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14/23

自爆したようです

明日も21時更新予定です。

 冬の夜は早い。真っ暗な街並みを走る電車に揺られながら、プリントを握りしめ、舟を漕ぐ彼女の頭をそっと自分の肩に乗せる。部活で疲れてるのに、勉強しろだなんて…彼氏がすることじゃないよな。


 …俺の我儘に付き合わせている…


 それは、重々分かってる。


 …嫌われでもしたら取り返しがつかない…


 それも、重々分かっている。


 俺の『好き』と百合奈の『好き』は、大きさが違う。いつだって目の届く場所にいて欲しいし、俺だけを見て、俺だけを愛して、俺だけを知って、一生…そのままでいて欲しい。俺の『好き』は独占欲の塊だ。

 単調な毎日の中で、唯一の楽しみは一緒に過ごす時間なのに…彼女はすやすやと寝息を立てて…いくつもの駅を通り過ぎている。


 …嫌々、勉強させられているんだから、眠くもなるよな…


「百合ちゃん!そろそろ着くよ!」

「……。」

「百合奈、起きろ!」

「……。」

 体を揺すって起こそうと思ったけど、ぐっすり寝ているし、俺の肩で安心しきっている呑気な彼女をそのままにする。どうせなら終点まで行って折り返してくれば良いと、最寄り駅を通り過ぎ、俺は不貞腐れて狸寝入りをした。


 …好きになった方が負けなら、俺は負け続けてるな…


 周りの人が降りていく気配がして、どんどん終点の駅が近づいている。

「……ん……あれ?」

「……。」

 百合奈が目を覚ましたらしい。袖をぎゅっと掴まれる。

「大変!寝過ごしちゃった!」

「……。」

「颯くん、起きて?」

 袖をくいくいと引っ張られるけど、俺は眠ったふりを続ける。

「……。」

「寝てるの?」

 つんつんと百合奈の指が俺の頬を優しく突き、寝ていることを確かめた。

「………っ…。」

「ふふっ…可愛い。」

「…………………。」

「颯くん…大好きだよ。」

 そう呟きながら腕を絡めて…また俺の肩で寝入ってしまった。


 頭の中で『大好き』の言葉がリフレインする。予想もしなかった幸運に、恥ずかしいくらい心臓が鳴り響く。…このやり場のない嬉しい悲鳴…眠ったふりをした自分に「こんな気持ちにさせて、どうしてくれるんだ!」と罵る。どう抗ったって俺は、彼女の言葉に一喜一憂してしまう…薄ら目を開け、罪深い寝顔を晒す彼女に白旗をあげた。


 二回目の正直で駅に降り立った俺達は、足早に帰る。

「お腹減った〜っ!寝る前に、電話するね!」

 繋いでいた手をぱっと離し、百合奈は急いで玄関に消えていった。いつも寝落ちして一向にかかってこないのに…痺れを切らして電話するのは俺の方だ。


「もしもし?百合ちゃん、寝てた?」

「寝てないよ。颯くんのプリント見てた。」

「えっ!?どうしたの?今日は眠くないの?」

「眠たいけど…。ねぇ、少し質問しても良い?」

 百合奈は復習していたようで、かなり前にあげたプリントの内容を質問してくる。

「百合ちゃん、頑張りすぎてない?」

「ううん、私も一緒の大学に行きたいもん。同じキャンパスならすぐに会えるし…ふふっ…会いたいって言ったらすぐに来てくれる?」

「…っ…あのなぁ、別の大学に行ったとしても飛んで行くから…無理するなって。」

 百合奈から会いたいなんて連絡が来るとは考えられない…期待させるようなことを言うから困る。

「…別の大学?…私、無理してないよ。」

「本当にそうか?しんどかったら、プリントもやめたっていいよ。」

「なんでそんなこと言うの?全然ダメダメだけど…一緒の大学に入りたいし、頑張りたかったのに!もういいっ…おやすみ!」

「…え?…ちょっ…ま…!」

 ブツっと通話が切られた。俺の鼓動がドクドクと速くなる。このまま寝るとか不可能じゃないか??

 盛大に落ち込む俺は、カーテンを開けて百合奈の部屋をじっと見る。溜息で窓が白くなる…『ごめん』と冷たいガラスを指でなぞった。


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