8-3 宝石降る箱庭と、騒動の幕開け
「ちょ……っと、色々聞きたいことはあるんですけど、さっきの血のやつとか。でもとりあえず、みんなと合流しましょう!」
「あ、はい。その時に話しますね」
パラエスと再会し、ベルテやモノアイ以外にも味方ができたトワ。
三人は、他の皆と合流するためにアウロ・プラーラへと向かう。
のは出来ない。
「僕達は国に入れないので、申し訳ないんですけど、呼んできてくれませんか?その後、集まれる場所は用意するので……」
「あ!そうでしたね。すぐに集めてきます!」
パラエスは一人でアウロ・プラーラへと向かって行き、途中にいる仲間たちにも声を掛けていった。
彼らが遠くから手を振ってくれていて、嬉しさが込み上げてくる。
「やりましたね、トワ。国を作る第一歩がようやく!」
「うん、ほんとに嬉しい!守る人が増えるね!」
ここ暫くはベルテを守る事だけに専念していた。だが、これからはたくさんの人を守るべく動くことになる。
指名手配犯の味方となってくれる人々だ。出来るだけ不自由の無い生活を保証してやりたい。
アウロ・プラーラでは、元死火山の住人たちは歓喜に湧いていた。
パラエスら外回り班が連絡係に事の経緯の話し、その連絡係がダンジョン内部や宿待機の年配者たちにも触れ回る。
そして、敵との戦闘中だろうが道具の整備中だろうが関係なく集まり、トワとベルテが待つ街道の外れへと向かって行く。
ここまでの出来事が二時間も掛かっていない。本当に嬉しい限りだ。
「トワさん!ベルテさん!良かった、無事で」
「エルフィエンドさんも皆さんも、僕たちのために、ありがとうございます!」
お互いに探し求めていたものに出会い、和気あいあいと会話に花を咲かせる。
「それで、私たちが貴方たちを探していることが分かってここへ?」
「あ、いえ。それに関してはさっきパラエスさんから聞いて初めて知りました。本当にありがとうございます」
「そうだったんですね。ということは偶然?」
「いえ、実は伝えたいことがあって。ここだと場所があれなので、着いて来てください」
トワは茂みの中に箱庭へと続く裂け目を作り出す。
ほぼ全ての者は驚きすぎて腰を抜かしていたが、エルフィエンドだけはやっぱりといった感じで満面の笑みを浮かべている。
「エルフィエンドさんは知ってたんですか?僕の魔法を」
「ただの予想ですけどね。いきなり景色が変わったりと、普通であれば有り得ないことでしたから。空間魔法、ですよね?」
「はい。まあもう一個、時間魔法も使えますけどね」
「なッ!?」
エルフィエンドもここまでは予想出来ていなかったらしく、口をあんぐりと開けて固まってしまった。魔力も無限にあるよと伝えたら、一体どうなってしまうのだろうか。彼女の顎が外れない事を祈るばかりだ。
「さあ皆さん!僕たちだけの世界、箱庭へとご招待致します!簡単にですけど料理も用意するので、話を聞くがてらくつろいでいってください!」
63名を連れて空間の裂け目を通れば、トワが思いのままに操れる異空間だ。
西の空には夕焼けが、真上を見ればオーロラが、東の空には満点の星空、大地には淡く輝いている草と、現実では有り得ない景色が出迎える。
ロマンチック?そんな言葉では生易しい。まさに非現実的な、誰も見たことが無いような景色なのだから。
「……綺麗……」
「どうですか?気に入って貰えました?」
「ええ。凄いですね、ここは!一体何処なんですか?」
「僕が魔法で作り出した世界です。だからこんなこともできるんですよ」
トワは遠くに雨を降らせる。
夕日の輝きに照らされて、キラキラと眩い光が反射する。
「な、なんで雨があんなにキラキラと……」
「どこか別の星では、ダイヤモンドの雨という現象が起きるらしいです。近寄ると危ないので遠くでやってますが、それを再現してみたんです」
「……凄すぎますよ。トワさん、貴方は女神だったりしないのですか?」
「いいえ、ただの人……フェンリルと体を分け合った転生者です。
さ、すぐに食事を準備するので、景色とかを眺めながら待っていてください」
トワがサラッと重大な情報を公開してゆくので、エルフィエンドらは驚きっぱなしなのだが気にしない。
彼女たちにはここに住みたいと思ってもらいたいのだ。最大限のおもてなしをせねば。
「トワ、作る料理はやっぱり?」
「うん、ポテトシチュー!初めて振舞った時からは大分材料も揃ったし!」
エルフィエンドらを助けた時に限られた材料で作った料理。小麦粉やコンソメ、バター等が無く、なんちゃってシチューではあったが、彼女らは美味しいと言って食べてくれた。
今回は全ての材料が揃っているのだ。完璧なものを食わせてやる。
もう彼女らの前で力を隠す意味は無い。
空間魔法の力で一瞬で具材を切ったり砕いたり。時間魔法の力で炒めたり煮込んだりの時間は一瞬で。
完成までに要した時間は、一分だ。
「はいどうぞ!懐かしのポテトシチュー完全版です!召し上がれ!」
「ああ、ありがとう。凄すぎて乾いた笑いしか出てきませんよ」
63人分もお皿がないので順番に食べて貰い、ここに集めた本題へと移る。
「では、僕たちがあなた方を探していた理由をお話します。
簡潔に……グレイス王国が消滅しました」
「国が……消滅?それは災害かなにかで?もしかして……戦争でですか?」
「いえ、原因不明です。いつの間にか、抉れるようにして国周辺が更地となっています」
「なん……それは、一度見せてもらえたりはしませんか?」
「はい、もちろんです」
トワはエルフィエンドと志願してきた何人かを連れて、グレイス王国跡地へと向かう。
そこは相変わらずの砂埃舞う何も無い土地。
いくら長生きのエルフやその他の爺婆でも、モノアイと同じく、原因は突き止められなかった。
「ど、どうだったんだよ、エルフィエンド」
「……ああ、本当に何も無かったよ。あそこに国があったなどと、きっとトワさん以外から言われたなら信じられなかっただろうな」
「どうですか?一応安全なことは分かってもらえたと思うんですけど、ここから眺めてみますか?」
「は、はい。出来れば……」
志願しなかった者たちの目の前に空間の裂け目を作る。そこには、先程エルフィエンドたちが見たものと全く同じ光景が広がっている。
映画のスクリーンに映し出さされるようにして見えるその様は、フィクションだったなら楽しむことが出来たのだろう。
だがそれは紛れもない現実。
そこにあった建物も、そこにいた人も、全てが消えている。
やはり、彼らも恐怖を感じているようだ。
「な、なあエルフィエンド。似たような現象が起きたことは無いのか?あんた、無駄に長生きしてんだろ」
「無駄にって……まあ無いな。私の知る限りでは。
戦争だろうと地揺れだろうと、嵐だろうと何かしらの痕跡は残る。ああもさっぱり残っていないのは、考えられん」
「そう、なのか……」
結局、いくら話そうも結論は出ない。
それならば、今は各国に知らせて回るしかないだろう。
「それで、今回皆さんを呼んだのは、あの惨状を広めて欲しいんからです。出来れば、光魔法が使える写真屋の方にも協力してもらいたいので、もし知り合いにいるようでしたら、その伝手を借りたいなと」
「……誰か、写真屋の知り合いがいるやつは?
……そうか。すまない、トワさん。全員スカみたいです」
「いえ、いたらいいなくらいだったので。
それで、その……僕たちはお尋ね者なので、皆さんの協力を仰ぎたいんですけど、どうですかね?」
「ええ、もちろんですよ。この中に貴方からの誘いを断るやつなんて一人もいません!」
「そうですよ!何でも命令してください!トワさんには助けて貰ってばっかりですからね。働かせてくださいよ!」
「う、うちも……トワ様の言うことだったら何でも……」
「皆さん……ありがとうございます!」
全員が快諾してくれた。
トワはその事が嬉しくて気付かなかったが、ベルテは見逃していない。
まだ何名かはトワを狙っている。特に一名、あの女は私に近しいものを感じる。絶対にトワに近づける訳にはいかない!と。
「それでは皆さん、お願いします。それと、伝達が終わったらもう一つ大事な話がありますので、出来ればあの街道近くまで戻ってきてください。そしたら、すぐに見つけるので」
「ええ、分かりました。すぐに用事を終わらせてきます」
彼女らはアウロ・プラーラへ情報の伝達に戻った。
これから国内で、いや、世界中で大騒動が巻き起こる。