7-4 暴れ回る本物の化け物
グロ表現多数あり!
(ノ°ο°)ノ⚠︎注意⚠︎
「……ッハァ、ハァ……
なん、で……」
確かに切り落としたはずの首が繋がっている。
耐え難い痛みも覚えている。
死ぬまでの僅かな間、真っ赤な血が流れ出ていたことも……
だと言うのに、地面には一滴の血の跡も無いし生きている。
無意識のうちに時間を巻き戻していたのだろうか?
もう一度、首を斬る。
今度はちゃんと、死ぬまで意識を保つように。
何回もこんなに痛い思いをするのは嫌だから、ちゃんと死ねるように……
「……ッハァ!」
結果は同じ。
流れ出た血も首を切り落とした跡も、全てが元通り。
激しい痛みの記憶だけを残して、全てが無かったことになっている。
「そんな……死ねない…………どうして」
全てを失って死ぬことも許されない。
これから一体、どうしろというのか。
その場で倒れたまま、何もしない時間が流れる。
何も飲まず、脱水症状で死のうとした。死ねない。
何も食べず餓死でも……死ねない。
腹を空かせたブラックウルフがやって来た事もあった。
もちろんなんの抵抗もせず喰われた。
それでも死ねない。
どうな手を労そうと、全て元通り。
肉体は完全な状態へと戻ってしまう。
だが、それは肉体だけ。心はどんどんと壊れてゆく。
「………………」
――………………
「お!これはッとびきりの上玉じゃないか!
今日はツイてる。きっと高く売れるぞ〜」
誰かがやって来たみたいだ。
腕を掴まれて引っ張られて、何かに載せられてどこかへ運ばれてゆく。
「おい、女!服着ろ服!……ん?おい、服……チッんだよ、壊れてやがる。
せっかくの上玉だってのに……まあ面は良いし、これは……処女だな。どっかの物好きにでも売りつけるか……」
ガラガラと音を立て、時にはガタンと大きく揺れたりしながらしばらく時間が経つ。
揺れが収まった。
「おいほら、自分で歩くくらいしろ。
ったく。……ここに座んだよ。手ぇ焼かせんなって」
「………………」
腕を掴まれて、指先にチクリと痛みが走った。
「んー、さーてとー……ゲッ!?嘘だろ殺人て。はぁなんだよ、完全にハズレじゃねぇか」
誰かの足音が遠ざかってゆくが、すぐに多くの足音となって戻ってくる。
「こいつですよ、衛兵さん。ほら見てくださいよ、ここ。殺人ですよ、殺人」
「ナッ!?おいお前!こいつをどこで見つけた?指名手配犯だぞ!」
「え?そうだったんですか?
ここから二日ほど南に行った、でかい木のそばでぶっ倒れてたとこを見つけたんですけど……指名手配犯なら、報奨金とかありますよね?」
「ああ、司祭様か司教様からたっぷり貰えるぞ。
この書類を神殿に持ってけ」
「よーし!ありがとうございます!最高の拾いもんだったぜ〜!」
それっきり、その誰かの声は聞こえなくなった。
「おい、粛清の腕輪は誰が持ってる?」
「あ、はい!それならあたしが」
「よし、ならすぐにつけろ。気をつけろよ、こいつは得体の知れない魔法を使うとの報告がある」
手首に冷たい感触を覚え、カチリと音が聞こえた。
「さあ行くぞ、立て!」
「………………」
「おい!……まあいい、連れて行け」
衛兵と呼ばれていた人たちは僕を引きずるようにしてどこかへ連れて行く。
「司教様。大罪人を連行してまいりました」
「うむ、ご苦労……おい、ファルマ様の御像を破壊したのはこの者で間違いないのだな?」
「ええ間違えようがありません。あの白い姿に赤い瞳、思い出すだけで腹立たしい……」
「そうか。ならば御前にて公開処刑とする。台を準備しろ」
「はっ、直ちに」
ガラガラズルズルドンドン
どこかからか色々な音が聞こえる。
時間が経つにつれて、そこに人々の声も加わってきているような気がする。
何と言っているのかは聞こえないが、何となく怒っているような感じが伝わってくるのは気のせいだろうか?
「司教様、司祭様。全ての準備が整いました」
「よかろう。大罪人を連れてまいれ」
「はっ!」
ズルズルズル……
僕は今、髪を掴まれて引きずられている。
そして段々と人々の声が大きく、ハッキリと聞こえるようになってきた。
それでようやく、人々が何と言っているかが分かった。
殺せ!
皆そう言っている。
大勢の人が皆、僕を殺せと叫んでいる。
――そっか……アランだけじゃなくて、皆に嫌われてるんだ……
誰も、僕な事を好きでいてくれる人はいないのか……
僕は台の上に寝かされて縛り付けられた。
「皆の者、静まれぇい!!
……これより、この大罪人の公開処刑を執り行う。まずは罪状を述べよ」
「はっ。この者はファルマ様の御像を破壊しただけでなく、その後に拘束するためにやってきた神殿付きの衛兵を殺害し、逃亡しています」
「皆の者、この者の行いは許すに値するだろうか?」
「「許すなー!殺せー!」」
「うむ。敬虔な信徒たちの心の内はよく分かった。
神殿騎士たちよ、前へ!」
僕の周りに沢山の剣を持った人が集まっている。
その皆が剣を構え、凍てつくような軽蔑の目で睨んでいる。
その目は、寂しくなるからやめて欲しいな……
「では……殺せ!」
その声と同時に、周りで鋭く光る刃は一斉に振り下ろされる。
頭、首、胸、腕、腹、腿、膝、足。
バラバラに切り刻まれて、意識を失った。
「………………」
やっぱり死ねなかった。
そんな事で死ねるのであればここにはいない。
最早斬られた痛みですら、ほとんど感じないほどまでに慣れてしまった。
……周りは随分と静かだ。
バラバラにしたはずの僕が何事も無かったかのように元通りになっているのだから、きっと驚いているのだろう。
僕は周りを見ようと、切れたロープをどかして体を起こす。
「……え?……」
辺り一面は血の海。
僕の血は全部元に戻るはずだから……これは誰の血だ?
首を巡らせると、落ちている何かが見える。
それは、剣や形の変わった鎧。
その他にも、下半身や腕など、人体の一部だったものが大量に散らばっている。
「あ、悪魔だ……悪魔だー!」
誰かが叫んだ。
その途端、物音一つ聞こえなかったのが嘘のように恐慌が広がる。
逃げ惑う人々。
その中に、涙を流しながら僕に石を投げてくる人がいる。
――ガンッ!
石は僕の頭に直撃し、血飛沫が舞う。
飛び散った血飛沫は少量だが、比較的近場にいた何人かに付着した。
その瞬間、その何人かはボコボコと膨れ上がり、瞬く間に破裂してしまった。
そして辺りには人体だったものが飛び散る。
恐慌はますます広がり、辺りから劈くような悲鳴も多数聞こえてくる。
「な、何が……起きて……」
もう何が何だか分からない。
僕は何もしていないのに、人が勝手に死んでゆく。
血を浴びた者が、空間破壊とも違う爆発で死んでゆく。
「し、死ねぇ!化け物が!」
また誰かが僕を殺そうと攻撃してくる。
だが今回は、火魔法の詠唱が聞こえている。
それなら大丈夫だ。血が飛び散る心配も無い。
何もしなくても、誰も死なない。
真っ赤な炎が炸裂し、僕の体を焼いてゆく。
肉は溶け、次第に血を吹き出し始めるが大丈夫。
もう近くには誰もいない。その血はただ流れるだけ。
だがそうはならなかった。
流れ出た血は意志を持つかのように動き出し、火魔法を放った男性へと急激に伸び、巻き付く。
するとやはり、その男性は膨れ上がり爆発してしまう。
「……なん、で?」
その後も僕の血は暴れ回り、逃げ惑う人々を次から次へと爆発させてゆく。
「もうやめて、やめてよ!」
燃え溶ける体を引きずりながら流れ出る血に触れ、時を止めようとするが、止められない。
「うそ、なんで!?」
それならばと、異空間倉庫を開き、血を流し入れる。
が、空間に穴を開けられ、無理やり外に出てきて暴れ回る。
「なんで!?どうして!?」
自分の血なのに制御が効かない。
辺りは爆発した人々から噴き上がった血で赤い霧に包まれる。
太陽の光を反射し、キラキラと赤い光を放つ様は傍から見る分には幻想的だが、その場にいる者にとっては紛れもない地獄だろう。
「そ、そうだ僕が死ねば……」
焼け死ぬのは思ったよりも遅く、待っていられない。
そうこうしている間にも、逃げ遅れた人が死んでしまう。
僕は自分の頭を破裂させた。
「…………」
辺りには誰もいなくなっている。
ピチャンピチャンと血が滴る音が聞こえるだけで、人の声も、血の化け物も綺麗さっぱり消え失せている。
そんな血の海の中央でへたり込む、純白の少女。
服は焼け落ち、何も身につけぬまま、下半身と髪の先端を赤く染めている。
「もう、嫌だ……なんなのこれ。誰か、助けてよ……」
漏れ出た声と嗚咽は虚しく響く。
こんな化け物を、一体誰が助けるというのか。
殺すことも出来ない。殺そうとすれば殺される。
正真正銘の化け物。
誰にも愛されず、孤独に生きるしかない化け物だ。
どこか一人になれる場所、誰も、生物のいない場所を探そうと立ち上がる。
そこで死に続けながら生きるしかないのだと。