友達が復活しました
不定期更新です。
心愛が無事に退院して、今日から高校に戻ってくる。お見舞いに行こうと思ったけど、心愛のお母さんから元気にしているから大丈夫と聞き、心愛からもチャットで連絡が来たので、大人しく復学するのを待っていた。
「百合奈っ!!」
「あっ、心愛!!」
私達は手を取り合って、ぴょんぴょんとジャンプをした。
「百合奈、色々ありがとう!」
「もうお礼を言い過ぎだよ。この前も、心愛の親がケーキを持ってきてくれたの。すごく美味しかった!」
「ふふっ…良かった。そうだ、これを返したいんだ。捨ててくれって言われるかもだけど…。」
紙袋の中には、クリーニングのビニール袋に仕舞われた颯のカーディガンがある。
「返しておこうか?」
「ううん、校門で待ってる人だよね?毎日、百合奈を迎えに来てるから見たことある。今日も来る?お礼、言いたいから。」
「うん、来るよ。」
「…えっ!百合奈、もしかして勉強してるの?期末はまだまだ先じゃん!」
心愛の目線が、私が握りしめているプリントに注がれる。
「勉強しないと駄目だから…。」
「それにしても、すごい分かり易そうに要点がまとめてあるね!私もコピー欲しい。」
「そのカーディガンの人が作ったから、あげてもいいか聞いてみるね。」
「えぇっ、すごい!百合奈の彼氏ってスパダリだよね!カーディガンを肩に掛けてくれたとき、王子様に見えたもん!」
「…スパダリ??…スパルタの間違いじゃなくて??」
「ん?…あっ!じゃ、部活でね!」
チャイムの音を聞いて、心愛は急いで自分の教室に戻って行った。
颯は…想像以上に厳しかった。宣言通りに毎日一枚のプリントが手渡されて、ちゃんと読んだか抜き打ちでチェックされる。電車の中で楽しくおしゃべりしていると思っていたら、いつの間にか一問一答になっていて驚いたこともある。貰ったプリントを何日か放置してしまったことがバレたとき、颯は涼しい顔で…「百合ちゃんの入れる大学に、俺が入学するから良いよ。」と言い放ち、逆光の中でニコッと笑った顔が忘れられない。
本気で一緒の大学に行く気だと恐れ慄いた。颯が私の学力に合わせるか…私が颯の学力に合わせるか…頭の中でぐるぐる考えても、私が頑張らないといけないのは分かりきっている。
…一緒の大学に行きたいし、もっと頑張ろう…
分かってはいるのに、夜はすぐ寝てしまうし、朝は寝坊してしまう。…自分の意志の弱さがほとほと嫌になる。
心愛が部活に来ると、部員全員で一斉に喜んだ。辛かったことも痛かったことも、心愛が少しずつ忘れられるように楽しい思い出を増やしていきたい。…朱音は退学になったのか、転校したのか、結局、誰も分からないまま…高校に来なくなった。
部活が終わり心愛と校門に向かうと、門柱にもたれかかって颯が待っていた。私に気付くと、笑顔で手を振ってくれる。
「颯くん、心愛がお礼言いたいんだって!」
「あの!カーディガンありがとうございました!」
心愛が九十度のお辞儀をする。颯もお辞儀をして、渡された紙袋を受け取った。
「あとね、心愛が要点のプリントのコピーが欲しいんだって。あげてもいい?」
「お願いします!私も百合奈みたいに成績良くなりたくて。」
「えぇ…と…それなら、プリントよりこの参考書がお勧めです。…あげます。」
颯は自分の鞄から真新しい本を取って、心愛に差し出した。
「えっ!良いんですか??わぁ、嬉しい!」
「どういたしまして。じゃあ。」
颯は私の手を取って、スタスタと歩き始める。
「心愛、また明日ね!バイバイ!」
私は手を大きく振った。心愛もぶんぶんと元気に手を振ってくれている。
「百合ちゃん?」
ぷにっと両頬を摘まれる。
「そうくゅん??」
「あのプリントは…百合奈専用だから。誰にもあげたらいけないよ。分かった?」
こくっと頷くと、両頬が開放された。
「これは今日の分ね。」
渡されるプリント。
…颯くんはスパダリなんかじゃない…スパルタ教師だよ!!
心の中で、うぇーんと盛大に泣き叫ぶ。
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