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7-10 ずれてゆく、ずれてゆく……

 

 

 親切なおじいちゃんから家畜を購入したトワたちは、箱庭に牧場を建設していた。建設と言っても、だだっ広い土地に簡易柵をぶっ刺して、水飲み場として川を引っ張ってくるくらいの簡単な作業だ。

 

「よし。まあこんなもんでいいでしょ。そもそも脱走したとしてもこの空間からは出られないわけだし」

 

 トワの言う通り、ここは通常世界から切り離された空間。だから実際は放牧していても全く問題ないのだが、それは家畜たちの世話をトワが全てやる場合に限る。だが、元高校生のトワにそんな知識がある訳もなく、ベルテに手取り足取り教わりながらやるのだ。

 ベルテ様々である。いやほんとマジで。

 

「はい、じゃあ全員出てこーい!」

 

 牛は広めのエリアに、鶏は砂場や止まり木を置いた小さめのエリアにそれぞれ解き放つ。

 初めは警戒して一箇所に固まっていた家畜たちだが、一匹が離れ始めると各々自由に闊歩し始めた。どうやら安全だと理解したようだ。早速そこら辺に生えている草をもしゃもしゃしている子までいる。

 ……というか、牛は三頭全員草を食べ始めた。

 よほどお腹が空いていたのだろうか。それともこの草が美味しいのだろうか。雑草にしか見えないけど……

 気になったトワは、足元の草を少し千切りそのまま口へ。

 

「ん!?甘っ!なにこれ!?」

 

 その辺の道端に生えていても何らおかしくないようなただの草のくせに、苦味が殆どない。それどころか、砂糖などには遠く及ばないものの、しっかりと甘さが感じられるのだ。

 

「ベルテ!この草、牛が沢山食べてたから気になって噛んでみたんだけど、結構びっくりするよ!」

「……ん!?甘いです!」

「でしょ!でもなんで?普通苦いよね?」

「んー……トワが作ったものだから特別!とかですかね?」

「えへへ、何それー」

 

 結局理由は分からなかったが、ベルテの予想は大きくは外れていない。

 トワがこの箱庭を作り出した時、どこか適当な草原をイメージしていた。その際、そこに自生している草や木などの種類を指定していない。そのため、たまたま頭の奥底の方で考えていた「甘い物食べたいなー」という思いが具現化されてしまったのだ。

 ちなみに、草や木だけでなく、土や石ころなんかも甘いのだ。食べることは無いだろうが……

 

「でも、沢山食べてくれるならいい事じゃないですか?この草も魔力をたっぷり含んでいるんですよね?」

「うん、そうだと思うよ。モノアイさん……あー、前回の世界で出会った龍なんだけどね。その龍が、トワが作った空間には魔力が溢れんばかりどうのこうのって言ってたから」

「そうなんですね。だとしたら、きっとあの家畜たちもよく育つと思いますよ」

 

 トワは少し悩んでいた。

 モノアイが眠る火山。そこに住んでいるエルフィエンドや他の人たち。彼らはまた苦しんでいるのだろうか?だとしたら助けた方がいいのか?

 どうするのが正解なのか、自分一人では分からなかった。

 

「あの、ベルテ。ちょっと聞きたいんだけどさ……山で苦しんでいる人たちを助けて方がいいかな?」

 

 ベルテはその辺のことは覚えていなかったため、一から説明した。

 死火山の底でモノアイが眠っていて、彼が魔力を吸い取っていること。魔力が吸い取られたせいで辺りが吹雪いていること。そしてその山で、アウロ・プラーラの中央ギルドマスター、ノゾミ・アウルムの母親やその他大勢が死にかけていること。

 

「好きにしたらいいと思いますよ」

「え?」

「助けることは義務ではありません。わざわざそんな危ない場所に行ってあげるんです。トワがしたいようにすればいいと思います」

 

 それがベルテの出した答えだった。

 彼女は全てにおいてトワが優先。トワがしたいことがベルテのしたいこと。それがどんなに良いことでも悪いことでも、ベルテにとっては関係ないのだ。

 

「そっか…………うん、助けに行くよ!」

「分かりました。何でも手伝いますから、遠慮なく言ってくださいね」

「うん、よろしく」

 

 もう前回の世界で助けた時間はとっくに過ぎている。全員死んでしまっているかもしれないが、その時はその時だ。

 馬車や歩きでは時間がかかり過ぎるため、連続目視転移(ショートテレポート)で向かう。これなら三ヶ月以上かかる旅程が数日で済む。

 とにかくその目で現状を確かめる。まずはそれからだ。

 

「それじゃあ、行ってきます」

「はい、気をつけて……」

 

 トワはベルテを箱庭に残し、一人で件の山へと向かった。

 

「もうすぐで観える…………ッ!?生きてる!」

 

 一日のほど移動し、山が空間把握(マップサーチ)圏内に入ったところで、エルフィエンドたちが生きていることが確認できた。しかも、彼女らの状態は栄養失調や疲労などが殆どで、まだ倒れている人は少ない。

 

「え、どういうこと?前回助けた時より四ヶ月以上遅いのに……とにかく急ごう」

 

 不思議な状況ではあるが、相変わらず山周辺の吹雪は強く、外と隔てられているのは変わらない。遅くなれば一人、また一人と倒れるの者が増えてしまう。

 早く助けるに越したことはないのだが……

 

「助けたあとは……その時考えよ!」

 

 後に困るだろうことは未来の自分に任せる。結局は自分が困るのだが、考えるのが面倒な時って意外とやりがちだよね?

 

「待っててねエルフィエンドさん!」

 

 トワは出来うる全速力で目視転移(ショートテレポート)を繰り返した。

 

 

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