たこ焼きで正解だったようです
不定期更新です。
ようやく掴んだ百合奈の腕、振り向いた彼女の頬を伝う一筋の涙。
…俺はどこかで間違えたんだ…
潤んだ瞳と目が合うと、みるみる涙で溢れてくる。
「ゔぅ…離して…。」
俺はどうしても手を離せない。
「百合ちゃん、逃げない?」
顔を覗き込むと、百合奈はこくこくと頷いた。涙の跡を指で拭うけど、また溢れる涙…駅前じゃなければ抱きしめられるのに…俺にとって百合奈が目の前からいなくなるのが一番の恐怖だ。
「私、帰る。」
「俺も一緒に帰る。」
「…ついて来ないで。」
「なんで?…ごめんて。謝るから、許して。」
「颯くんは悪くないのに、なんで謝るの?」
「泣かせた俺が悪いだろ。」
涙を溜めた瞳が俺を睨む。ほとほと困って、人混みの中で百合奈を抱きしめる。
「ゔぅ…颯くん、朱音に抱きしめられてた…。私だって背中に抱きついたことなんて無いのに…ゔぅ…ひどいよ。」
「ごめん…。」
必死で百合奈の背中を摩るが、肩を震わせて咽び泣いている。
「朱音に手を振ったり、観客席で二人で楽しそうに話してた…ゔぅ…すごく嫌だったもん。」
「お前が手を振ってくれたから、俺も手を振った…それだけだよ。楽しそうに話してたか?百合ちゃんの話題を振られた時かな?」
「すごく笑ってた…颯くんの馬鹿ぁ!」
百合奈だって高倉先輩と楽しそうに話していて、俺は気が気じゃなかったのに。頭を撫でられた時は腑が煮えくり返ったし、ハイタッチだって俺はしたこと無いぞ。そう思うけど、震えながら泣く百合奈を見ると、そんなことはどうでもよくなる。
「悪かったって…。」
「颯くん、朱音に告白されて…ゔぅ…私がいるのにひどいよ…。」
「本当…ごめん。」
百合奈がいきなり走り出したから、力尽くで腕を振り解き、追いかけようとすると、あの女が引き留め邪魔してきた。「迷惑!」と言い残してきたが、しつこそうな女だったから応えていない可能性もある。
「ゔぅ…つらい…。」
百合奈の頭を撫で続ける。確かに、俺の目の前で彼女が誰かに告白されたら、ショックだろうな…。
「百合ちゃん、一緒に帰ろう?今日、たこパの用意してあるよ。」
俺の家でたこ焼きパーティをしようと思って、朝に下準備をしてきた。百合奈の手を引くと、素直に歩き出す。目は真っ赤になり、可哀想で見ていられない。
「…颯くん、顔がひどすぎて…電車乗れないよ。」
「いつも通り可愛いよ。顔を見られないように、俺が隠しててやるから。」
「いつも通りって…いつも顔がひどいみたい…。」
「いつも通り『可愛い』って言ったろ。」
たこパを始めると、百合奈は楽しそうにたこ焼き器の前を陣取っている。でも、瞼が腫れて、目が重たそうだ。
「上手くできない…どうしよう!」
半生の生地がぐちゃぐちゃになっている。お手本を見せると、パチパチと拍手をされた。百合奈の手を取って、一緒に生地を回していく。カリカリのたこ焼きを皿に載せ、ソースや鰹節をかけた。「すごく面白かった。」と百合奈がニコニコ笑ったから、俺は上機嫌で出来上がった一つを口に放り込む。
「あふっっ!!」
熱すぎて俺の口からたこ焼きが飛び出て、皿の上に着地した。
「あははっ…颯くん、熱いに決まってるよ。出来たてだよ?」
「すげぇ熱かった。なんで俺、口に入れたの?」
「あははっ…知らないよ。また涙出てきた…。」
笑い涙を拭う百合奈に、思わずキスする。
「颯くんの口まで熱い…ふふっ…やけどしてない?」
「俺は…昔も今もこれからも…百合ちゃんだけだからね。」
「うん…分かった。」
たこ焼きを口に入れ、ホフホフしながら食べる。テニスの試合の話をすると、何故か高倉先輩が意外と良い人だと二人で盛り上がる。
「高倉先輩って、颯くんのこと良く分かってるよね。真のライバルは、朱音じゃなく高倉先輩かもしれない。」
「あのなぁ…でも、確かに…俺のこと分かってる風な雰囲気出されてるよ。なんか懐かれたのかな?」
「先輩なんだから、懐いてるって言葉は変じゃない?颯くんが可愛がられてるんでしょ?」
「いや…そこ求めてないから。この前も、俺の志望大学に先に入学して待ってるとか言うから、うざいって返したら、すごい笑ってた。意味不明すぎて、怖いよ。」
「愛されてるね?」
「愛とか言うな。気持ち悪い。」
高倉先輩は、俺達の会話に良い人枠で登場してるだなんて思ってもみないだろう。それが逆に面白くて、クスクス笑ってしまう…俺も右に同じく意味不明だ。
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