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6-6 共依存

 

 

 今回の騒動の後始末は終わり、トワはロセウス子爵家へと戻って来ている。

 

「ふー、また演技をしなきゃよね……

 ……ただいまー!」

「あ、おかえりトワ。

 ネジャロから話は聞いてるよ。お疲れ様」

 

 ネジャロは何も覚えていない。

 ただ反転世界で魔物を殺し、獣に落ちた人を葬った。

 それ以上は何の問題も起きていない。

 そう伝えたことだろう。都合がいい。

 

「それで、その後は何をしてたの?」

「ノゾミさんに事の経緯を説明してたんです。

 なかなか信じて貰えるような内容では無いので、ちょっと時間がかかっちゃいました」

 

 完全な嘘ではないがほぼ作り話だ。

 ノゾミには魔石の魔力を吸い取ったことしか説明していない。

 いちいち面倒だし、そもそもあんなショッキングな事実、知らない方が幸せだろう。

 

「そうだったんだね。何はともあれ、怪我が無くてよかったよ」

「はい。もう流石に疲れたので、部屋で休んでますね」

 

 ボロが出る前に、早々にアランと別れ自室へと行く。

 途中、メイドに会ったので、エルマさんへの帰還の報告ついでに、二人分の食事は下に置いておいて欲しいと伝える。

 そして自室、ベルテが待つ部屋のドアを開ける。

 

「お嬢様!おかえりなさい!

 ネジャロから活躍は聞いています。

 お疲れ様でした」

「……ねえベルテさん。私の全て、欲しくない?」

「……え!?

 それは、その……どのような意味でしょうか?」

 

 トワは自室を、異空間に作り替える

 

「そのままの意味よ。

 身も心も、頭から爪の先まで……全部。

 自分だけのものに、したくない?」

「それは……是非。

 というか、お嬢様のその口調……」

「ええそうよ。久しぶりね。

 アウロ・プラーラではあなた達(・・・・)のために随分と暴れたわ」

 

 トワは一歩二歩とベルテに近づき、そのままベッドに押し倒す。

 

「お、お嬢様!?」

「今から、とても弱った私が出てくるわ。

 それを、あなたに依存させて楽にしてあげて欲しいの」

「い、依存ですか?一体、どうやって……」

「アウロ・プラーラで私たちが求めあったように、あなたが心の内に秘めている欲望を晒せばいいだけよ。

 そうすれば、もうあなた無しでは生きていけなくなる。

 どう、最高じゃない?」

「は、はい!ずっと夢見てました!

 お嬢様と、そんな関係になれる日を!」

 

 ベルテの目つきが変わる。

 ついさっきまでの困惑した表情はなくなり、その綺麗な顔には欲望が色濃く表れている。

 トワは少し悲しげな表情で笑う。

 そして最後に、こう語り掛ける。

 

「今から変わるけれど、もう一人の私は酷く塞ぎ込んでいるわ。

 誰の声にも耳を貸さないくらい。

 だからあなたは、無理やりにでもその内へと入りなさい。

 そうすればきっと、望んだ関係になれるわ……」

 

 そしてトワ()は目を閉じた……

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……――――」

 

 再び開いたトワの目は、呆然と暗い影を映していた。

 部屋の隅で蹲り、何度も何度も謝罪の言葉を口にする。

 その姿には、いつもの明るいトワは欠片たりとも見つからない。

 

「お嬢様……何があったのですか?

 何が、お嬢様を苦しめているのですか?」

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい――――」

「本当に、誰の言葉も……」

 

 ベルテの呼び掛けにも気づかず、絶望した表情で謝り続ける。

 

 ――アウロ・プラーラの人も街も、全てが元通りになったと伝えたから、知ってはいるはずだけれど……

 やっぱり、予想以上に堪えているわね。

 

 己の内では、(トワ)は完全に閉ざされてしまった魂を眺めている。

 優しく撫でても、なんと声をかけようと、それが開かれることは無い。

 

 ――いつも通り、内からは無理ね。

 残念だけれど、ベルテさんに任せるしか無さそうね……

 

 そして、気が乗らないものの、己の体が感じやすくなるように働きかける。

 

 ――これで私とお兄ちゃんの二人分。

 これなら、この後に待っているであろう快感には抗えないはず……

 あーあ、本当は私に依存して欲しかったのだけれど。

 今の私は触れられないし……そろそろ兄離れの時期、よね……

 

 最後の愚痴共に、(トワ)の意識は闇の中に沈んでいった。

 

 

「お嬢様……失礼します!」

 

 ベルテは部屋の隅で縮こまっているトワを強引に持ち上げ、ベッドへ寝かせる。

 

「お嬢様に何があったのか、今の私には分かりません……

 ですが!私はあなたに救われました。

 お嬢様に本当の意味で、身も心も救われたんです。

 私は、あなただけのベルテですから。

 だから、辛い時は私に当たってください!

 それで少しでもお嬢様の気が紛れれば、これ以上に幸せなことはありません」

 

 ベルテは必死に呼びかける。

 だが、それでも今のトワには届かない。

 心を支配している絶望は余りにも大きく、ちょっとやそっとでは拭いきれない。

 これを完全に消し去るには、もっと大きな衝撃が必要だ。

 

「本当に、私の望むままにしてもいいんですよね?」

 

 トワは答えない。

 それでもベルテは、もう一人のトワに言われた通り、自分のしたいままにする。

 トワの服のボタンが一つ一つ外されてゆき、真っ白な肌が現れる。

 

「失礼します……」

 

 その日、トワとベルテは激しくお互いを求め合った。

 トワはあの出来事を忘れようと必死に。

 ベルテはトワを自分だけのものにするため必死に。

 外に声が漏れることも、他の人間に邪魔されることも無く、夜遅くまでずっと……

 

 

「ベルテさん、ずっと一緒にいてくださいね」

「はい、もちろんですよ」

「ずっとですよ!

 今も、これから先も、何があってもずっと。

 ずっと私から離れないでくださいね?」

「はい、ずっとずっーと一緒です」

 

 二人は現在、夕食を食べている。

 トワの要望通り、居間に置かれた食事を一緒に。

 同じ椅子に座り、何度も何度もキスをしながら、ゆっくりとした時間が流れる。

 

「無くなってしまいましたね……

 お風呂に入りましょうか?」

「はい。服、脱がせてくださいね?」

「ええ。もちろんですよ、お嬢様」

 

 最早お互いがお互いを必要とし、依存し合う関係が生まれた。

 お風呂から上がった二人は同じベッドで眠る。

 体を絡め合いながら、幸せそうな顔でぐっすりと……

 

 

「…………ペッ。

 全く、激しすぎよ。

 お兄ちゃんはともかく、私は同性なんだからもうちょっと考えて欲しかったわ」

 

 夜が深まり、月も落ちかけようとしている頃。

 トワは水の入ったコップを持って庭にいた。

 

「はぁ……胸焼けするわ」

 

 思わずそう呟いてしまうほどに、激しい夜を過ごしたのだ。

 

 この日を境に、トワの依存先が(トワ)からベルテへと移った。

 今までは触れることの出来ない存在で埋めていた心が、手の届く存在で埋まり直した。

 恐らく歯止めが効かなくなるだろう。

 それほどに、トワには依存する対象が必要なのだ。

 何故なら、そうなるように仕組んできたから……

 

「これからはちょくちょく変わる必要がありそうね。

 もう少し口調を真似る練習をしておきましょう」

 

 庭の空間が歪み、そこにいた白い影は消える。

 それは、朝日が昇るまでそのままだった。

 

 

 

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