5-8 戦後?の処理 前編
長くなってしまったので、前後編に分けます!…>_<…
現在、トワの異空間倉庫の中には、数えるのも面倒な程大量の魔物の死骸が溜まっている。
加工出来れば莫大な金額になるが、それにはまず分解、剥ぎ取りをしなければ。
「さてと、一体どこに持ち込むやら……」
「あー、それなら工場はどうだ?
ご主人が繋がりも大事だとか言って、仲良くなってたからな」
「おおー!ナイスアラン!」
流石はアラン。
トワが兵士とくっちゃべっている間も、商人として様々な繋がりを確立していたようだ。
それなら、アランにも着いてきてもらおう。
「カクカクシカジカで、大量の元が手に入ったので、加工するためにも工場に持ち込みたいんですよ。
仲介、お願いできます?」
「任せて!
ていうか、そんな大軍勢だったんだ……
大丈夫?怪我とかしてない?」
「フフフ、大丈夫に決まってるじゃないですかー」
実際の戦場を見ていないからこその心配だろう。
ただ近寄ることすら出来ずに爆散してゆくあの惨状を見せれば、心配なんてするだけ損だというのが分かるだろうか……
現実を見ていた戦士は遠い目をする。
◇◆◇
「さぁ、着いたよ。
一旦、僕だけで話を通してみるね」
「お願いします」
商談事はアランに任せておけば大方上手くいく。
雑な性格のトワとネジャロは、いない方がいいまであるかもしれない。
しばらく待っていると、アランが髭の濃い大柄な男性を連れてきた。
「ほお……このべっぴんなお貴族様がアンタの恋人ですかい?」
「う、うん。まあね」
随分と照れた様子のアランは、中で何を話してきたんだろうか?
覗き観しておくべきだったかなと、ちょっと後悔。
「それで、物はどこにあるんだ?」
「それならここに」
異空間倉庫を開き、魔物の死骸をいくつか取り出す。
「……それが神話の魔法か。
初めて見たけど、便利なもんだな……」
アランと話し合い、隠し事は無しでいくことになっている。
強大な力を見せつけて、交渉を有利に持っていくためだ。
「こんな感じで、五万ほどあるみたいなんだ。
報酬として三割を提供するつもりだけど、どう?」
「五万……よし、引き受けた!」
――ほら上手くいった。
かなりの量の報酬でこことも仲良く出来そうだし、これからも頼っていこうかな。
工場の設備はなかなかのものだった。
現代日本と比べてしまうと可愛いものだが、それでも一部は機械化されている。
魔物の軍勢でよく手に入る、ゴブリン、ウルフ、オーガ辺りは機械にセットするだけで簡単に処理が終わる。
後の血や汚れを落とす作業は人力なのだが……まあ、頑張ってほしいね。
「それでは、ここに二つ空間を開けておくので、こっちから未加工の物を、こっちに加工後の物で分けておいてください」
五万もの死骸を工場の倉庫にポイする訳にもいかないので、今回のために別で空間を用意した。
それは、言ってしまえば無制限に拡げられる倉庫のようなもので、トワが魔力を供給し続ける限り、誰もが使用出来る。
今回のことが終わっても残しておくから自由に使ってと言ったら、大層喜ばれた。
これで素材の方は終わり。
後は兵士たち、場合によっては騎士団やそれ以上の者たちへの説明もしなければ。
本来はそんなことするつもり無かったのだが、した方がいいとアランに言われてしまったので仕方ない。
まずは顔見知りのオーランに会いに行こう。
転移で兵士たちの詰所付近まで飛んできたが、何やら随分と騒がしい。
ネジャロと顔を見合せ、まぁとりあえず行ってみることにする。
「オーランさーん、いますー?」
「ッ!?トワ様!
ご無事で何よりです……
我が国も救って頂いて、なんとお礼を言ったら良いか……」
「そんなの別にいいですよ。
それで、倒した魔物は私たちが貰うねって事を伝えに来たんですけど……
何でこんなに騒がしいんですか?」
オーランに比較的静かな応接室へと案内され、事の経緯を説明される。
どうやら、トワたちの蹂躙劇を見ていた偵察兵が戻ってきて、その報告をしたらしい。
語られるは、圧倒的な武力を持つ三人(二人と一頭)の戦い方。
異形の龍に近寄るものはパタパタと倒れてゆき、虎人に近寄ろうものなら纏めてぶった切られる。
白い少女に至っては、戦場を笑顔のまま駆け回り、魔物を次々と爆発させてゆく。
それも、他二人とは比べ物にならない速度で。
「まさか、これ、大袈裟に言ってるだけですよね?」
「事実ですね」
「事実だな」
示し合わせた訳では無いが、トワとネジャロが綺麗にハモった。
だが、オーランにそんなことを気にする余裕は無かったようで。
「…………事実、でしたか…………
あ、素材の件は……もっと上部の方に掛け合って頂く必要があります。
それと、重ね重ねではありますが、我が国を救って頂き、本当にありがとうございます」
――はぁ……やっぱり騎士団に行かなきゃダメか。
めんどくさいなー……
「あのー、もし良かったら、着いてきてくれませんか?
事情を知っている人がいると説明が楽なので」
「は、はい。
それはもちろん、同行させて頂きます。
あなた方の戦いを見ていた偵察兵、オルストも連れていきましょう」
――よかった。これで多少は楽できそう。
「それでは、すぐに準備してまいります!」
オーランは飛び出して行った。
外から駄々をこねる男の声、恐らくオルストのものが響いてくる。
「嫌だ嫌だ騎士団になんて行きたくない!
あそこのヤツら俺らのこと見下すじゃんか!
や、止めろ、引っ張るなー!」
「ただいま戻りました。
準備が整いましたので、参りましょうか」
「そ、そうですね」
――オルストさん、なんかごめんよ……
オーランの陰でしくしく顔のオルストを見て、流石に可哀想に思ったが、楽をするための尊い犠牲になってもらおう。
騎士団へは転移ではなく、一応馬車で行くことにした。
予め停めてあった、いつもの豪華な馬車に乗り込む。
御者はオルストがどうしてもやりたいと言って聞かなかったので、任せることにする。
と言っても、トワもネジャロも御者は出来ないから助かった訳だが。
「ところで、報告にあった異形の龍というのはどちらに?」
「モノアイさんのことですね。
あの龍は戦場だった場所を監視してもらってます。
だから絶対に……あ!言うの忘れてました!
絶対に近づかないでください!
魔力奪われて最悪死にますよ!」
トワ自身に効果がないため忘れがちだが、魔力を少しでも持っている人からしたら、モノアイは歩く死神のようなものだ。
ここに来て、とてつもなく重要なことを伝え忘れるという凡ミスをかます。
「それに関しては、問題ありません。
オルストからの報告で……危険性は承知していますので」
がしかし、トワが思ったよりも兵士たちは優秀だった。
ただ、オーランやオルストからしたら、あの戦場で暴れていた全員が危険人物な訳で、好き好んで近づこうとは思わない。
今でさえ、救ってもらった恩はあれど、どこからともなく湧き上がってくる恐怖心もあるのだ。
「も、もうすぐ到着ですね。
事の経緯の説明は私どもにお任せ下さい。
これでも騎士団のトップとは顔見知りですので、悪いようにはならないはずです」
「そうですか?
ならお願いします!」
トワやネジャロに口を開かせて揉め事になったら一大事と思い、先手を打つオーラン。
面倒臭い説明をしなくてラッキーと思うトワ。
両者、都合が良い方に進むようだ。
この後の話し合いで国の存亡が決まるかもしれないと、オーランは気を引き締め直すのだった。