6-1 異世界の先の異世界
第六章、開幕です。
グロテスクな表現が含まれているので、お食事中の方は⚠注意⚠です!
Σ(゜д゜;)
「うっわ……きもちわる……」
空間の裂け目を通ったトワは異様な光景に不快感を示していた。
「目がいてぇな……」
「同感だ。あまり長居はしたくない」
それは他二名も同じだったようで、眉間に皺を寄せている。
それもそのはず、一行が渡った世界の色が、異常なのだ。
綺麗な青空は濃い橙色で、白く輝く太陽は真っ黒。
緑生い茂る大地は赤や紫に染まり、影や土は白い。
ただいるだけで吐き気を催すような気持ち悪い世界だ。
「うぅ……さっさと調査して帰りましょう」
取り敢えず空間把握全開で、辺一帯を調べ尽くす。
「んー……あ!魔物の国、本当にありましたね。
ゴブリンやらオーガやら、見慣れた魔物が人みたいな暮らしをしてますよ」
「なら、オレたちが戦った奴らはその国の兵って事か」
「そうなるであろうな」
いきなり20万も兵を失ってどうするのだろうか?
指導者のような者がいたら戦犯として処刑モノだろう。
「あ、これ看板ですね。
えっと……『あいれむらう゛ うこきえと え おそくおい』って読めます……
ここでも出ましたね、アイレムラヴ」
使われている文字は同じなため、無理やり発音すれば読めなくは無い。
が、意味は全く分からない。
そして、もっと驚くべきものを発見した。
「え、ウソ!?これ、新聞?
思ったよりこっちの技術、進んでるのかも」
新聞があるということは印刷の技術があるということ。
活版か木版か、或いは現代日本のようにプリンターで印刷されている可能性もある。
「ちょっと読むの大変なので、地面に書きますね。
まずは見出しから」
『iehukokiet nam02 utemnez!!
akiehietuok ah urusuod?』
観えた新聞の見出しを書き写し終わり、三名で解読を試みる。
「いえふこきえと なむ02 うてむねず あきえひえつおく うるすおど……
誰か意味わかる人ー?」
案の定全滅だ。
しかし、ネジャロから絶妙なパスが飛んでくる。
「なむ02って何だろうな?
何かの数字、番号……単位?」
そしてそのパスを見事、モノアイが受け止めた。
「なむ、nam……マン
ッ!20万!
逆さに読んだらどうなる!?」
20万、その数字には覚えがありすぎる。
「?どうする は 皇帝陛下
!!全滅 20万 帝国兵ッ!」
「区切りごとに逆さに読んだら?」
「帝国兵 20万 全滅!!
皇帝陛下 は どうする?」
意味の分からない文章の正体は逆さ語だった。
これなら文字に起こせれは意味が分かる!
それならばと、初めに見つけていた看板を読み直す。
「ヴァルメリア 帝国 へ ようこそ
ってえ?ヴァルメリア帝国?」
その看板は、何度読んでもヴァルメリア帝国と読める。
――もしかして!?
確認のために、一度元の世界へと戻る。
「いきなりどうした、お嬢」
「同じだ……同じなんです。
国の形が、向きが違うだけで!」
「何だと!?」
ここまで来てようやく理解出来た。
裂け目の向こう側の世界、それは反転世界だ。
よくよく考えてみれば黒い太陽に白い影、この時点で気づくことも出来たはず。
だとすると一つ気になることが出てくる。
「人は?人はどこにいるんでしょうか?」
「「ッ!?」」
確認しなくとも分かっているようなものだが、せざるを得ない。
三名は急いで反転世界へと渡る。
「ダメです!
ここからだと遠すぎてアウロ・プラーラまで観れません!」
「なら急いで北に、いや南に行くぞ!」
反転世界ではどこにも訪れたことはなく転移が使えないため、モノアイの背に乗り南へと飛び立つ。
その間も、トワは空間把握で反転ヴァルメリア帝国を観続ける。
――魔物たちが着てる服、よく見たら獣人族の毛皮だ。
それに、あのゴブリンが被ってる兜は、人族の頭蓋骨……
最早確定だろう。
反転世界は魔物が人間を狩り、それを素材として利用しているのだ。
「トワよ!もうそろ観えるのではないか?」
「そ、そうですね!」
結果は分かりきっているが、それならばダンジョンに囚われた人間だけでも助け出そう。
そう思い、反転アウロ・プラーラのダンジョンを観る。
「いま、した。
魔物が人間を狩っています……」
「クソ!お嬢、今すぐ助けに行こうぜ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!
おかしいんです。人間の様子が」
ダンジョン内では、丸裸の人間が今も狩り殺されている。
だが、トワがおかしいと思ったのはそこでは無い。
逃げないのだ。誰一人。
武器も持たず服すら着ず、そんな状態であれば、普通真っ先に逃げ回るだろう。
だが実際は、ただただ突撃して命を散らすだけ。
どう考えても異常だ。
まるで、知性が無いような……
――知性……が無い?
向こうの魔物と同じ?
そして、今まさに狩り殺された人間から抜き取られるのが観えた。魔石が。
「魔石が、人間から魔石が出てきました!」
「ウソだろ……」
「なんと……」
魔石が出てくる、それ即ち、反転世界の人間は通常世界から連れ去られた訳でもなく、ダンジョンによって殺されるために生み出されたということだ。
「あークソッ!とにかく助けに行くぞ!
モノアイ、アウロ・プラーラに突っ込んで魔物共を殺しまくれ!
そのうちにオレたちで中の人間を助ける!」
「了解した!」
モノアイはスピードを上げる。
背に乗る二人は振り落とされないように必死にしがみつき、夜になった空を飛んでゆく。
◇◆◇
「GRROOONN!!!」
その日、反転アウロ・プラーラに異形の龍が降ってきた。
歪な咆哮を上げ、辺り一帯から魔力を奪い尽くす。
知性ある魔物たちは、相変わらずの逆さ語で悲鳴をあげ逃げ惑う。
だがしかし、ほぼ全ての者が逃げきれず、骸と化した。
その日、反転アウロ・プラーラは廃墟と化した。
トワとネジャロが戻ってくるまでの約三時間。
モノアイが暴れ回ったことにより、八割以上の魔物が死に、吹雪吹き荒れる不毛な土地へと姿を変えた。
◇◆◇
「お嬢!第一ダンジョンから行くぞ!」
「分かりました!」
二人はダンジョン内に侵入し、狩りに興じる魔物を殺し、人間を異空間倉庫へ放り込む。
「これで全員です!」
「よし、なら次は第二だ!」
通常世界のダンジョンは、魔物の種類で分けられていた。
それは反転世界でも同じで、第一から人族、猫人族、虎人族、蜥蜴人族、魔族と分けられている。
「第二も終わりです!」
「よし、第三だ!」
第三ダンジョン、元は巨大な魔物が跋扈する高難易度ダンジョン。
こちらの世界では虎人族が生息し、変わらず高難易度なようだ。
「オラァ!
ッ!?」
「よし、こっちは終わりました!
そっちは……ネジャロさん?」
ネジャロが一人の虎人族の前で固まっている。
「あの、どうしたんですか?
早く奥に……」
「……兄、さん。なァ、兄さんだよな!
ネリージョ兄さんだよな!」
――え!?どういうこと?
ネジャロさんの家族は確か、どこかの騎士に村ごと襲われて亡くなっているはず……
「あの、本当にお兄さん何ですか?」
「ああ!間違うはずがねぇ!
あの時の、オレがまだガキだった頃の兄さんだ!」
――本当にどういうこと?死んだはずの人間がここにいる?
ふと、異空間倉庫に放り込んだ人族の顔を確認してゆく。
――ウソ、ホントにいた……
見つけた顔は忘れるわけが無い。
つい最近、第二のアンデッドに処理させたメラン侯爵だった。
知性を失い、獣のように成り果てたメラン侯爵を放り出す。
――死んだ人間、知性、獣落ち……不快感。
繋がってしまった。
トワが今まで疑問に思っていたことが、全て……