表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/101

8-16 Κρόνος

初めに、前話がグロいらしいからムリ!と飛ばした方用にあらすじを置いておきました。

―――――――――― 以降が、今回のお話です。(*´︶`)ノ

 

 

 ◇前話を飛ばした方用◇

 

 夢に囚われているトワ。寝る前までは幸せな日常だったのに、朝になったら何かがおかしい。

 母も学校のみんなも、先生も。

 気持ち悪い。気持ち悪い……

 この世界はおかしいよ。

 

 そんな世界で、僕は人を殺してしまった。そんなつもり無かったのに。軽くあしらっただけなのに……

 でも、誰も僕の事を責めない。それどころか、さも当たり前のように散らばったソレ(・・)を片付けている。

 意味、分からない。怖い……

 それに、みんなみんな、楽しそうに死んでゆく。

 

 やっぱり、この世界はなんだかおかしいよ。

 しかし、何がおかしいのか分からない。分かっているはずなのに、それを拒否するかのように頭が分からないと言っている。ただ、おかしいという感情が大きくなるにつれ、胸が激しく痛む。

 

「トワちゃん、大丈夫?」

 

 その世界で、ベルテは先生だった。教育実習としてやってきた先生。

 でも僕は、一目見ただけでそんな彼女に恋をしてしまって。

 

「胸が……痛い。大丈夫じゃない、かも」

「そうですか……ではそろそろ起きましょう」

 

 ベルテ先生は僕に大人なキスをする。

 初めて味わう感覚のはずなのに、どこか懐かしくて、もっともっとと体が快楽を求める。

 

 そこで僕の目は覚めた。夢から覚めた。

 

 僕がいたのは箱庭。

 時間を止めていたはずのベルテが何故か動いていて、「よかった、よかった」と、涙を流しながら僕を抱きしめる。

 そして、僕の胸には槍が刺さっていたらしく、今では服に大穴だけが空いている。

 

 ――なんでこんな事に?確か外に行って、(トワ)と全てをやり直すために過去へと行こうとしたはずだけど……そうだ、行けなかったんだ。

 で?なんで僕は箱庭にいるんだ?外に(トワ)もいないし……

 

 僕は再び外へ出ようと、警戒しながら一歩を踏み出す。

 

 

 ―――――――――――――――

 

「トワ、外に行くんですか?何が起きたかも分かってないんでしょう?だったら、私も――」

「ごめんね、ベルテ。大好きだから……だからこそ、待ってて」

 

 僕は全部を無かった事にしようとしている。

 数え切れぬほど犯してしまった殺人も、世界中から指名手配されている現状も、モノアイやエルフィエンドら、助けた人々も……ベルテとの幸せな生活も。

 世界の時間を巻き戻し、何も起きなかった事にしようとしているのだ。

 

 それでも、諦めきれないものはある。

 前回から今回の世界へ移行する時、モノアイは全て忘れていなかった。

 それは彼が特別だったからなのか、それとも異空間という、巻き戻る世界とは別の空間にいたからなのか。

 もし後者ならば、箱庭にベルテを置いておけば、僕の事を忘れないでいてくれるかもしれない。僕の事を、好きでいてくれるかもしれない。

 

 だから、ベルテはここ(箱庭)に置いて行く。愛しているからこそ、置いて行く。

 

「どうか、次の世界でも僕の事を好きでいてください」

「トワ……行かないで……」

 

 ボロボロと大粒の涙を流すベルテに最後の願いを伝えて、僕は外へと転移(テレポート)した。

 

 

「トワ!どこにいるの?トワ!」

 

 外の、あの木陰へとやってきたが、(トワ)はいない。空間把握(マップサーチ)で探してみても、見つからない。

 

「なんで?確かにいたはずなのに……」

 

 僕の記憶は途中で途切れている。

 トワと再会して過去の日本へ行こうとしたが、行けなかった。覚えているのはそこまで。

 その後は、よく分からない夢を見て、目が覚めたら箱庭にいた。この胸に空いた大穴付きで。

 

 ――どこかからか攻撃されたのかな?でも、空間魔法の索敵能力を掻い潜って?数千キロも見通せるっていうのに、一体どうやって……

 

 その時、全開にして警戒していた空間把握(マップサーチ)に、僅かな時間の揺らぎが感じられた。場所は……

 自身の直下。

 

「ッ!?」

 

 僕は突然のそれをギリギリ躱す。目視転移(ショートテレポート)がなければ、確実に喰らっていた。

 そして、さっきまで僕がいたところには黒い槍が。そう、槍だ。

 

「お前は……何故動いている。ソレを刺したはずだが」

 

 その声の主は、姿こそ見えないが困惑しているのがよく分かる。

 きっとあの槍は必殺なのだろう。時間を止める槍。多分そうだ。

 

「不思議?なら教えてあげるから出てきなよ。そんなネットアンチみたいに引き篭ってないでさあ」

 

 ……何故例えがネットアンチなのか。まあ、見えないところからチクチク攻撃してくるのだから、あながち間違ってもないか。

 

 そんな挑発に乗ったのかは知らないが、声の主は黒い槍を連発してくる。だが、もうタネが割れているのだ。当たってやるはずが無いだろう。

 

「ねえ、いい加減出てきなって。そんな攻撃、もう何回やったって当たんないよー。お話しようよ、おじさん♡」

「我はおじさんではなぁい!!!」

「うっそ。コレで出てくんの?ちょっと……アレだね」

 

 煽り耐性の無さを少々憐れみながらも、現れた声の主の情報を読み取る。

 

 ――種族が、分からない?人みたいな姿をしてるけど……あ、でも一部なんか消えかかってるみたいな。状態は……健康だ。

 ……何こいつ?

 

 トワの前に現れた何かは、手足や髪の先なんかが薄らとしている、石灰色の肌をした男性。

 怒りでプルプルと震えているくせに、顔に一切の血の気が無いのだから気持ち悪い。

 

 だがこれが攻撃してきたやつの正体だ。そうと分かれば、排除するのみ。

 だがその前に、

 

「ねえおじさん。ここにフェンリルがいたと思うんだけど……その子はどうした?」

「はん、あの魔物であれば先程殺――」

「殺す」

 

 最悪の予想が当たってしまった。

 僕は怒りに任せて男がいる空間丸ごと粉々に砕く。地形がどうなろうと知った事では無い。が……

 

「……なんで」

 

 無傷。僕の攻撃が当たっていないかのように、男には一切の変化がない。

 

「先程の魔物と同じ反応だな」

 

 男は話しながら、予備動作すら無く大技を繰り出してくる。

 今度のは、広い。

 

「あっぶな!」

 

 さっきまで連発していた槍とは違い、今回のは隕石のようなものだった。と言っても、発生場所が僕と同じ所なんだから笑えない。

 

 何とかギリギリ、本当に紙一重で躱せたその隕石攻撃は、連発してこない。

 ためが必要とかだろうか。

 

「なんなんだ、お前は。そんなに乱雑に転移ばかり繰り返しおって。さっき我に放った攻撃も、かなりの魔力消費だろう。そろそろ大人しくしたらどうだ?」

 

 ――魔力、消費?そっか、こいつ僕の魔力が無限にあることを知らないんだ。

 てか、もしかしてこいつには上限がある?

 

 攻撃が透けてしまい、勝ち目が無いかと思われたが、光明が見えた。

 僕は目視転移(ショートテレポート)で男の周りを飛び回り、適当なタイミングで攻撃を交えてゆく。そして会話も。

 

「ねえおじ……お兄さん!あんた何なの?種族とか見えないし、その体とか」

「…………」

「ちょっとー、だんまりはやめてよー」

 

 槍、時々隕石が降る最中、僕は男を観察し続けている。それでわかった事だが、体の色がさらに薄くなっている。

 もしかして、この男は体そのものが魔力なのか?

 だとしたら!

 

 僕は最後の一手のために、とある者に一声かけておく。

 

「ねえおじさん!もしかしなくても神様だったりする?時間の神とか」

「だからおじさんでは無いと言っているだろうが!!!」

「おっと!?」

 

 男は二連続で隕石を放ってきやがった。流石に範囲が広すぎたので、転移(テレポート)で一時離脱。

 

 ただまあ、時の神っていうのは確定だ良さそうかな。攻撃を喰らったら時間を止められるみたいだし。その攻撃の前兆として一瞬だけど時間が乱れるし。

 それに、僕の時間魔法が使えなくなったのも多分あいつのせい。

 とにかく今は、魔力を使わせ続ける。

 

「危なかったよおじさん。でも、ふふふ……体の色、どんどん薄くなっちゃってるねー」

「何なんだ、何なんだお前は!!!」

 

 男は最後っ屁のつもりか、隕石に槍に、とにかく連発しまくる。

 その裏で、逃げようとしているのが見えた。

 

「来た!モノアイさん、お願い!」

「了解だ!」

 

 最後の一手。それは、残った魔力を全て吸い尽くす事。

 モノアイが男の目の前に現れ、辺りの魔力を容赦なく吸い尽くす。僕も追い討ちとして、脱皮で剥がれた彼の鱗を投げつけまくる。

 

「この……クソ共がー!!!」

 

 男の最後のセリフは稚拙な暴言だった。神としてそれはどうなんだろうか。

 それでも、(トワ)の仇は取れた。後はこの男から彼女の遺体を出させるだけ。

 

「おい糞ジジイ。トワを返せよ」

 

 山のように積み重なっている鱗を退けると、もう視認できるかどうかも怪しいほどに、殆ど透明になった男が現れた。

 その男はなんだか口を動かしているっぽいが、何言ってんだか聞き取れない。

 

「え?なんて?ちょっ、もっかいもっかい!」

「そんな……事をしなくても、思い通りにできる……我を倒したの、だから」

 

 耳を近づけてようやく聞き取れたそれは、

 

「は?」

 

 となる内容だった。

 男はそれだけ言うと、スーッと吸い込まれてゆく。あろう事か僕の中に。

 

「え!?ちょっ、と……モノアイさんどうしよう、変なもの食べちゃった……」

「あー……害が無いことを祈れ」

 

 モノアイは大きな手で僕の体に触れるが、吸い込まれていった男は魔力では無くなったのか、どうにも吸い出す事が出来ないらしい。

 

「えー、嫌だよ。あんな変なおじさんと同居とか」

「誰が変なおじさんかー!!!」

「うわッ!?え?え?」

「ど、どうした、トワよ」

「いや、おじさんの声が響いてきて」

「だからおじさんじゃないと!」

「ほら!」

 

 モノアイは首を傾げる。どうやらこの声は僕にしか聞こえていないらしい。吸い込んだせいで煩い同居人ができてしまった。最悪だ。

 ただ気になる事を言っていた。「思い通りになる」と。

 

「ね、ねえ、そろそろあんたの正体を教えてよ。やっぱり時の神な訳?」

「ああそうだ。我は時間神クポボス!それはそうと、お前こそ何者だ。この……は?……馬鹿みたいな魔力量は」

 

 馬鹿みたいとは失礼な。もう少し別の言い方があるだろうに。

 

「いや、そんなのどうでもいいからさ。さっき言ってた思い通りになるって何?トワは返してくれんの?」

「なに、それだけでは無い。お前の好きな時間軸にしたらいい。もう時の神となったのだから」

「……は!?え!?」

 

 どうやら僕は、知らない間に時の神になっていたらしい。いやまじびっくり。

 

 

 

Κρόνοςは古代ギリシア語ですが、そんな事を知らない人から見ればクポボスですよね(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ