8-20 最後のお仕事
騒がしい神ダイナミは去っていった。そのおかげで中断されていた事にやっと取り掛かれる。
とりあえずとしては、最も取り乱しているところ、ベルテの元へ向かおう。
「ただいまー……」
「トワッ!」
箱庭へ帰ると、ベルテが痛いくらいに抱きしめてきた。後ろで妹のため息が聞こえる。なかなか苦労してたみたいだ。
「無事なんですよね?怪我とかありませんか?何がどうなったかとか、色々説明してもらいますからね!」
「うん。無事無事、かすり傷一つないよ。状況の説明は……そっか、言葉分からないもんね」
僕の方は外で結構色々とあったけど、ベルテからしてみれば、なんの説明もされないままお別れムード全開で放置されていたのだ。
心配で時折様子は見ていたが、なんか妹の体を掴んでガクガク揺らしてたっけ。そりゃため息も出るか。
「んーと、何から話そうか?ひとまずトワの紹介から入る?」
「は、はい。お願いします」
「うん、トワおいで」
僕が妹を呼ぶと、彼女はトテトテと小さな歩幅で歩いてくる。懐かしいなぁ。日本にいた頃を思い出すよ。
「何回か説明したから分かってるとは思うけど、この子がトワ。僕の家族で妹で、今のこの美少女ボディの元でもある。
過去の、日本って言う別の星の国から僕の魂を持ってきて、トワの体と混ぜ合わせた結果生まれたのが、僕ってわけ。
どうかな?こんな説明で」
「はい。よく分かりましたよ。妹さんのおかげで私はトワと出会うことが出来たんですよね。本当にありがとうございます。今、あなたのおかげで私は幸せです」
「……ええ、もっと感謝しなさい。だってさ」
妹自体は人の言葉も分かるのだ。ただ、ベルテが認識できる言語を持ち合わせていないため、テレパシー的なもので受け取ったものを僕が通訳する形になる。
後でモノアイに発声の先生をしてもらおうかな?彼は魔族とのハーフだけど龍の方が近いし、きっと何とかしてくれると信じてる。
「それじゃあ、あとはアランたちと合流してから話そう。僕は……もう一個やることがある」
箱庭に一番に帰ってきた理由はベルテを落ち着かせるためであるが、最後の責任。グレイス王国の件でニヴィが廃人になってしまったのを、まだ治していない。
通常世界の時間軸は僕の理想に組み替えたが、異空間は別。隔絶されているのだからその効力は及んでいない。しかも、その時は妹を助けることに必死になって、彼女のことまで気が回っていなかった。
だから今こうしてニヴィの前に立っている。
でも心配する事なんて一つもない。これから行うのは時間の巻き戻しでは無く組み替え。彼女が死んでしまった時間軸をそうで無いものと入れ替えるのだから、心が壊れてしまうなどという事は起きないのだ。
「お、お?にゃんで……ここどこ?」
「ニヴィちゃん!」
「わ!ベルテちゃん?どしたん?そんなメスの匂いプンプンさせちゃって」
「え!?うそ、私、そんなに臭いますか?」
「んー、臭うって言うか、フェロモン出まくりみたいにゃ?あんまりオスの前に行かにゃい方がいいかもにぇ」
ここに来て新事実。ベルテといるとなんだかHな気分になっていたのはそういう事だったのか!?
ま、まあ、今はそれは置いといて。
「ニヴィさん、ごめんなさい。記憶は無いと思いますが、僕のせいで辛い思いをさせてしまいました。本当にごめんなさい!」
僕は誠心誠意頭を下げた。しかし、
「え、えっと。にゃんにょ事?」
何の事、か。いや、それでいいんだ。あんな記憶は無い方がいいに決まってる。
だけど、この謝罪は形だけでもいいから受け取ってもらわないと。
「分からなくていいんです。でも、これから何不自由のない生活の保証。これだけは約束します」
「ん?んん?新しいご主人様って事?
……あ!白いおんにゃにょこ!ベルテちゃん、もしかして?」
「あ、はい。私の……えっと、旦那さんというかお嫁さんというか」
「わ、わー!おめでとう!じゃあ、こにょ家ってもしかして、わ、わー……」
ニヴィも年頃の女性。友達のそういう姿を想像してしまったのか、顔を赤くしてモジモジしている。
でもま、新しいご主人様か。結構長間お世話をしてきたからそういう感じはしない。どっちかって言うと親の再婚相手の連れ子……いや、恋人の姉が妹って感じか?
なかなかに複雑な家庭環境になりそうだが、それもいいだろう。
でも幸せならokですって事だね。
「お兄ちゃん。それで、あの肉ダルマはどうなったの?」
「あ、うん。それなんだけど、話してみたら煩いけど憎めない、みたいな神様だったよ。ちなみに、力の神なんだって」
「そうなの。でもお兄ちゃんが無事で何よりだわ」
妹への説明はかなりあっさりで終わった。毎回巻き戻っているとはいえ、全部合わせたら数百年は同じ体を共有していたのだ。少なからず以心伝心のようなものが働いたのだろう。
その後、モノアイにも同じような説明をして、もう一つの異空間組、エルフィエンドらにも現在の世界の事を伝えた。
あの死火山で生活していたものは、前回の世界では何人か亡くなっている。アウロ・プラーラへ行った時に変な誤解が生まれないようにするための説明だ。
と言っても、今の彼女らには何の意味もない話。これからも変わらず異空間に国を作り続けるようだ。
「よし!こっちでやることはこんなもんかな?
あとは通常世界の方。記憶にズレがあるのは……アランとネジャロさんだけかな?他の人たちとはずっと一緒にいた訳じゃないし」
あと少しで全てが終わる。もう感情が時間の流れに影響することも無く、僕は空間の裂け目を開いたまま、ベルテと妹を連れてアウロ・プラーラへ飛んだ。