7 14 幸せな暮らしと、次なる目標
モノアイを死火山の底から助け出したトワは現在、ベルテ、モノアイらと共に会議中だ。
しかし、ベルテはモノアイの近くに居られないので、箱庭の中に別の異空間を開き、彼にはそこにいてもらうという、何とも刑務所の面会感漂う雰囲気になってしまった。
だが、話している内容は至って真面目。これまで起きたことやこれからのことの相談だ。
「……成程な。トワは今までそのフェンリルと体を分け合っていたという訳か……」
「はい。僕にとっては妹みたいな存在で、神様が世界を分けた時に離れ離れになっちゃったんですよ……」
それからは酷い有様だった。
散々便利だ何だと乱用しまくっていた魔法は暴走するし、体から流れ出た血は化け物のように何でも殺しまくるし。
ベルテと再会してからはそのどちらもが収まったが、今でも敵意を向けられると怖いものがある。
トワは今でさえ多少混乱している。
何故神話の魔法と呼ばれている人外そのもののような力が扱えるのか。あの意思を持つ血の化け物は何なのか。何故敵意を向けられた者にだけ勝手に攻撃するのか。
僕は知らないのだ。妹が僕を求めた理由を。
そんなトワとは真逆に、モノアイは納得していた。
別の人格が体を分け合っている。つまり、かつてアウロ・プラーラで見た禍々しい雰囲気のトワは、そのフェンリルの方だったという訳だ。
今のトワはただの心優しい少女にしか見えないが、これまでの話からもベルテに依存していることがよく分かる。そしてベルテの方も、トワを過剰なまでに愛していて、まさに共依存と言えるだろう。
そして、その彼女たちの関係に、モノアイは少なからず不安を覚える。
数百年も生き続けている彼からしたら、数百回繰り返された歴史を生きているとしても、トワはまだ子供。
そんな子供が神をも凌ぐかもしれない強大すぎる力を持っているのだ。
実際、それだけならどうとでもなる。気の許せる大人が正しい道へと導いてやればいいだけの話。
だが、その最たる大人がベルテ。トワの全てを肯定し、歪な愛を育んでいる不安定な関係だ。
では、もしベルテを傷つけられでもしたら?
きっとトワは世界を滅ぼす勢いで怒り狂うだろう。
そうならぬように陰ながら見守ってやらねばな……
そう思うモノアイであった。
「それで、これからはどうするのだ?」
「どうすると言われても、人の国では僕達は犯罪者ですから……この箱庭でベルテと幸せな生活を続けますよ」
「トワ……!私、頑張ってトワの子供を産みますから、一緒に育てましょう!」
「ベルテ……!好き!大好き!」
何気ない質問を投げかけただけだと言うのに、何故かイチャイチャを、それも、これから一発始めるのではなかろうかとも思える程、激しいのを見せつけられる羽目に。
それに、
「いや、お前たちは同性であろう。ならば子など出来ぬわ」
お互い愛しすぎているが故に、自然の摂理でさえも理解できなくなったかと半ば呆れてしまう。
ベルテの方は……よく分からないが、トワはそんなことは重々承知している。
別に子供が欲しい訳では無い。ただ、ベルテがそう言ってくれることが嬉しくて堪らないだけなのだ。
「まあ子、云々は置いておくとして、この箱庭に自分たちだけの世界を築く、それが目標ということでいいのか?」
「そうですね。でも、僕たちだけだとやっぱり技術不足が否めないので、職人さんに何か作ってもらったりしたいですね。家とか娯楽とか」
トワが作り出した異空間では、生命や人工物以外なら思いのままだが、如何せんその人工物が無さすぎる。
家は洞窟だし、服は手編みの草の服。娯楽に至っては皆無だ。牧場にいる動物たちと触れ合うのは一応娯楽っぽくはあるのだが、彼らは家畜。そのうちお肉となる運命なのだから、あまり感情移入しすぎるのは良くない。
という訳で、絶賛人工物をご所望なのだ。
そして、それを簡単に解決する方法はあるのだが。
「作り出した宝石でも対価に、人に来てもらえばいいのでは無いか?
まあ、こんな非常識な世界を見られるのだから、お前の力は知られる事になろうが」
「うーん……それは、ちょっと……」
そう、あるにはあるが実行出来ない。
箱庭に自力で来てもらうにしろ、連れ去るにしろ、魔法を見せなければいけない。
そして、そんなことをすれば噂が立つ。指名手配中だと言うのに、そんな危険は犯したくない。
そんな思いから、今現在も原始的な暮らしをしているのだ。
なかなか簡単には解決出来そうにも……
「噂が気になるのであれば元の世界に帰さなければ良い。
はっきり言って、お前が作った異空間は居心地が良すぎる。新たに国でもなんでも作ってしまえば、喜んでそこに根付くだろう」
「……国、ですか」
アリかナシかで言えば、アリかもしれない。
通常世界に帰る人がいないのだから噂の心配も要らないし、人選は面倒だが、ある程度信頼出来る人なら何人かいる。
ならば、快適さを餌にして引き込んでしまうというのも、意外といいのでは無いか?
「ねえベルテ、国とか作ってみるのはどうかな?」
「……私とトワの暮らしが邪魔されないのであれば、いい案だと思います」
「それなら大丈夫。箱庭とは別の空間を作ってそっちに住んでもらえば良いし。
なんて言うのかな……たくさんのお隣さんができる、みたいな感じかな」
「はい!それならもっと暮らしやすくなるだろうし、最高ですね!」
「フッ、決まったようだな」
「はい!いい案をありがとうございます!」
モノアイの提案でこれからのトワたちの行動が決まった。
人を集めて国を作る!
初めはお互い以外何も要らないと思っていたトワとベルテは、服、食べ物と、次第に欲求を満たそうと動いている。
良い暮らしが手に入ったらそれをさらに良くしたい。
まさに人間的な、ごくごく自然な状態へと戻ろうとしている。
だがそれは、この世がおかしくなってゆく原因となってしまうのだった……
これで七章、[二人の幸せ]は完です!
SSを挟んだ後、物語は八章へと進んでゆきます。
乞うご期待!