自爆したようです
明日も21時更新予定です。
冬の夜は早い。真っ暗な街並みを走る電車に揺られながら、プリントを握りしめ、舟を漕ぐ彼女の頭をそっと自分の肩に乗せる。部活で疲れてるのに、勉強しろだなんて…彼氏がすることじゃないよな。
…俺の我儘に付き合わせている…
それは、重々分かってる。
…嫌われでもしたら取り返しがつかない…
それも、重々分かっている。
俺の『好き』と百合奈の『好き』は、大きさが違う。いつだって目の届く場所にいて欲しいし、俺だけを見て、俺だけを愛して、俺だけを知って、一生…そのままでいて欲しい。俺の『好き』は独占欲の塊だ。
単調な毎日の中で、唯一の楽しみは一緒に過ごす時間なのに…彼女はすやすやと寝息を立てて…いくつもの駅を通り過ぎている。
…嫌々、勉強させられているんだから、眠くもなるよな…
「百合ちゃん!そろそろ着くよ!」
「……。」
「百合奈、起きろ!」
「……。」
体を揺すって起こそうと思ったけど、ぐっすり寝ているし、俺の肩で安心しきっている呑気な彼女をそのままにする。どうせなら終点まで行って折り返してくれば良いと、最寄り駅を通り過ぎ、俺は不貞腐れて狸寝入りをした。
…好きになった方が負けなら、俺は負け続けてるな…
周りの人が降りていく気配がして、どんどん終点の駅が近づいている。
「……ん……あれ?」
「……。」
百合奈が目を覚ましたらしい。袖をぎゅっと掴まれる。
「大変!寝過ごしちゃった!」
「……。」
「颯くん、起きて?」
袖をくいくいと引っ張られるけど、俺は眠ったふりを続ける。
「……。」
「寝てるの?」
つんつんと百合奈の指が俺の頬を優しく突き、寝ていることを確かめた。
「………っ…。」
「ふふっ…可愛い。」
「…………………。」
「颯くん…大好きだよ。」
そう呟きながら腕を絡めて…また俺の肩で寝入ってしまった。
頭の中で『大好き』の言葉がリフレインする。予想もしなかった幸運に、恥ずかしいくらい心臓が鳴り響く。…このやり場のない嬉しい悲鳴…眠ったふりをした自分に「こんな気持ちにさせて、どうしてくれるんだ!」と罵る。どう抗ったって俺は、彼女の言葉に一喜一憂してしまう…薄ら目を開け、罪深い寝顔を晒す彼女に白旗をあげた。
二回目の正直で駅に降り立った俺達は、足早に帰る。
「お腹減った〜っ!寝る前に、電話するね!」
繋いでいた手をぱっと離し、百合奈は急いで玄関に消えていった。いつも寝落ちして一向にかかってこないのに…痺れを切らして電話するのは俺の方だ。
「もしもし?百合ちゃん、寝てた?」
「寝てないよ。颯くんのプリント見てた。」
「えっ!?どうしたの?今日は眠くないの?」
「眠たいけど…。ねぇ、少し質問しても良い?」
百合奈は復習していたようで、かなり前にあげたプリントの内容を質問してくる。
「百合ちゃん、頑張りすぎてない?」
「ううん、私も一緒の大学に行きたいもん。同じキャンパスならすぐに会えるし…ふふっ…会いたいって言ったらすぐに来てくれる?」
「…っ…あのなぁ、別の大学に行ったとしても飛んで行くから…無理するなって。」
百合奈から会いたいなんて連絡が来るとは考えられない…期待させるようなことを言うから困る。
「…別の大学?…私、無理してないよ。」
「本当にそうか?しんどかったら、プリントもやめたっていいよ。」
「なんでそんなこと言うの?全然ダメダメだけど…一緒の大学に入りたいし、頑張りたかったのに!もういいっ…おやすみ!」
「…え?…ちょっ…ま…!」
ブツっと通話が切られた。俺の鼓動がドクドクと速くなる。このまま寝るとか不可能じゃないか??
盛大に落ち込む俺は、カーテンを開けて百合奈の部屋をじっと見る。溜息で窓が白くなる…『ごめん』と冷たいガラスを指でなぞった。
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