1 白昼夢
偽人晶
この世界に突如として現れた、宝石の異形頭
それらに対抗する為生まれた事業、それが怪盗である。
横浜。空に突如、黒点が出現する。蝶が羽化するかの如く黒点は二つに割れ、
中からは宝石の異形頭、偽人晶が姿を現す。
偽人晶は地上に降りて来るや否や周辺の建物を次々と壊していき
平穏な街並みは瞬く間に焦土と化す。辺りに散らばるのは死体、死体、死体。
そんな惨劇の最中、瓦礫に体の自由を奪われ、逃げ遅れた少年がいた。
瓦礫は重く、少年一人ではどれだけ体に力を入れようとも動かすことはできない。
出血量は刻々と増していき、朦朧とする意識の中、彼の目の前に現れたのは...
同じく逃げ遅れた住人でも、救助隊でもなく、偽人晶だった。
元凶である偽人晶を前に少年は、怒号も悲涙もせず、数秒先の死を受け入れ
ただただ静観していた。
今の彼にとって偽人晶は死神であると同時に、彼を痛みから解放する天使でもあるのだ。
(あぁ俺…死ぬのか…)
鬱陶しい程の輝きを魅せてくる偽人晶が少年の露命を奪おうとしたその刹那、
偽人晶の首が切り落とされる。
「!?」
一瞬の出来事で理解が追い付かない少年の前に、黒のロングコートを身にまとった耽美な女性が現れる。
「危ないところだったね少年、私が来なかったら死んでいたな」
「ありがとう…ございます…えっと…」
感謝の意を伝えた少年は、不安そうに眼前で動かなくなった偽人晶を見つめる。
「安心したまえ。そこにいる偽人晶は、ちゃんと死んでいる」
少年が安堵の息をホッと鳴らすと、女は微笑み少年に告げる。
「そのままでは苦しいだろう?今助けるから、少し眼を瞑っててくれるかい?」
「わ…わかりました」
少年が言われた通り眼を瞑ると、彼女は少年の上にある瓦礫を足で軽く裏返した
ドシン。という鈍い音が鳴り、少年の全身が顕わになる。
「立てるかい?」
女は青い手袋を外し、雪のように白い手を少年に差し出す。
少年はその手を強く握り立ち上がる。
「少年、名前は?」
「ハルト…亥牙ハルトです。あなたは?」
黄昏時、落ちる夕日を背に女は自らの名を告げる。
「神楽木紫苑、しがない怪盗だよ」
亥牙ハルト
何故か眠れない主人公。睡眠薬も効かない。
神楽木紫苑
最強の怪盗と謳われる女性、ブラックを好んで飲む。