颯くんが風邪をひきました
明日も21時更新予定です。
『今日、送り迎えできない。』
朝起きると颯からメールが来ていた。
『おはよう!分かった。何かあった?』
返信が来ないまま部活が終わり、校門で少し待っていたけれど、やっぱり颯は迎えに来なかった。
夜になって、『何もない。』と返信があったから、急いで『昨日の電話、いきなり切ってごめんね。怒ってる?』と送ったけど…眠る前になっても、既読にならない。
…颯くん、どうしたんだろう?
深夜に『怒ってない。』と返信があり…早朝にも『しばらく送り迎えできない。』とメッセージが来ていた。そのまま…三日、四日、五日と毎日が過ぎていく。付き合ってから、こんなに会わなかったのは初めてだった。颯くんの『しばらく』っていつまで?…私はだんだん不安になってくる。もしかしたら、嫌われたのかな?と最悪なことを考えてしまう。
心愛が『スパダリ』って言っていたけれど…颯は優秀で何でもできて、私と全然釣り合いが取れていない。颯は私を心配して、プリントをやめてもいいって言ってくれたのに…愛想を尽かされたんだと思う。
高校生になった颯はモテるし、日焼けしていない綺麗な肌に、真ん中分けの前髪と刈り上げた襟足が爽やかで、すごく格好良い。運動してないくせに逞しい身体で抱き寄せられ、垂れ目が微笑むと目尻の皺がとっても優しくて…見つめられると私は動けなくなる。私の話を楽しそうに聞いてくれて、私も颯といる時が一番楽しい。彼のことが大好きなのに、このまま別れることになったら本当にどうしよう…。
日曜の朝、寒くてブルっと身震いをする。窓を開けて冷たい空気を胸いっぱいに吸い込む。
颯の部屋は真っ暗で、窓が朝の冷気で白くなっていた。
…ご…め…ん…??
ガラスに薄く文字が浮き出ていて、ハッとする。
『颯くんに会いたい。』
ガラスの文字を写真に取って、思わず送信していた。颯の部屋がパッと明るくなり、パジャマ姿の彼が窓際に来て、スマホが鳴った。
『会わない方がいい。』
『なんで?私のこと、嫌いになったの?』
『は?意味分からない。風邪引いてるからに決まってるだろ。』
颯がゲホッと咳をした。私は窓をパシッと閉め、急いでスウェットを脱ぎ捨て、クローゼットから服を出して着替えた。くるっと振り向くと、窓越しに颯がぎょっとした目線を送っている。
…あっ!またカーテン閉め忘れた!でも、今はそれどころじゃないもん!
階段をバタバタ駆け下りて、歯を磨き、顔を洗って、時間が無いから髪をお団子にする。颯の家の玄関を『ピンポーーン』と押すと、マスクを付けた颯が出た。
「来ると思った。お願いだから、今すぐ帰れ。」
「颯くん、大丈夫?」
「だいぶ良くなったから大丈夫。だから、帰れ。」
「嫌っ!」
颯の腕の下から玄関の中にスルッと入る。
「おい!百合奈!」
ガチャっと後ろでドアが閉まる音がした。
「いつから風邪引いてたの?すぐに教えてくれなきゃ困るよ。」
「あのなぁ…教えたら、お前は押しかけてきて、世話を焼きたがるだろ。今みたいに!」
「駄目なの?」
「駄目に決まってるだろ。お前にだけはうつしたくないのに…帰れよ。」
「颯くんの風邪なら、うつってもいいもん。」
私は、ぎゅっと颯に抱きついた。
「勘弁してくれ。俺を殺す気か?」
「……?」
「お前が周りをウロウロすると、下がった熱がまた上がるの!」
「私がいると余計に悪くなるってこと?」
「…っ…そうじゃなくて!」
颯は額に手を当てて、悩んでいる。私だって、何日も会えなくて、ずっと悩んでた…。
「颯くん…会いたかった。」
ぎゅうぎゅうと颯を抱きしめる。颯も諦めたように、抱きしめ返してくれた。
「分かったから…今日は帰れ。一生のお願い。」
「……うん。何かできることがあったら言ってね。約束だよ!」
私は腕を解いて、手を振る。ドアがゆっくり閉まる瞬間に、颯が「ありがとう。」って言う声が聞こえた。
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