赤毛の少女
暗闇の中にいる、真っ暗闇だ。ただただ、そこを真っ直ぐ歩き続けている。もうどのくらい歩いただろうか、何を探して、何を失って、何処へ向かって、誰を追って、暗闇の中にいる。
「おい!いつまで寝てるの!起きて!」
声が聞こえる。暗闇の上から、上ってどっちだっけ。闇が大きく歪み出した。下も上も右も左もわからないが体が揺さぶられるているみたいだ。
「1週間近くこのまま、死ぬぞおまえ。よし、こうなったら、乙女の必殺ナッツキック」
腹の下、足の間に激痛がはしる。痛い痛すぎる、痛いを通り越して熱い。
「うぐっ」
あまりの痛みに体を丸め顔をあげるとそこには、暗闇ではなく薄暗く、壁は汚れ地べたは泥だらけの薄汚い部屋だった。
そして仁王立ちで勝ち誇る、薄汚れた白いワンピースを着て、髪は長く光沢のある赤毛、整えてない髪はボサボサの少女だった。
「やっぱり男には、これが1番」
どうやら俺は寝ていた所、男の大事な部分を踏みつけられたようだった。まだ痛む、でもなんでこんな所に。
「あのー、ここはどこで俺は誰ですか」
少女は唖然とした後に肩を落とし崩れ落ちた。
「えっ!嘘でしょ、自分を誰って、しらないよそんな事!!ここは檻房で、おまえは1週間前に意識がないまま収監された。で起こし続けて1週間、今やっとおきたんだよ、それが記憶喪失って、ボクを助けてくれると思ったのに!もぉ」
少女を目に涙を浮かべた。1週間も眠っていたのか、その前はいったい何を。頭が痛い。
「助けるっていったい何から」
疑問を投げかけるを顔をしかめてこちらに近づき俺の胸ぐらを掴み顔を引き寄せた。汚れているが、綺麗な顔だ。
「処刑だよ!処刑!ボクは今日誰にも助けてもらえなかったら、大衆の面前で処刑されるの!こんなか弱い少女にも関わらず」
怒鳴られて顔中唾だらけだ。でもこんな少女が処刑なんて、いったいどう言う事だ。
「処刑ってなんで」
少女は俺を突き飛ばすと、地面に寝転んだ。
「なんでそんな事ボクがおまえに言わなきゃいけないの」
力のない声で天井を見上げながら少女はいった。そとからコソコソと話し声がした後に扉が開いた。兵士が2人立っている。
「リミー第ニ皇女、時間です」
リミー第ニ皇女?皇女って、皇族じゃないか!地面に転がっているリミーは飛び起き必死に抵抗するがガタイのいい兵士に捕まり担がれた。
「こいつもだ」
兵士はこちらを睨みつけた後首根っこを掴み引き摺り出した。そのまま俺を引きずり、リミーを担ぎながら階段を上がって行く。
屋上に出ると、ここは低めの塔、周りを祭りごとのように大衆が囲み、少し先の巨大な城の露台から格式がありそうな女性がこちらを見ている。
「皆のもの静まれ!!只今から第ニ皇女リミー様の処刑を開始する」
兵士の大声に大衆は一瞬にして静かになった。リミー兵士に支えられながら立っている、青ざめ震えながら今にも気絶しそうだ。
「これよりリミー第ニ皇女の罪を読み上げる、他国王との不貞行為計3件、政治関係者との不定行為他国本国を含め30件、一般富裕層と不貞行為161件、および詐欺行為194件。よって処刑とする。これは法による決定ではなく皇帝直々の命令である」
大衆は騒つく。不貞行為ってこの年でそんな数。でも処刑はやりすぎじゃ。
「これより、血を吸う鎧にて処刑を行う」
真っ黒なおどろおどろしい胴の部分しかない傷だらけの鎧が錆びた箱から取り出された。血を吸う鎧なんて悍まし名前だ。兵士がリミーの前に鎧を運ぶ、するとリミーは髪をぐしゃぐしゃと掻き回し始めた。
「あーこんなはずじゃなかったのに!!ヒキニートからこんなかわいい女の子になったらいろいろ遊びたくなるじゃん!しかも皇族ってやりたい放題だと思うじゃん!くそー、また転生してやる」
号泣しながら大衆に向かってリミーは叫んだ。錯乱しているのか?これ以上喋らないように口をおさえられた。鎧を頭から兵士がゆっくりと被せようとする、これであの子は死んでしまうのか、あまりにもかわいそうだ。少女が目の前で死ぬところなんて見たくない。
「俺を先に処刑してください」
気持ちが声に出てしまった。大衆にも聞こえたのか騒ついている。それはそうだ、誰もが知る国の皇女が罪を犯し処刑される所についでに処刑される紹介もなしに誰かもわからない男が大声で順番の入れ替えを訴えるなんて、前代未聞だろう。
「静まれ民達、紹介しよう。この男は、我が国の皇太子であるロキ様殺害未遂容疑で今日、リミー様の後、処刑される男だ。だが自ら先に処刑されたいと見事な騎士道に免じて順番を入れ替えようじゃないか、どうだ民達よ」
兵士の声に民衆は沸き立つように声を出し賛同しているようだ。
(俺が皇太子殺害未遂?)
リミーの方を見ると少しだけ、心に余裕ができたのか、こちらを見て少し口角が上がったように見えた。
俺はリミーと入れ替わるように中央に引きずられ立たされた。鎧を近くで見ると、悍ましさが伝わって来る。
「それでは気を取り直し。この罪人を血を吸う鎧にて処刑を行う」
鎧を頭の上から降りて来る。俺は自分が誰かもわからないきっと死んでも誰も悲しまないし、俺も悲しくはない。目を瞑り、思い出す走馬灯もなく、鎧を着せられた。着た感覚のあとすぐに意識が遠のいた。
ここは、目を開けると上も下も真っ赤だ射してくる光さへ赤い世界、死んだのか俺は。呆然としていると人影が近いて来る。人間がいるのかと思い目を凝らすと、赤い泥人形のような物が足を引きずりながらこっちに向かってくる。逃げようと思ったが、たぶんここは死後の世界、受け入れよう。泥人形がゆっくりと俺を覆いかぶさるように包み込む。なぜか泥人形がひとりまたひとりと覆いかぶさる度に哀しみが込み上げて来る。この泥人形達の記憶だろうか、痛み、苦しみ、恐怖、悔しさを全て混ぜ合わせような悲しみ。俺は無意識に泥人形を抱きしめた。
「ごめん、ごめんな、辛かったろう」
哀しみに寄り添うように誤り続けた。何にが覆いかぶさったのだろうか、重さは感じないが沈んでいくような感覚だ。このまま俺は……
「待て!待つんじゃ」