SS 死火山捜索隊、結成!
今回のお話は、エルフィエンドの視点になっています。
トワに助けられ、無事アウロ・プラーラに入国することが出来たエルフィエンドら死火山の住民たち。彼女らは、これからの生活に期待で胸を膨らませていた。
今まで住んでいた山は不毛の土地。
獲物となる動物はおろか、魔物さえ殆どおらず、ならば作物を育てようとしても、小さい実がなれば良い方。
だが、数年前まではそんなことは無かった。火山灰で農業が多少やりづらくはあったものの、元々火山という魔力が溢れんばかり溜まっている土地。動物も多く、食うに困るような場所ではなかったのだ。
それがこの数年で変わってしまった。原因も分からず、つい一月ほど前からは吹雪に見舞われて、あっという間に身動きが取れなくなった。
トワが不思議な力で助けてくれなければ、本当に危ないところだった。
殆どの者は何が起きたか分かっていないようだが、今になってみれば何となく予想は着く。
きっと神話の魔法。原理までは分からないが、空間魔法で別の場所と繋げてくれたとかに違いない。
まあ訳ありだと言っていたし、力を隠したいのだろう。ならば私は誰にも言わん。
せめて、助けてくれた恩を仇では返すまい。
それが、エルフィエンドの出した答えだ。
この場所が気に入った者は、アウロ・プラーラで冒険者として生きてゆくことになるだろう。
魔物を倒してお金を稼ぐ。稼いだお金で飯を買う。何とも素晴らしい。
私も冒険者になりたいものだ。
だが、まずはノゾミに合わなければ。
トワが言っていた。この国に私の息子がいると。本当に、何時ぶりだろうか。
何十年も探し続けても見つからず、もう死んでしまったのだと自分に言い聞かせていたが。まさか。
「中央ギルドのギルドマスターに会わせてもらいたい」
「えっ、と……いきなりそのようなことを言われましても……彼は多忙ですので、せめて何かしらの功績とか――」
受付に掛け合ってみたが、やはり断られてしまった。ノゾミはこの国のトップ。そうそう簡単に会わせて貰えないのは予想通りだ。
だが私にはこれがある。
エルフィエンドはポケットから作成したばかりの身分証を取り出す。
「え、エルフ!?ウソ、そんなことって……」
「どうかな?一応、私はノゾミの母親なんだが。これでも会わせてはくれないのか?」
「す、すぐに掛け合ってみます!」
受付の女性は、エルフィエンドが提示した身分証の内容を書き取り、超特急でカウンターを出て行った。
そして待つこと数分。
先程の受付の女性に連れられた男性は、豪華な服を着ていて、父親譲りの厳つい顔にエルフィエンド譲りの恵まれた体躯。
そうか、本当にノゾミは……こんなに大きくなって……
「ノゾミ、本当に、本当にごめんね」
「貴方は、本当に私の母なのですか?」
「ああ、ああそうだ。お前の父親の望はな、しょっちゅう変なものを作っては、何処ぞをフラフラと旅していたよ。
でも、戦争が始まった時は真っ先に私達の元に来てくれて、すぐに逃がしてくれた。そんな優しいやつだ」
「父さんのことを……そう、なんですね。貴方が私の母さんなんですね」
トワが言った通り、本当にノゾミはいた。
何百年ぶりに再会した親子は、これまでの生活を語り合った。
エルフィエンドは切り落とした耳も見せる。心配されたりもしたが、これは戒め。しなくてはならない事だったのだから後悔はない。
そして、話は彼女らを助けてくれた人物の事へと移ってゆく。
「そうだ、トワさんはお前の知り合いか?もし彼女に会えるのなら、ちゃんとしたお礼をしたいのだが」
「え、トワ……母さん、その女性の容姿は?」
「ん?それはもう、見た者は誰であろうと魅了されるような美貌に、白い髪白い肌、それでいて、真っ赤な瞳をした……そう、まさに女神みたいな人だったな」
エルフィエンドは嬉々として語る。だが、それを聞くノゾミの表情は険しい。
「それで?何処にいるか分かるか?」
「母さんこそ、そんな奴と何処で出会ったんですか?」
「……そんな奴?ノゾミ、いくらお前だろうと、私達の恩人にそんな口の利き方は――」
「ええ、母さん達を助けてくれたことは感謝してますよ。だけど、それとこれとは別です!少し待っていてください」
何故かノゾミは激情して、出てきた方向へと戻って行ってしまった。
しかし、その理由はすぐに分かることとなる。
「母さん、これを……」
そう言うノゾミの手には、一枚の紙が握られている。
エルフィエンドがその紙をめくると、トワの似顔絵が……
「そうそう、こんな感じの…………は?何だ、これは」
その紙には、トワの似顔絵とともに行った犯行。神像の破壊と、衛兵の殺害。並びに、神殿騎士とその信徒たちへの虐殺と書かれていた。
「おいノゾミ。誰だこんなものを作ったのは……見ず知らずの私達を、何の見返りもなく助けてくれたんだぞ!トワさんがこんなことをする訳が無いだろう!」
「いいえ母さん、事実ですよ。私の友人も亡くなっています。それに、書かれた虐殺から逃げきれた数人も言っています。あれは化け物だと」
「だから、きっと何かの間違いだ!……ほら、誰かが……そうだ、嫉妬で嘘を流、した、とか……」
エルフィエンドは言葉を詰まらせる。
トワは言っていた。「やりたくてやった訳じゃないことだけは分かって欲しい」と。
「僕のことは知られているって、まさか、この事だったのか……」
トワ本人の言葉とこの手配書。
きっと書かれている事は事実なのかもしれない。それでも、彼女に助けられた恩は変わらない。
エルフィエンドはトワの味方となることを、今、ここではっきりと決意した。
「母さん、こいつと何処で会ったんですか?すぐにでも討伐隊の派遣を――」
「悪いなノゾミ。それは言えない」
「ッ!?何故ですか!?彼女は……まさに悪魔なんですよ!きっと母さん達を助けた事だって、それで少しでも罪を軽くしようとしたに決まってる!」
「いや、トワさんは悪魔なんかじゃないよ。心優しい少女だ。
それに、いくら討伐隊なんかを組もうと無駄だろうな」
「それは、何故ですか?」
「悪いが、それも言えない」
エルフィエンドはフッと笑い、ノゾミの元を後にした。
「冒険者になるのもいいが……そうか、こんなことになっていたとはな」
「エルフィエンド、どうしたんじゃ?まさか、息子には会えなかったのか?」
「いや、会えたさ。だが、もうそんなことで喜んでいる場合では無くなった。
ベリジュス、皆を集めてくれ。大事な話がしたい」
「わ、分かった」
ベリジュスはエルフィエンドのこの顔を見慣れている。
リーダーとして、我らを導いてくれた時の凛々しい顔。今から重大な決断を迫られることは、簡単に想像出来る。
「エルフィエンド、これで全員じゃ」
「ああ、ありがとう」
ここは宿〈帰還の岬〉の一室。
そこそこの広さで扉が付いていて、会議をするにはもってこいの場だ。
「この国に来て浮かれている者も多いだろうが、今からそんな空気は壊れるものだと思ってくれ」
やけに重々しい空気を漂わせるエルフィエンドに、その場にいる者達は固唾を呑む。
「まずはこれを」
取り出した一枚の紙は、ノゾミから貰ったもの。トワの手配書だ。
「な、何だよ、これ。トワさんがこんなことをする訳が無いだろ!」
「そうだぜ!俺達を助けてくれた女神様だぜ!どっかのバカが流した嘘に決まってる!」
「う、うちも嘘だと思う……な」
死火山の住民たちは、誰一人としてこの手配書の内容を信じない。トワは女神だと。あんなに素晴らしい人はいないと、全員が声を上げる。だが……
「いや、どこまでが本当なのかは分からないが、恐らく事実だ。
私は彼女と別れる前にこう言われた。
僕のことは知られているかもしれない。やりたくてやった訳じゃない、と」
「そ、そんな……」
さっきまで騒がしいほどに声を上げていたというのに、今は通夜のように誰もが俯き、一言も発しない。
「それで聞きたい。私はトワさんの味方になることにした。皆にもそうなれとは言わない。強制もしないし責めもしないが、皆はどうする?」
「……お、俺は……」
「うちは信じるよ!トワさんはあんなに優しかったし、ご飯まで食べさせてくれたのに、まだ何にも返せてない!
皆だってそうでしょ?」
「あ……ああ、そうだな。確かに、ちゃんとお礼も言えてねぇや」
「俺も、信じてみようかな」
俺も私もと、皆がエルフィエンドに賛同してゆく。
トワの味方となるものが増えてゆく。
そして、助けられた全員の心が決まった。
「よし。皆私に賛同してくれて嬉しいよ。これからは、トワさんの味方として活動していくからな」
「それで、何をしたらいいんじゃ?」
「そう、だな……」
はっきり言って、エルフィエンドらに出来ることは少ない。
トワの居場所は分からない上に、手配書まで出回ってしまっている。公の場で味方宣言などすれば、今度はこちらが処刑されてしまうかもしれない。
立場としては、テロリストに賛同する同士となる訳だ。表立って動けない。
「何チームかに分けよう。
ダンジョンで金を稼ぐチーム。国の外で情報を集めるチーム。後は、その二つを繋げる連絡係も欲しいところか。
最優先目標は、トワさんを見つけること。大変だろうが頑張ろう」
「おうよ!任せとけ!」
「絶対に見つけようね!」
流れは決まった。
後は時間がかかってもトワを見つけるだけ。だが、その見つけるだけが大変すぎる。
なんと言っても、トワの居場所はこの世界では無い。別の空間なのだから。
それは誰も、エルフィエンドさえも気づけてはいない。
果たして、トワの捜索隊はどうなってしまうのか?