8-4 恋敵襲来!打ち砕かれる心と失意の娘
今回はコメディ色が強い回です。
少ししか本編の内容は進みませんが、楽しんで貰えたら幸いです。m(*_ _)m
グレイス王国が突如消滅した。
それは、辺り一帯が更地になるほどの大事件だと言うのに、まだ殆どの国には知られていない。
再会を果たしたトワとエルフィエンドは、その喜びも束の間に伝令へと行動を移してゆく。
「ひとまず、少人数でノゾミのところへ行ってこようと思う。それでいいかな、トワさん」
「あまり大人数で行っても迷惑ですもんね。お願いします」
トワはエルフィエンドと他数名を、通常世界へと送り届ける。
後は彼女たちの働きに期待しよう。突拍子も無いこと過ぎて、嘘だと思われなければいいが……
「そ、それで、うちら残った人たちは何をすればいいですか?」
「んー……そんなにやることがある訳じゃないんだよね。これからの動きだってエルフィエンドさんたちの結果次第だし」
「それなら!またグレイス王国の跡地に行きませんか?何か少しでも痕跡とかが見つかれば、原因究明の助けになるかも知れませんよ?」
「あ、確かに。じゃあ皆で手分けして探してみよっか!」
ベルテがトワの腕を引っ張り、抱き寄せるようにして出した案を実行に移す。
優しいベルテのことだ。ニヴィたちいなくなってしまった人が心配なんだと勝手に納得しているが、それだけでは無い。
トワを狙っている泥棒猫が発情顔で近づいてきていたから、咄嗟に引き離したのだ。意気揚々と人々に任務だ!と叫ぶトワの後ろで、女二人が火花をバチバチに散らしている。
平和だった世界に悩みの種が芽吹いてしまったね。
「さて、これから皆さんには、痕跡探しをしてもらいます。グレイス王国跡地に着いたら、なんでもいいので見つけたものを教えてくださいね。質問ある人?」
「はい!」
「はいどうぞ……そこの君!」
まだ殆ど名前を覚えていないくせに、調子に乗って質問はあるかなどと聞くからこうなるのだ。
無理矢理誤魔化したのだが、幸い誰にも勘づかれなかったようで。後でエルフィエンドからもう一度名前を教えてもらった方が良さそうだ。
「なにか見つけた時の合図はどうしたらいいんですか?」
「それは別になんでもいいんですけど……頭の上で大きく手を振る。これにしましょう。他には?」
「エルフィエンドの用事が終わったら分かるんですか?」
「はい。バッチリ観ておくので、何も心配しなくていいですよ」
その後も行先は安全かどうかなどと質問は続いたが、トワがしっかり目を光らせておくという事で手打ちとなった。
「それでは皆さん、行きますよ!」
箱庭に巨大な裂け目を作り出し、全員で突撃だ。
「はい到着!皆さーん、散らばってくださーい」
60名程がわらわらと散開してゆく。下を見たり上を見たり、遠くを見ている者もいる。
トワとベルテも一応探している体は取るのだが、やはり何も無い。瓦礫一つ、食べかす一つすら見当たらないのだ。
「ベルテ、魔力の流れとかは?」
「特になんとも……こうなる前のグレイス王国と変わりません」
「そっかー……」
しばらく何のアクションも起こらない時間が流れる。
そして、ついに遠くの方で手が振られた。空間把握全開で警戒しまくっていたトワは一瞬で気付き、ベルテと共にそこへ急行する。
「何が見つかった?」
「うわっ!?え、えっとそんなに大事じゃないんですけど……これを見てもらえますか?」
そう話す少年が指さす方向には、特に何も無い。少年は魔族では無いのだから、トワと見えているものは同じだろうが……やっぱり何も無い。
「んー?この地面が何か?」
「あ、地面は地面なんですけど、この擦れた跡みたいなやつの方です」
「……あー!なるほど!うんうん、確かにあるわ!」
何かが擦れたような跡。それは物では無いし、あちらこちらにあるから見てすらいなかったのだ。
少年に言われて気付いたが、殆どが同じ方向を向いているではないか。
「これは……東かな?それとも西?」
横方向に長く伸びている跡は、吹き付ける風で消えかけていて判別し難い。
しかし、間違いなく東か西に引き摺られたであろう事は予想できる。
「とりあえず、かなり大きな収穫だと思うよ。ありがとね少年」
トワは自分より少し大きい少年の頭を撫でる。元高校生だから大人ぶっている訳では無いのだが、少年はなかなか複雑な気持ちらしい。
嬉しそうな、それでいて少し照れくさいといった感情が見え見えだ。
「ベルテ、僕はこの跡の先を見てくるよ。みんなと一緒に箱庭で待機しててもらっていい?」
「はい、分かりました。私の方も少し用事を片付けておきますね」
更地中に散らばった皆を集め、箱庭へと戻る。
ベルテが猫人族の女の子と仲良さそうに手を繋いでいるが、用事というのはそれに関係しているのだろうか?
――ん?なんかモヤっとした気分に……ハッ!まさか浮気!?ヤダヤダそんなの!
「ベルテ!僕のことまだ好き?」
「?
もちろん愛してますよ。何でそんな当たり前のことを?」
「当たり前……そっか。僕も愛してるよ、ベルテ!」
大勢に見られているというのに、恥ずかしげもなくキスをしたり抱きしめたり。
それは本当に、全くもって偶然だが、ベルテが捕まえていた猫人族の女の子にクリティカルヒットしていた。
そう。トワからは仲良く手を繋いでいるように見えた二人だが、実際は真逆。
その女の子がトワに着いて行こうとしているのを押さえていたのだ。
それがどういう訳か目の前でキスを見せつけられ、その女の子は絶望の縁に沈んでしまっている。
「は……はは。ネトラレだ。ネトラレちゃった……こころが壊れりゅ……うちの、初恋が……」
項垂れる女の子の肩を、哀れみが籠った視線と共に優しく叩くベルテ。
やめてあげて欲しい。逆効果だから。
「は、はは……はぁ……」
女の子はパタリと力なく倒れ、もうピクリとも動かない。
その子にとって、今一番声をかけて欲しい存在はついさっき行ってしまった。
ベルテはうんしょと抱きかかえ、他の皆が集まる場所へと女の子を運んで行くのだった。
頑張れ、名も知らぬ女の子よ!きっと新しい恋はすぐやってくるさ!(名前覚えてないのはホントごめん)