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16/23

形勢逆転のようです

不定期更新です。

 体調を崩すと、病院にも行かずにひたすら市販薬を飲み、何日も寝込んでしまう。今は親が海外赴任中だから、本気でやばいときは救急車を呼ぶしかないと思ってる。

 百合奈に言うと心配させるし、看病するって俺の部屋に居座る気がして…そんなの俺の精神が耐えられないから…黙っていた。


 だいぶ回復してきたと思った矢先、朝っぱらから百合奈のメールに驚いて、風邪を引いていたことをバラしてしまった。案の定、百合奈は勢いよく動き出し…クローゼットの前で曝け出された白い下着の後ろ姿は、病み上がりの俺の心臓に鞭を打って、一瞬何が起こったか分からなかった。

 …百合奈、俺の家に来るつもりだな…

 迎え入れた玄関で、何度も帰れって言ってるのに、何故かぎゅうと抱き締められている。嬉しいやら、辛いやら…彼女は俺を聖人君子とでも思っているのだろうか。我慢してる方が馬鹿を見る…風邪が治ったら覚えとけよと思いながら、口から出た言葉は「ありがとう。」だった。こんなだから、百合奈に舐められるんだぞ!俺!


 月曜、久しぶりに玄関の外で待っている。

「颯くん、おはよう!」

「おはよう。行こう。」

「体調どう??」

「すこぶる良い。色々、ありがとな。」

「ううん、何もできなかったもん。颯くん…次に風邪引いたら、すぐに言って欲しいな。約束して?」

「ぇえ…と。うーん、約束できない。少し良くなってきたら言うよ。」

 言ったらすぐに駆け付ける気だろ…熱で朦朧としている俺に、百合奈が何をしでかすか分からない。汗で濡れたパジャマを剥ぎ取られ、タオルで拭かれたり…お粥やゼリーをスプーンで口に流し込まれるかもしれない。そんな辱めに耐えられるか?

「えっ!?なんでぇ?」

「なんでも。」

「颯くん…お願い!」

 上目遣いで、うるうるした透き通る薄茶の瞳を向けてくる。可愛いけど…無理なものは無理!

「風邪うつしたくないから、教えられない。良くなってきたら、ちゃんと言うから。」

「一生のお願い!」

「却下!」

「…っ…颯くんの一生のお願いは聞いたのに!私が風邪引いても、颯くんには言わないから!」

 俺は教えないけど、俺には教えて欲しい。都合が良いのは分かるけど、百合奈の体調は把握しておきたい。

「それは困るよ。別のお願いは無いの??ほら…クリスマスが近いし、どこでも百合ちゃんの好きなところに行きたいなって思ってる。欲しいものとかは?一緒に買いに行ってもいいし。」

「えっ!?クリスマス??期末が終われば、クリスマスからのお正月だよ!やったー!」

「百合ちゃん、クリスマスは二人で過ごそうね。」

「うん!楽しみだね!どこ行く??」

 話題のすり替えに成功し、難を逃れる。それから、俺は百合奈が好きそうなケーキのお店を予約したり、ネットで調べたピンキーリングを買いに行ったり、百合奈が行きたいと言ったイルミネーションを事前に確認したり、大忙しだ。


 期末が終わり、あとは楽しいことだらけなのに、今度は百合奈が風邪をひいた。

 朝、外で待っていると百合奈のお母さんが「あの子、風邪引いちゃったのよ。だから、今日から学校お休みするわ。」と教えてくれた。


『百合ちゃん、風邪大丈夫?熱は?』

『大丈夫だよ。』

『食欲は?なんか欲しいものある?アイスとか。授業終わったら、持ってくよ。』

『いらない。』

『病院行ったの?薬は飲んだ?水分取らなきゃ駄目だよ。』

『うん。』


 スマホの画面に『うん。』とそれだけが書かれている…言葉が少なすぎないか??百合奈の状況が全然分からない。授業が終わると、慌てて百合奈の家に向かう。両手にコンビニで買い込んだスポーツドリンクとアイスを抱えて…『ピンポーーン』と鳴らすと、百合奈のお母さんが出た。

「あら!相原くん、どうしたの?」

「百合ちゃん、大丈夫ですか!?熱は?薬は飲んだんですか?…あと、これ百合ちゃんに。」

「あらまぁ!ありがとう。ふふっ…熱は下がって、百合奈は部屋で寝てるわ。」

「会えますか?」

「でも、風邪うつしちゃうからダメよ。」

「大丈夫です!マスクしますから。」

「後から百合奈に怒られるわ…すぐ良くなるから心配しなくて大丈夫よ。」

「俺が怒られますから。お願いします!!!」

 これ以上身体が曲がらないほどのお辞儀をする。

「しょうがないわねぇ。百合奈に怒られても知らないわよ?」

「はい!ありがとうございます!!」

 マスクをして、急いで百合奈の部屋に直行する。ノックしたけど、返事がない。ガチャとドアを開けると、彼女はベッドに寝ていた。


「百合ちゃん、大丈夫?」

 百合奈は、はぁはぁ…と荒く寝息を立てている。頬は桃色に蒸気して、汗で湿った額に前髪が纏わりついている。おでこにおでこをくっ付けると、百合奈の方がかなり熱かった。

「熱あるじゃん。」

 手を握って、辛そうな百合奈を観察する。何もできないから、もどかしい。乾いた唇…俺は無意識にマスクを取って、キスしていた。

「風邪は人にうつすと治るって言うよね。」

 …ちゅっ…ちゅっ…ちゅっ…

 一度したら何度しても同じだからと、言い訳をしながら何度もキスをする。


「…ん?そ…う…くん?」

 …ちゅっ…

「ひゃあ!颯くん、今キスした?」

「うん、した。」

「風邪うつっちゃうよぉ!」

「百合奈の風邪ならうつってもいいから。それより、体調どうだ?…心配するから、ちゃんと連絡してくれ。」

「ちゃんと返信したよ?」

「あれで?文字が少なすぎるだろ。」

「あれが精一杯だったの!」

 起き上がってゲホッゲホッと咳をする百合奈の背中を撫でる。

「そうだ…アイス買ってきた。食べるだろ?今、取ってくるから。」

 俺は意味の無いマスクを付けて、百合奈のお母さんにアイスとスプーンを貰い、また階段を駆け登る。


「百合ちゃん、アーーーン!」

「颯くん…ゴホッ…帰って。」

「一口だけ。」

 ぱくっと頬張る百合奈を見て、安心した。百合奈は俺をポカポカ叩く。

「お願い!帰ってぇ!」

「痛い痛い!分かった分かった!」

 俺はマスクを外して、百合奈の唇にチュッとキスをした。ニヤッと笑って、素早く退散する。ドアがゆっくり閉まる瞬間に、百合奈が「颯くんの馬鹿ぁ!!」と怒鳴るのが聞こえた。


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