SS 真逆のひと時
トワたちが空間の亀裂を渡った後のヴァルメリア帝国のお話。
( ˘ω˘ )☞♡☜( ˘ω˘ )
「何なんだ、何なんだあの無礼者は!」
皇帝は怒り狂っている。
代々受け継いできた帝冠を粉々に砕かれ、罵倒されたのだ。
生まれてこの方ヨイショしかされたことの無い皇帝にとって、初めて味わう屈辱だ。
「アイザッーク!!
早く来んか!!」
「ハッ、ここに」
「兵器の開発はどうなっておる?」
「じ、実用段階には至っておりませんが、確実に完成に近づいております!」
「なるだけ早く完成させろ!
伝説のドワーフが残した技術、それを以てあの無礼者を処刑してやる!」
アイザックは喜びに打ち震える。
自分はまだ捨てられたわけではなかったのだと。
あの白い悪魔を討てれば再び認めてもらえるのだと。
今までは対魔物用に開発してきた兵器だが、それはトワに向けられるものへと変わってゆく。
この日、ヴァルメリア帝国は破滅への階段を登ってしまった。
そしてそれは、外で聞き耳を立てていたオルストにも伝わることとなる。
「おいおいアホかよ、うちの皇帝陛下は……
あんな化け物、兵器なんざいくらあったって勝てるわけねぇっての」
オルストに家族はいない。
それ幸いと、夜逃げを決意する。
「アウロ・プラーラに行って、冒険者にでもなるか……
その前に、オーラン兵長には世話になったからな。教えといてやろう」
後に、ヴァルメリア帝国ではある噂が急速に流れ始める。
ロッゾ皇帝陛下は白い女神に魔物の大軍勢を退けてもらった恩があるというのに、彼女を討つための兵器を造り始めた、と。
◇◆◇
「なあアランの旦那。
聞いたか、あの噂」
「うん、間違いなくトワの事だね」
「やっぱりそうか。
全く何考えてんだか……」
工場長は少し考えたあと、奥から一枚の設計図を手に戻って来た。
「これ、本当は見せちゃまずい物なんだけどよ。
関係者だから見せとくぜ」
親方が広げる設計図に載る機構は驚くべきもので、風魔法と火魔法で生み出した爆発力で鉄の玉を発射するというもの。
つまり銃、魔法銃である。
「これは……武器だね。
すごい発想だ。
確かに、これなら魔石さえあれば誰でも戦えるようになる」
「そうだ。
噂が本当なら、皇帝陛下はこれでトワの嬢ちゃんを殺そうとしてる。
大丈夫なのか?」
アランは考える。
トワが言っていた異界の護りの能力を。
□□■■□□■■
「これは体の周りに凝縮した異空間を創り出すんです。
創り出せる速さは……大体一秒あたり1000キロってとこですかね」
「えっ、とつまり?」
「つまり、一秒で千キロより多く進めないと触れられないってことです!」
□□■■□□■■
「……大丈夫だと思う。
ほら、ここに秒速500~600メートルって書いてある。
これならトワの守りは抜けられない」
「そうか、それならひとまずは安心ってとこか……」
「そうだね。
だけど、狙われてるって分かった時点でトワが何をするか分からないから、戻ってきたらすぐにこの国を離れるよ」
「ああ、それがいい。
無用に争う必要は無いからな……」
親方は設計図を元の場所に戻した。
だが、それにはまだ読んでない部分が残っている。
では何故読まなかったのか?
否、読めなかったのだ。
その設計図の何ヶ所かには日本語で書かれた文言がある。
右上には『作成者、望』と書かれていて、中央下には『核兵器の造り方はあえて載せない。せめてここで留まってくれる事を祈る』と。
◇◆◇
一方その頃、ロセウス子爵家では平和な時間が流れていた。
ベルテなら、そんな噂が流れていようものなら怒り心頭なはずだが……
結論から言うと、誰も教えていないのだ。
アランもエルマも、屋敷のメイドたちも誰一人として噂を口にしない。
アランに口止めをされたのだ。
「あらあら、とっても美味しいわー!
これはなんて言うお料理かしら?」
「ほっとけーき、というそうです。
お嬢様が何となく覚えていた作り方を解明したんです!」
「そうなのね!
ベルテさん、もっと色々な料理を教えて貰えないかしら?
屋敷のメイドたちにも覚えてもらいたいの」
「もちろんです、エルマ様。
何をお教え致しましょうか?」
「そうねぇ……あれに、これも教えて欲しいわ」
この家だけ、外界の物々しい空気とは大違いである。
望むらくは、世界の全てがこの家のように平和でありますように……