6-3 この世の地獄
行間を詰めました。
こっちの方が読みやすいかな?
(っ ゜꒳ ゜c)
――あ、これほんとにやばい……
反転アウロ・プラーラにいる三名は世界の秘密に辿り着いた。
が、それと時を同じくして、アウロ・プラーラであるものに掛け続けていた時間魔法が途切れた。
そのあるものとは、復活を止めるすべが無く、結果として封印という形で展示されている、通称ブラキティラノの魔石だ。
では何故いきなり封印が解かれたのか。
それは三名が知った世界の秘密が大いに関係しているのだが、少し戻って見てみよう。
◇◆◇
「ギルドマスター、〈月光の導き〉や他のパーティーから、同様の気になる報告が上がっています」
「気になる?何だろうな、聞こう」
「はい、それが――」
アウロ・プラーラでは問題が起きていた。
それは、ダンジョン内の魔物が爆発的に増加しているのである。
その増加量は凄まじく、特に第一ダンジョンなど満員電車一歩手前まできている。
「それで、初心者向けのダンジョンだったはずの第一が魔物で溢れている訳ですから、かなり多くの冒険者が亡くなっています」
「なるほど、確かに異常だな。
よし、緑翠級以上のランクの者たちに緊急クエストを出そう。
内容は第一ダンジョン内の掃討だ」
ノゾミの対応は間違ってはいない。
ただどうやら、動き出すのが遅すぎたようだ。
「ギルドマスター!第一ギルドから報告です!
魔物が外に溢れ出した、と!」
「何だと!?」
この問題は、誰もが楽観視していた。
今まで魔物が溢れ出したことなど無く、たまに魔石を持たない魔物が少数出てくる程度。
だから今回も、実力者を集めて掃討してしまえば問題ないと思っていた。
だが実際は、溢れ出ないなどという保証はない。
現に、第一ダンジョンの外でゴブリンやウルフが暴れ回っているのだから。
「すぐに冒険者を向かわせろ!
非戦闘員の避難と魔物の対処を、」
「お話中失礼します!」
そして状況はさらに悪くなる。
「第一に続き、第三第四も溢れ出ました!」
「ッ!?ならばそちらにも冒険者を出す!
負傷者と非戦闘員の救助を最優先に動け!」
「了解しました!」
「〈月光の導き〉と〈永久の約束〉にも応援要請を出す。
彼らは今どこに?」
赤金級以上の冒険者証は特別で、魔導機械によってGPSの機能が付けられている。
そのため、どこにいようと位置情報が分かるのだ。
例え、反転世界にいようとも……
「はい。両パーティーともアウロ・プラーラ内にいるので〈月光の導き〉には既に対処に当たってもらっています。
ですが〈永久の約束〉の方は……」
「どうした?」
「いえ、その……いないんです。
反応のある場所を探しても本人はおろか、冒険者証も見つかりません」
「それは……どういうことだ?
トワさんが何か、新しい魔法を使っているとかか?」
ノゾミは別室へと行き、壁に設置された魔導機械を確認する。
それはGPS受信機のうちの一つであり、現在、〈永久の約束〉を示す光点は第三ダンジョンにある。
「第三ダンジョンにいるのではないのか?」
「いえ、反応が街中にあるときに探したのですが、見当たりませんでした。
それに、もし彼ら第三ダンジョンにいるのだとしたら、魔物が溢れ出るなんて事が起きるはずもありません」
「それは……確かにそうだ」
そうこうしている間にも、〈永久の約束〉の反応は第四ダンジョンへと移ろうとしている。
「反応がここにある以上、期待は出来んが鳥を飛ばせ!
応援要請を括り付けて彼らの元へ向かわせろ」
「了解しました。すぐに取り掛かります!」
「……久しぶりだが、私も戦うべきだろうな」
ノゾミは自室へと戻り、ポケットから一本の鍵を取りだして金庫を開ける。
そこには、いくつかの拳大の黒い箱が保管されていた。
そのうちの一つを選び箱を開けると、みるみる大きくなって中から一丁の銃が現れる。
それは、ヴァルメリア帝国の設計図にも記されている魔法銃。
ノゾミの父親、望が遺した物だった。
「よし、行こう。
ここの守りは君たちに任せる。
避難してきた者たちは奥に通してやってくれ!」
「「はい!」」
ノゾミは動きやすい服へと着替え、魔法銃とマガジンを手に戦場へと繰り出した。
◇◆◇
「リーダー、ギルドから伝令っす!
第三ダンジョンでも魔物が溢れたからそっちに向かってほしいって」
「なッ!?第三だと?
あそこの奴らはまずいか……
分かった。すぐに向かうと伝えてくれ!」
現在、〈月光の導き〉の四人は第一ダンジョンから溢れ出したゴブリンやウルフの掃討に当たっている。
ここの戦線は、彼らが暴れ回ることで被害を最小限に抑えていた。
だが第三の魔物は、第一とは比べ物にならないほど強い。
最早冒険者たちの被害云々を気にしている状況ではなくなった。
「済まない!俺たちは第三方面に向かう。
ここの戦線は任せたぞ!」
「は、はい!皆さんもどうかご無事で!」
〈月光の導き〉は第一戦線を離れる。
一緒に戦ってきた冒険者たちの武運を祈って……
◇◆◇
「クッ……厳しいな、これは」
中央ギルドから飛び出したノゾミは現在、第三戦線で戦闘中だ。
戦っている魔物の多くはオーガ。
強敵揃いの第三では比較的弱者だが、並の冒険者にとっては意味の無い違いに等しい。
「グオッ!?」
オーガの投げた石がノゾミの右肩を掠める。
ただそれだけなのに、焼けるような痛みと共に血が吹き出す。
「ギルドマスター!?今治療を!」
「済まないな。助かる」
ノゾミも決して弱者という訳では無い。
むしろ、彼の父親が遺した魔法銃のおかけで、赤金級に迫る実力と言っても差し支えないだろう。
だがそれは攻撃力だけの話。
防御力や回避能力などはそれには及ばない。
「もう大丈夫だ。ありがとう」
治癒術師の回復魔法で、傷は瞬く間に完治した。
「さぁオーガ共、この鉛弾を喰らえ!」
けたたましい音で魔法銃が火を吹く。
弾が命中したオーガが一体、また一体と倒れるが、劣勢には変わりない。
「ノゾミ、もっと下がれ!」
「母さんこそ前に出過ぎだ!」
第三戦線にはノゾミの母親、エルフィエンドも参戦している。
長き時を生きるエルフの実力は高く、オーガともなんとか渡り合えている。
そこに強力な援軍が到着する。
「ノゾミさん!?なんでこんなところに!?」
「ッ!?〈月光の導き〉か!
今はそんな事を気にしている場合では無い!
とにかく手を貸してくれ!」
「わ、分かりました。
お前たち、オーガどもを蹴散らすぞ!」
「「はい」ッス」
アウロ・プラーラ第二位の実力は本物で、先程まで劣勢だった戦線がひっくり返る。
だがそれも一瞬。
あまりにも数が違いすぎる。
人間側の戦力は多く見積っても数十、百にも満たない。
対し、第三ダンジョンの勢力は数千、もしかしたら万にも届いているかもしれない。
それも、今なお増え続けている。
あまりにも絶望的だ。
そして遂に、戦線の一角で悲鳴が上がる。
前線が崩れたのだ。
盾持ちや剣士がなんとか食いしばっていた箇所が崩壊する。
それは、後衛が直接狙われるということ。
肉弾戦など一切しない魔術師や治癒術師は、一瞬にしてオーガの波に飲まれ消える。
だが悪夢はそれだけでは終わらない。
むしろこれからが本番だ。
道を塞ぐようにして戦っていた戦線の一角が崩壊。
つまり、穴を空けられたのである。
いくら知性が無いとはいえ、押し込められていたところに突如穴が空けば結果は明白。
オーガはそこから冒険者たちの裏へと回り、包囲殲滅が始まる。
「何だよこれ……何なんだよッ!?」
「うわァァー!!」
あちらこちらで悲鳴が上がり、命の灯火が消えてゆく。
そしてそれは、〈月光の導き〉であろうと例外では無い。
「ハァ!
クソ、数が減らない!一体どうな」
――パァン!
「リーダー!?」
この戦線で、いや、今この国にいる一番の実力者が死んだ。
勇猛果敢にオーガの群れを屠っていたところに、魔法が炸裂したのだ。
一枚の、だが最も分厚い壁はもう無い。
最早オーガを止めることは不可能となった。
「グハッ!」
「ッ!?ノゾミ!
ア゛ァ゛ッ!!」
どんな実力者であれ、死ぬ時は一瞬。
ギルドマスターも、その母親も、残った〈月光の導き〉でさえも、オーガの波に飲まれ消える。
そして誰一人、その場に生きている人間はいなくなった。
尚も増え続ける第三ダンジョンの勢力。
それは国中へと広がり、出会う全ての命を奪ってゆく。
そして、その被害は中央ギルドにも拡がり、戦いの余波で展示されていた巨大な魔石が砕けた。
その魔石はブラキティラノの核。
トワでさえ倒し切ることが出来ず、封印で済ませたもの。
それが砕け、瞬く間に復活する。
この日、アウロ・プラーラは地獄に変わった。
国の各所ではゴブリンやウルフやオーガ、巨大な虫たちが暴れ回り、中央では百メートルにも及ぶ化け物が蹂躙する。
血や肉片はばら撒かれ、踏みつけられ、ほぼ全ての生命が消え入ろうとしていた……