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6-5 歴史の改ざんと後始末

 

 

 アウロ・プラーラで起きた惨劇は起きていない。

 トワは兄の罪悪感を消すために歴史を捻じ曲げた。

 そしてこれから行うのは、その過程で生まれてしまった違和感を有耶無耶にする事だ。

 

 対象は二つ。

 一つは、魔力が空になり、濃い紫色だったのが透明になってしまった、ブラキティラノの魔石を元の場所に戻す事。

 

「トワさん!申し訳ありません。

 厳重な警備体制を敷いていたのですが、あなたから任された魔石が突然紛失してしまって……」

「それならいいのよ、私が持っているから。

 ただ、問題が起きないように魔力は抜かせてもらったけれどね」

 

 中央ギルドに顔を出すなり平謝りしてくるノゾミを制し、魔石を元の台座へと戻す。

 

「本当に魔力が……あんなに大量にあったものを、一体どうやって?」

「ちょっと吸い取っただけよ。

 便利なのがいること、あなたも知っているでしょう?」

「え?

 ……ああ、なるほど確かにあの方ならば出来そうですね」

 

 ノゾミが考えたのは母親が住んでいた山で起きた出来事。

 膨大な魔力を内包する火山の活動を停止させ、更には天候までも荒れさせる程魔力を吸い尽くす龍。

 その力の前では、どれだけ膨大であろうと、無限でない限り太刀打ちできない。

 それを、綺麗なクリスタルのようになった魔石がまざまざと表していた。

 

「もう用事は済んだから、私は行くわ」

「はい、またいつでもいらしてください」

 

 トワは二つ目の対象の元へと向かった。

 

「トワさん、いつもと様子が違うように思えましたが……いめちぇん、と言うやつでしょうか」

「ん?どうしたノゾミ?」

「あ、母さん。いえね、トワさんの様子が――」

「……へぇ、私も見てみたかったな」

 

 ついさっきまでここがどうなっていたのか、トワが何をしてのかを知るはずもない二人は、のほほんと話に花を咲かせた。

 

 

「ん?オレなんでアウロ・プラーラにいるんだ?

 えっとたしか……反転世界で魔物ぶっ殺して、で……そうだ!こっちがやばくなってんじゃねぇかって来たはずなんだが……

 平和、だな」

 

 街は活気に満ちていて、赤金級のプレートを見た人々からは握手をねだられる。

 魔物が外で暴れている雰囲気など微塵も感じない。

 

「あれ?てかお嬢はどこに」

「ちょっとちょっと、はぐれないでくださいよネジャロさん!

 突然いなくなるんですから、探しちゃいましたよ」

「あ、お嬢。

 そうか、すまんな?」

 

 ネジャロは勝手にいなくなった記憶など持ち合わせていないのだが、お嬢が言っているならそうなのだろうと、特に考えるでもなく納得してしまう。

 

「なぁお嬢。オレたち、こっちの世界がヤバいかもって来たんだよな?

 なんでこんなに平和なんだ?」

「それなら、私たちの勘違いだったんですよ。

 反転世界で何をしても、こっちは影響もなく平和そのもの。

 そういうことです」

「なんだ、そうだったのか。

 焦って損したな」

「ええ本当に。

 ネジャロさんは先に戻っていてくれますか?

 私はもう少しやることがあるので」

「ああ、分かった。ご主人たちにはバッチリ説明しとくぜ」

 

 ネジャロをヴァルメリア帝国に送る。

 怪しんでいる素振りは全く無かった。

 

「ふー、真似するのも疲れるわね。

 こんな話し方だったと思うのだけれど……まぁ大丈夫でしょう」

 

 トワは元に戻ってなどいなかった。

 ただ、このままネジャロの前に現れたら何かがあったのだと勘ぐられる。

 だから、兄が動かしていた時の口調を真似ただけ。

 ただそれだけだ。

 

「さてと、さっさと用事を済ませましょうか」

 

 トワは転移(テレポート)した。

 目標は反転ヴァルメリア帝国。

 事の首謀者を片付けに行くのだ。

 

 

io(おい) ednan(なんで) otih() ag() okok(ここ) in() uri(いる)?」

 

anaas(さあな) arakakood(どっかから) ak() adnno(迷い)kioyam(込んだ) oradn(んだろ)

 otasaas(さっさと) isorok(殺し) ezuoamit(ちまおうぜ)!」

 

 相も変わらず、通常世界の者には聞き取りづらい言葉で会話している魔物たち。

 そんな魔物たちは、反転ヴァルメリア帝国を堂々と歩いているトワに次々と襲いかかってくる。

 数匹程度なら殺してもなんの問題にもならないだろうが、数えるのも面倒なので全て異空間倉庫(アイテムボックス)に詰めておく。

 

 そうして辿り着いたのは、立派な城だ。

 巨大な正門を破壊し奥へと進む。

 すると、当たり前のように高そうな鎧を着た魔物たちに取り囲まれる。

 武器を向けワーワーと喚いているが、いちいち翻訳するのも面倒だ。

 トワはそいつらを異空間倉庫(アイテムボックス)に詰めるのではなく、皆殺しにした。

 

 もちろん理由はある。

 城を守っているのであれば、あの魔物たちの身分は騎士、つまり貴族のようなものだろう。

 そして魔物の皇帝は、そんな身分のヤツらやその下部の組織を使って通常世界を、わざわざ大軍で攻めてきた。

 ということは、如何にしてか魂の再利用に気づいたのだろう。

 通常世界の人間を殺せば反転世界の魔石が増え、例えその大軍が滅びても、通常世界のダンジョンから魔物が溢れ、結局人が死ぬ。

 上層部にとって、どちらに転がっても資源を得られる作戦だったという訳だ。

 

 それならばやることは一つ。

 秘密を知っているものを消してしまえばいい。

 先程理由はあると言ったが、半分は感情だ。

 そんなやり方をする上層部が気に入らない、ただそれだけだ。

 

 ――ドォン!

 皇帝やその臣下がいるであろう豪華な扉を破壊する。

 これから資源が溢れるぞと、先程まで汚い笑みを浮かべていた皇帝の顔は一瞬にして鋭く変わった。

 

otih() otad(だと)

 io(おい) ieh() ah() atisuod(どうした)!? 」

「全員死んだわ。

 これから、お前たちは大好きな資源(・・)に生まれ変わるのよ!」

「「?」」

 

 何を言っているのか分からないという顔の皇族・貴族魔物を殺して城を出る。

 トワは城の地下に資料庫のようなものを見つけていた。

 その中に魂の再利用について書かれたものがあってもおかしくは無い。

 ならばそんなものを残しておくわけもなく……

 

 トワは振り返り、城まるごと異空間に呑み込み隔離する。

 これでもう、トワ以外は誰であろうとその資料を見ることは出来ない。

 念の為、街中に同じものが出回って無いか探すと、いくつか見つかった。

 その全ては、上級貴族が住む家のような、とびきり豪華な屋敷にある。

 恐らく、貴族だけが甘い汁を啜っていたのだろう。

 そういうやり方が大嫌いなトワは、その屋敷の住魔物は皆殺し、屋敷本体は異空間に隔離する。

 最早反転ヴァルメリア帝国には、既得権益を享受する魔物は消え失せた。

 

「これで殆ど終わりかしらね。

 後は塞ぎ込んでいるお兄ちゃんをどうするかだけれど……今回はあの人に任せてみましょうか」

 

 あちこちにクレーターのような、何も無い空間が広がる反転ヴァルメリア帝国を眺めながら、そうトワは呟いた。

 

 

 トワが去ってすぐ、反転ヴァルメリア帝国の新聞にはデカデカとこんな記事が載せられた。

 

akiehi(皇帝)etuok(陛下) oyki(逝去)!!

 uusat(多数) on() ukoziku(悪徳)kotuka(貴族) ah() iagutas(殺害) ateras(された) uoyom(もよう)

 

 そんな記事を見た魔物たちは口を揃えてこう言った。

 

 化け物のように強い人が攻めてきた。

 それを倒そうとしたら、気づいた時には沢山の魔物と城があった場所にいた、と……

 

 


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