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7-13 異形の龍再び!繋がる前と今

 

 

「あれで本当に良かったんですか?エルフィエンドさんなら、もしかしたらノゾミさんに取り合ってくれたかも知れませんよ」

「……うん、これでいいんだよ。恩着せがましいことはしたくないからね」

 

 トワはエルフィエンドら死火山の住人を助けたが、その見返りは一切求めなかった。

 実際、ベルテの言う通り、ノゾミに接触できたかもしれない。そして、アウロ・プラーラにだけでも滞在の許可を得られたかもしれない。

 でもそれからは?身分証に記された殺人という文字が消える訳でもないし、もう各国では指名手配されている。

 迷惑をかける未来しか見えない。

 それに、最も関わりたくない理由が他にある。

 

「でも、ダンジョンってちょっと気になりますよね。私も少しくらいなら戦えたりして?」

「そう、だね……第一ダンジョンくらいなら、誰かとパーティを組んでれば大丈夫だと思うよ」

 

 ダンジョンに興味ありげなベルテは、アウロ・プラーラで起きたあの悲劇を覚えていない。未来の記憶が徐々に思い出されてゆく中で、まだ殺されてしまった記憶は選ばれていないのだ。

 だが、それもいつ思い出すか分からない。

 繰り返してきた数百回の歴史の中で、彼女は三度死んでいる。一度は事故で、他の二度はアウロ・プラーラでメラン侯爵に殺されている。

 その記憶だけは思い出させたくない。だからアウロ・プラーラには出来るだけ関わらない。

 これはトワにとって、何においても優先される事柄なのだ。

 

「さて、僕はまだモノアイさんを助けなきゃいけないからあの山に戻るけど、ベルテは箱庭の方でいい?」

「はい、家畜の世話をして待ってますね」

 

 事前にモノアイの特性について話していたため、とてもスムーズに事が進む。

 ベルテを箱庭へ送り、エルフィエンドたちと食事をしたこの草原は、モノアイ用の空間として残しておく。

 

「それじゃ、行ってくるね」

「行ってらっしゃい」

 

 まさに新婚夫婦のように行ってきますのキスをして、死火山の洞窟内部へと転移(テレポート)した。

 

 

「まずは地面を掘らなきななんだけど……前回と同じやり方でいいかな?」

 

 トワは降り積もった雪を次々と異空間倉庫(アイテムボックス)に放り込み、足元を空間破壊(リージョンブレイク)で粉々にしてゆく。もちろんその粉々になったもの、土や固まった溶岩も異空間倉庫(アイテムボックス)行きだ。

 まあこれはそのうち何かに使えるだろう。

 

 それから一時間程が経ち、地面はかなり深くまで掘り進められていた。意外にもあっさりと、モノアイwith溶岩塊付近まで辿り着けている。二度目の採掘作業なため、少なからずは慣れているのだろう。

 

「よし、みっけた!……あれ?」

 

 そして見つけた溶岩塊は、なんと動いていた。

 動くと言っても、体が丸々溶岩で固められているのだから、動こうとしている、が正しいだろうか。だが、前回助けた時とは違い、ネジャロがビンタするまでもなく起きているということだ。

 何故そんなことが?と、疑問が生まれたが、それは外に出してみれば分かるだろう。

 

 冷え固まった溶岩を剥がすだけの簡単な……剥がす?

 

「あ!ネジャロさんがいない!」

 

 前回は、トワの力では剥がすことは叶わず、ネジャロに丸投げしたのだ。だが今回はそんな力持ちはいない。

 最早恒例と言ってもいいかもしれないうっかりが発動してしまった。

 

 そうこうしている間にも、モノアイは塊の中でモゾモゾと動き、ほんの少しずつだが溶岩が剥がれ落ちる。このまま放っておいても、時間はかかるだろうが何とかなりそうではある。

 が、それだと本当にいつになるか分からないので、少々強引な手段を取ろう。

 

 トワは塊に触れ、時間を戻す。すると、それは徐々に赤熱化してゆき、ボタボタと地面に流れ落ちる。

 モノアイは死ぬつもりでマグマに飛び込んだ結果、特になんとも無かったと話していたのだから、きっと大丈夫なはずだ。

 そしてその巨大で異形の姿が顕になってゆき、最後は犬が水を振り払う時のようにブルブルと体を振るい、残った溶岩をはじき飛ばした。

 

「一応初めましてですね。異形の龍さん」

「いや、我は覚えておるぞ。一体何があった、トワよ!」

「え?……なんで!?」

 

 モノアイは覚えていると言った。それに、まだ名乗ってもいないのにトワと、名前で呼んだ。

 まさか、ベルテの時のように断片的に思い出しているということなのだろうか?

 

「えっと……いつ、思い出したんですか?」

「……思い出した訳では無いが、三月と少し前だ。

 お前が作り出した空間で日光浴をしていたら、突然地の底に埋められておったわ。まるで我らが出会った時のように……」

 

 モノアイはキョロキョロと辺りを見回す。

 陽の光が殆ど届かぬ死火山の底。上部に広がる大きな穴からはしんしんと雪が降り注ぐ。まさに出会った時と変わらぬシチュエーションだ。ネジャロはいないけど……

 

「……何故、我はまたここに?」

「世界の時間が巻き戻っちゃったんですけど……それより、三ヶ月前ってどういうことですか?」

「世界の時間が、か……にわかには信じられんが、お前なら出来ても何ら不思議では無いか。

 それと三ヶ月がどうとは、それこそどういうことだ?時間が巻き戻ったのがその時というだけのことだろう?」

 

 確かに、それであればおかしなことは無い。世界丸ごと巻き戻っているのは十分おかしなことではあるのだが、そうでは無いのだ。

 もう今回の世界になってから八ヵ月以上も経っている。その過程で、ベルテから勧められた日記も付けているから間違いない。

 それなのに、モノアイは時間が巻き戻ったのは三ヶ月前だと言う。

 それが本当の話なのだとしたら、通常世界と箱庭では時間の流れが違うということになる。

 理由など皆目見当もつかないが、そう考えるのが一番しっくりくる。

 

 というか、そんなことよりももっと気になることがある。

 何故モノアイは前回のことを覚えているのか。詳しく聞いてみれば、それはベルテのように断片的に覚えているのではなく、全てを忘れていないという感じだった。トワと同じように、前回から今回へと移行したが、記憶は地続きという風に。

 

 モノアイは数百回繰り返した歴史の中でも、出会ったのは前回が初めて。

 彼が特別なのか。それとも別の要因、例えば時間が巻き戻る際、通常世界ではなく異空間にいた事だとか。

 もし後者が原因なら、皆の記憶も戻せるのかもしれない。そんな淡い希望が湧いてくる。

 

「なるほど……事情は分かりました。ではこれ以上ここを不毛な土地にする前に、あなたの家に帰りましょう」

「ああ、またよろしく頼む」

 

 こうして、異形の龍とトワは再会した。小さな希望も手に入れて。

 

 

 

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