゃんと佐伯くんの隣に立っているし、佐伯くんも挙動不審だけど、恋する二人は良い感じに寄り添っている。
「百合ちゃん、唇どうしたの?」
「さっきより可愛いでしょ??」
「…おい、佐伯!俺ら、ちょっと買い物して行くから、さっきメールした店で合流な。」
「えっ!?ちょ、待って!相原っ!」
私は颯に手を引かれて、映画館が入ってるビルの誰もいない階段に着くと、リップをティッシュで拭き取られる。
「なんで??せっかく可愛かったのに。」
「…っ…可愛いけど!佐伯もいるし、知らない男に振り返られてたぞ。」
「…あ…ぷるぷるが取れちゃった…。」
寂しくなった唇を指でなぞると、手首を掴まれ、驚いて顔を上げる。近付いてくる困った顔の颯…彼を睨むけど…触れる唇と唇。
…ちゅう…
颯の手が腰を引き寄せる…密着する身体。角度を変えて、優しく、また優しく、颯の唇が押し付けられる。
「百合ちゃん、ぷるぷる禁止。」
「颯くん、キスしないで。」
「嫌だ。」
また近付いてくる颯の顔…ぷぃと横を向く。
「キス禁止。」
「百合ちゃん、ごめん。許して?」
「嫌…。」
「ごめんって…そうだ、リップ買いに行く?」
「いらない。」
「そんなこと言わないでよ。どうしたらいい?」
ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。
「颯くんに可愛いって思われたかっただけなのに…もう知らないもん。」
「百合ちゃんがこれ以上…可愛くなったら困る…。」
意地悪して、目の前にあった颯の耳たぶをカプッと甘噛みする。
「…っ!」
颯が抱きしめていた腕をパッと解いた…その隙に抜け出して、舌をベーと出す。
「やっぱりリップ買いに行きたい。すっごくぷるぷるになるやつ!」
今度は、私が彼の手を引くけど…颯は真っ赤になって黙って俯いている。心愛みたい…あっ!心愛達は大丈夫なのかな??…一気に心配になってくる。リップを買ったら、すぐに向かうからね!と足早に歩き出した。
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