友達が行方不明になりました
不定期更新です。
※一部を改稿しました。
たこ焼きも美味しかったし、目の腫れも良くなってきた。
「颯くん…いつも泣いてばかりでごめんね。」
「ふっ…いいよ。我慢しないで泣いてもらった方が、俺は嬉しい。」
なんでそんなに優しいの?…甘やかされて、私は駄目な大人になる気がする。時計を見ると九時半を過ぎていたから、急いでコートを着て支度をする…と言っても、隣の家に帰るだけだけど。帰り際、意を決して颯の背中に抱きついてみた。背中は広くて、ぴたっと付けた頬があったかい。回した腕に、彼の腕が重なる。
「上書き…?」
「うん…。」
颯が私の方に向き直り、額にゆっくりキスしてくれる。私は瞼を閉じて、じんわりと伝わる熱を感じた。見つめ合うと、唇と唇が引き寄せられる。
…ちゅう…
颯がキスしてくれると、私の醜い感情や嫉妬が浄化される気がした。
家に帰ると、夜遅い時間にも拘らずお客様が来ていた。
「百合奈、おかえり。こちらはテニス部の佐藤さんのお母さん。」
「こんばんは。」
ペコっとお辞儀をする。佐藤 心愛は、すぐ近くに住んでいて仲の良い友達だ。
お母さん達にお父さんも加わって、神妙な顔で話し合いを始め、「警察」とか、「捜索」とか、怖い言葉が聞こえてきた。
階段を上がろうとすると、お父さんに呼び止められる。
「百合奈、ちょっといい?」
「うん、いいよ。」
「今日って、混合ダブルスの試合だっただろ?終わった後は、皆んなどこに行ったの?」
「ファミレスで打ち上げだよ。皆んなじゃなくて、半分くらいの子達。」
「どこのファミレス?」
私から聞き出したお店に、お父さんが電話をかけ、「大人数で来た高校生は、八時前には解散したようだ。」と言うと、お母さんが不思議そうに首を傾げる。
「百合奈、佐藤さんのお宅は九時が門限なんですって。いつもは八時半ぐらいには連絡があって、九時過ぎたことは今まで一度も無かったみたいなの。ご飯食べた後、どうしたのかしら?」
「ファミレスの後に、一部の人はカラオケに行ったと思う…。カラオケは電波無いから。」
心愛のお母さんが「でも、もう十時だから、お店から追い出されていると思うの。それなのに、今も連絡が付かないのよ。」と捲し立てながら、既読にならないメッセージを見せてくれる。
「詳しくは分からないんですけど…男子校のOBの大学生も来るって言ってました。もしかしたら、高校生だってバレてないかもしれません。」
心愛のお母さんが顔面蒼白になり、頭を抱えた。
「百合奈、悪いけどテニス部の人達と連絡とれるか?」
お父さんに頼まれて、テニス部のグループチャットで『緊急!心愛がまだ家に帰っていないみたいです。お母さんが心配してるんだけど、誰か知ってる人いますか?』と発信する。
卒倒しそうな心愛のお母さんも、スマホで色々なところに電話をしている。
「パパに電話したら、心愛はまだ家に帰ってきてないし、連絡も取れないって。私はすぐに警察に相談したいけれど、パパは明日まで待ってみようって…手遅れになったらどうしたらいいの?」
泣き崩れてしまったので、うちのお母さんが懸命に宥めている。その間にも、続々とグループチャットに連絡が入ってきた。
『佐藤さんはファミレスの後にカラオケに行った』
『山本さんに佐藤さんは連れていかれた』
『混合ダブルスのペアの男子が、佐藤さんを狙ってた』
『大学生OBの先輩が山本さんと意気投合していて、山本さんと同じ頃にカラオケから抜けた』
『佐藤さんを狙っていた男子も途中からいなくなった』
スマホの画面を親達に見せると、一斉に顔を見合わせて、とても悪い事態なのが分かる。心愛と朱音もグループチャットのメンバーだから、もしも気が付いていたら返信をくれるだろうし…。
「百合奈、佐藤さんの混合ダブルスの相手は誰なんだい?」
真剣なお父さんの顔を見て、急いで思い出す。
「確かに…佐伯くん…だったと思う。」
「佐伯くんと連絡取れれば、何か分かるかもしれない。」
『佐伯くんと連絡取れる人はいますか?』と発信すると、次々に『連絡先、知らない』と返ってくる。
私は颯に電話をかけた。
「颯くん、ごめん…あのね、急ぎで佐伯くんと連絡取りたいんだけど、アドレス知ってる?」
すぐに颯が駆け付けてくれて、高倉先輩がテニス部員から情報をかき集めてくれると言う。颯のスマホに、高倉先輩から電話があり、お父さんが焦った声で話し始める。「賭け?」とか、「暴行?」とか、そんな物騒な言葉が聞こえて…大きく唾を飲み込んだ。
電話を終えたお父さんが暗い顔で話し始める。
「佐伯くんとも連絡が付かないらしい。男子校のテニス部の連中は、ダブルスを組む女子を早く手に入れた方が勝ちという賭けをやっていたそうだ。それに、大学生OBは素行が悪く…もしかしたら…部室に連れ込まれて、暴行されているかもしれないと言っていた。前も被害に遭いかけた女子がいたそうだ。そうだったら…決して許せないな。」
お父さんは、やっぱり警察に連絡した方がいいのではと説得する。決心した心愛のお母さんは、迎えに来た心愛のお父さんとタクシーに乗り込み、警察に向かって行った。
うちの両親も高校まで行ってみると言うので、私と颯も車に乗り込んだ。お父さんが運転し、お母さんが助手席から振り返って颯に声をかける。
「相原くんはお家に帰っていいのよ。もう遅過ぎる時間だわ。」
「百合ちゃんが心配なので、一緒にいます。」
「あらまぁ!」
お母さんが輝かせた目で颯を見て、颯は私の様子を伺い、私はお母さんに前を向いてと視線を送る。お父さんがケラケラと笑ってて、こんな大変な時に呑気な家族で溜息が出てしまう。
男子校の周りは、街路灯が薄ら歩道を照らし、静まりかえっていた。当たり前に門扉は固く閉められ、校舎は真っ暗だ。
お父さんが高校の周りをゆっくりと運転しながら、「やっぱり警察が来るまで待っていないと駄目だな…。」と呟いた。その一瞬…赤いポストと街路樹の間の暗闇に、何かの塊があった気がした。
「お父さん、止めて!」
停車すると、急いでさっきの場所まで駆け戻る。私に追い付いた颯が肩を抱いてくれる…恐る恐る暗闇を覗き込むと…そこには女の子がうずくまっていた。
「心愛!!」
顔を上げた心愛が「百合奈ぁ!!!」と飛び出してきた。息を切らしたお母さんが「心愛ちゃん?大丈夫?」と声をかけると、歩道に座り込んで「あぁぁぁーっ!!」と大声で泣き出した。
よく見ると心愛の服はどろどろに汚れ、所々が大きく破けている。ガタガタと大きく震わせて嗚咽する身体は、太腿を露出し、靴も片方履いていない…寒い夜空の暗闇で氷のように冷え切っていた。颯が、着ていたカーディガンを脱いで、心愛の肩に掛ける。
「う、ゔぅ…暖かい…。」
私は心愛の手を擦って、少しでも暖かくなるように祈った。すぐに両親と警察が到着し、心愛は保護された。
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