7-3 ひとりぼっち……
本日二話目。
今回の話は少し短いです。
ご容赦を!
「……独りは、嫌だよ……置いてかないでよ」
「と、トワちゃん?もう大丈夫なの?」
動くことさえ辛かった頭痛は治った。
世界も姿も、何も変わらない。
だが、自分の内に確かに感じられていた妹は完全に消失している。
再びあの透明な空間へ、創造神ファルマに会うために、祈りの体勢をとる。
――もう一回、もう一回あそこに……
……………………
「……なんで、なんでよ!?いっつもそっちから来てたじゃん!今になって無視すんなよ!!
返してよ……トワを返せ!」
どれだけ強く願っても、ファルマは現れない。
いつものように意識を刈り取られ、あの空間に連れていかれることも無く、ただ虚しい時が流れる。
怒らせてでも何でもいい。
とにかくファルマを引きずり出す。
そのために、目の前の荘厳な佇まいのの女神像を粉々に破壊する。
「ッ!?創造神様が!貴様一体何をした!」
「黙れ……」
「このッ……衛兵!この不届き者を直ちに捕らえよ!」
神官が真っ赤になった顔で大声をあげる
すると、扉の奥から何人もの衛兵たちが現れ、すぐさま僕を取り囲んだ。
彼らは皆、神殿の紋様が刻まれた鎧や剣を携えている。
テンプルナイツという表現が妥当だろうか。
その内の一人が、奴隷商のテントでも見た暴徒対策用の腕輪を取り出し、近づいてくる。
「手を頭の上で組んで跪け!
ファルマ様の御像に何をしたのか、話を聞かせてもらおう」
「邪魔すんなよ!!」
衛兵は無理やり腕輪を嵌めようと腕を掴んでくる。
僕はそれを煩わしく思ったから振り払おうとした。
ただそれだけのつもりだった。
噴き上がる鮮血、飛び散る肉片。
その衛兵は辺り一面に飛び散った。
「え、ちが……僕じゃ」
「……化け物」
聞き覚えのある声に、体はビクッと小さく震える。
「違、いますよ。今のは……そんなつもり、なくて。体が……勝手に」
「よ、寄るな化け物!」
声の主、アランは僕へと剣を向ける。
「違うんです!信じてください!
今のは本当に僕じゃ……」
アランの冷たい目。
こんな目をした人を何度も見てきた。
軽蔑、畏怖。そんな感情がごちゃ混ぜになった目だ。
だが、ずっと一緒に旅をしてきた。
恋人にもなった。
アランにはそんな目を向けられたことなど一切無かった。
「本当に、違うんです……信、じて……」
「え、衛兵!さっさとその化け物殺せ!」
最後の声は誰のものだったか分からない。
僕は逃げた。
全てが始まった、あの木陰の元へ。
――気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い……
転移直後に、僕は何度も吐いた。
頭にこびりついた血や臓物の臭い。
人を殺したことへの罪悪感や、嫌悪感。
今までそれを何とも思っていなかった事が、余計に気持ち悪さを増幅させる。
繰り返す歴史の中で、数え切れないほどの人を殺してきた。
今まではそれに罪悪感を感じるどころか、楽しいと感じていた事さえある。
トワと離れ離れになる前はそれが普通だった。
トワの魂、フェンリルという魔物の魂に影響されていたからだ。
――トワがいたから、僕は大丈夫だったんだ。
でも……捨てられた。
トワがいなくちゃ、生きられないよ……
なんで?なんで僕のことを置いて行ったの?
分からないよ、トワ……
おもむろに身分証を取り出してみる。
「やっぱり、書いてある……」
入国した時は記載のなかった犯罪欄に、ハッキリと殺人とある。
これではもう何処の国へも入ることは出来ない。
仮に忍び込んだとしても、なんの施設も使えない。
トワもいない、兵に捕まれば死罪。
アランにも嫌われたし、ベルテやネジャロは僕の事など知りもしない。
誰一人、縋れる存在がいない。
僕はその場に倒れ込む。
何とか繋がっていたか細い糸が切れてしまった。
「……トワ。もう、逢えないの?
ねぇ、何か言ってよ…………――――死の……」
僕は、自分の首を切り落とした。