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8-10 慣性の法則。知らぬが仏

 

 

  皆は知っているだろうか、星の自転、その速度を。

 地球の場合、赤道付近で大体時速1700キロ。

 つまり、普段何も気にせずのほほんと生活している私たちであっても、実は音速を超える速度で移動し続けているのだ。

 現在、トワたちが暮らしているこの星も例外ではなく、暖かな日差しを振りまく恒星の周りを、ぐるぐると公転しながら、これまたぐるぐると自転しているのである。その速度はほぼ一定。厳密には、少しづつ遅くなってはいるのだが、まあ、100年程度しか生きない人類が気にすることでは無い。

 

 と、皆もこんな勉強じみた話は好きでは無いだろう。だから簡単に言うと、実は皆すんごい速度で、東に向かって移動してるって事。

 それだけ覚えておいて貰えれば十分だ。

 

 ◇◆◇

 

 トワたちは、エルフィエンドの気付きに基づいて、実験の最終段階に移る。

 エルフィエンドの気付いたこと。それは、トワの感情が通常世界の時間にも影響を及ぼしているのではないか、という事。

 それを確認するのだ。

 

 やり方は至ってシンプル。

 あの時の夜のように、ただ何もせず、羊でも数えながら時間が過ぎるのを待つだけ。

 その場にいるトワ、ベルテ、エルフィエンドの三名は早速準備に取り掛かる。

 トワは通常世界で時計を持って待機。一方、ベルテとエルフィエンドも、時計は持つが異空間で待機だ。

 この実験はベルテと一緒にはいられない。何故かって?一緒にいたらイチャイチャしてしまうからに決まってるだろうが!

 それならそれで、時間が早く進むかの確認にはなるのだが、今回は遅く進むかどうかの確認だ。これには暇でなければならない。

 

 という訳で、いやいやと今生の別れのように泣き叫ぶベルテはエルフィエンドによって連れ去られて行った。

 必要な事とはいえ、流石に心が傷んだので、後で思う存分甘やかしてあげよう。

 トワはその場でゴロンと横になる。

 カチカチと一定のリズムを刻む時計を掴みながら、空を流れる雲を羊に見立てて数えてゆくのだ。

 

「あー……めっちゃ暇」

 

 チラと時計を見ても、まだ五分と経っていない。

 検証のため、一時間と決めたのだが、これはマズったかもしれない。

 そんな時、異空間でベルテの手が挙がった。

 

「もしかして、もう一時間経った?」

「はいっ。トワ、寂しかったです!後でいっぱいしましょうね……」

 

 抱きついて離れないベルテの背を優しく撫でながら、異空間側の時計を見る。その針は、トワが持っていた時計から55分ほどズレている。

 きっちり、外の世界の時間が遅れている証拠だ。

 だが、まだ確定はしていない。早くなるかも確認せねば。丁度ベルテもその気のようだし、外で致してこようか。

 

「それじゃあエルフィエンドさん、行ってきます。えっと……ご飯でも食べてきますね」

「あ……はい。了解しました」

 

 トワとベルテは実験がてらご飯を食べに行くと言い、外へと向かう。

 が、もちろん嘘で、バレないように誤魔化したのだが遅すぎる。普段からベッタリくっついていて、結婚してることも知られているのだ。二人してそんな赤らめた顔で出て行っては、誤魔化すにも無理がある。

 

 トワとベルテは青空の元、茂みに隠れて……

 背徳感あるこの状況で、変な癖に目覚めそうだったが、そうなる前に一時間がたった。先程の何もしない時間とは比べ物にならないほど早く。

 

「た、ただいまー……」

「おかえりなさい。随分早いですね」

「どれくらい経ってます?」

「……まだ一分も経ってないですよ。一体、どんな楽しいことをしてきたのやら……」

「あ、アハハ。ご飯を食べてきただけですって……」

「そういう事にしておきますよ」

 

 エルフィエンドに半ば呆れているような、生暖かい目で見られはしたが、実験の結果としては大成功。

 トワが退屈に感じれば世界そのものの時間が遅くなるし、楽しく、若しくは幸福に感じれば早く進む。

 これであの、帰ってきたら一年も経ってましたなどと言う、浦島太郎のような状態にならずに済む。

 

 原因も分かったのだ。

 あとは逐一異空間の様子は観る事として、中断していたグレイス王国消滅の痕跡探しへと戻ろう。

 と言っても、もうすぐ目の前まで迫っていた山にそれは見つけているのだ。

 トワは満足そうな顔をしているベルテと別れ、山の目の前へと転移(テレポート)する。

 アウロ・プラーラ付近の街道に開いていた空間の裂け目も閉じて、こちらの事件に完全に注力する事にしたのだ。

 

 その裂け目があったところ付近は、突然元の時間の流れへと戻る。

 トワの異空間が杭のような役目を果たしていたため、それがその場に開かれていた時は特に問題は起きなかった。

 しかし、トワが東の山方面へ向かうため裂け目が閉じられたその街道付近は、地盤ごと東へ向かって吹き飛んでゆく。

 まるで、グレイス王国と同じように。

 

 トワはまだ気付かない。

 この未曾有の災害が、自身の感情により引き起こされた出来事だということに……

 

 

少々理科の授業のようになってしまいましたね。

このようなもし~だったらという、ドラ〇もんの道具のような出来事を考えるのは結構好きなんです。

気になった方はYouTube等で、地球の自転が止まったら、と検索してみて下さい。

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