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5-5 ストーカー再び! 得体の知れない敵

本日二話目になります!

 

 

 情報収集のために街に繰り出したはいいが、ちょっと困った。

 

 そもそも、国を守る兵士がペラペラと話してくれるとは思えない。

 

 ――冒険者証パワーでいけるだろうか?

 

 

 いくら上級貴族と同程度の身分があれど、所詮他国の人間だ。

 

 そんな人間に、軍の機密情報かもしれないものを話すだろうか?

 

 とまぁ、悩んでいても仕方が無いので、とりあえず兵士の詰所に行ってみることにする。

 

 

 具体的な場所は知らないが、鎧を着た人がたくさん集まるところを探せばすぐだろう。

 

 という訳で、空間把握(マップサーチ)を働かせて、街を歩く。

 

 

 予想通り、すぐ見つかった。

 

 

 多くの兵士が集まる、詰所。

 

 きっと、情報の山だろう。

 

 

 物は試しだと、赤金級のプレートを引っ提げ、入口の兵士に話しかける。

 

 

「申し訳ございません。

 いくら上級貴族様といえど、他国の方に軍の内部をお見せする訳には……」

 

 

 ――ですよねぇー……

 

 

 さて、詰んだ!

 

 ミステリー物の主人公のように、機転の利いたやり方なんて思いつかない。

 

 一体どうしたものかと考え込んでいると、聞き覚えのある、嫌な声が耳に飛び込んできた。

 

 

「女神様!やっと見つけましたよ。

 突然いなくなった時は、本当に焦りました。

 ですが、無事、我が国に到着できたようで、なによりです」

 

「げ……ストーカー」

 

 

 声の主は、この国に着くまで散々付け回された、イニーカ・ブラウン伯爵公子である。

 

 

「ストーカではなく、イニーカです。

 お忘れですか?イニーカ・ブラウン。

 未来の貴方の伴侶となる男ですよ!

 ところで、どうしてこんな所に?」

 

 

 ――ストーカーとイニーカをかけた訳じゃないわ!

 

 てか、伴侶なんか絶対ならんし!

 

 コイツ、どっか適当な場所に飛ばしてやろうか……いや、使えるか?

 

 

 イニーカはヴァルメリア帝国の騎士。

 

 つまり、兵士の上位互換みたいなもんだろう。知らんけど……

 

 

 それならば、詰所にも通してもらえるのではないだろうか?

 

 一緒にいると背筋が寒くなるような感じがするが、まぁ、また利用するだけしてやろう。

 

 

「えっとぉ、兵士さんたちにぃ、聞きたいことがあってぇ。

 でもでも、知らない人だからぁ、ダメって言われちゃったの……」

 

「と、トワ様?

 そんな話し方でしたっけ?」

 

 

 ――あれ?違ったっけ?

 

 なんか、口調を変えて話したことは覚えてるんだけど、どんな話し方してたっけかな?

 

 どうでも良すぎて全く覚えてないわ。

 

 

 おかしくなった口調を戻すため、一つ咳払いをしてから、再び話し始める。

 

 

「それで、あなたの身分で口添えして貰えませんか?

 〈アイレムラヴ〉と喋った魔物のことを詳しく聞きたいので」

 

「え、ええ。それくらいなら構いませんよ。

 それにしても、〈アイレムラヴ〉ですか……

 我が国が戦争の準備に急いている原因ですね」

 

 

 ――簡単にOKするじゃん。

 

 ダメでしょ、こんな人を軍の内部に置いといちゃ。

 

 

 これが人間同士の戦争だったなら、一瞬で機密情報が漏洩するだろうが、今回ばかりは助かった。

 

 

 恋で盲目となったか、或いは元々こういう性格だったのか。

 

 それは定かでは無いが、真の敵は無能な味方とも言うし、身内じゃなくて本当に良かったと思うトワである。

 

 

 

 イニーカを背後に付け、先程断られたばかりの兵士に再度突撃する。

 

 やはり断ってきたが、イニーカが圧力をかけたことで、嫌な顔をされながらも通して貰えた。

 

 

 きっと上層部に報告されて処分が下るだろうが、知ったこっちゃないね。

 

 そちらがストーカーするなら、こちらは利用させてもらうまで、その後のことまでは面倒見ませんとも。

 

 

 

「〈アイレムラヴ〉と喋った魔物のことを詳しく教えてください」

 

 

 渋る兵士だが、騎士の圧力には逆らえないようで、ため息をつかれながらも教えてくれた。

 

 

「……確かに、そんな奴がいましたよ。

 喋ったのは五匹のゴブリンでしたね。

 知らない言語?だったんですけど、それ(・・)だけは全員が言ってたから、何となく分かりましたよ」

 

「それじゃあ、知能を持っているというのは?」

 

「……そんなことまで知っているんですね。

 これは、隠そうとしてもダメそうだ。

 アイツらはね、武器を持っていたんですよ」

 

「武器?武器ならダンジョンのゴブリンも、骨のナイフみたいなのとか、棍棒を持ってたりしましたけど」

 

 

 その程度なら、グギャグギャ喚いているゴブリンが、知能持ちの魔物ということになってしまう。

 

 だが実際は、そんなお粗末なものではなかった。

 

 

「いえね、貴族様。

 奴らが持っていたのは金属製なんですよ。

 それも、俺たち兵士が持っているような剣よりも、性能がいいものを大量に」

 

 

 これには流石に驚いた。

 

 つまり、魔物が鍛冶の技能を持っているということになる。

 

 だが、見逃している可能性もある。

 

 

「誰かが魔物に武器を横流ししていた、とかでは?」

 

「それは無いと思いますよ。

 色が違いましたからね。

 貴族様は、透明な金属って見たことあります?」

 

「……透明、ですか」

 

 

 この時、流石にないだろうとは思ったが、どうしても浮かび上がってしまった疑問がある。

 

 

 ――それ、ガラスじゃね?

 

 

 気になりすぎてどうしようもなかったため、額を地面に擦り付けて、なんとか実物を見せてもらった。

 

 上級貴族に土下座させるなど、一兵士からしてみれば卒倒もんなのだが、トワにそんな常識は通用しない。

 

 

「これです……どうぞ」

 

「おお?おお!おお?」

 

 

 不思議物体過ぎて、おかしな声が出てしまったではないか。

 

 

 結論から言うと、それはガラスではなかった。

 

 ガラスにしては丈夫すぎるし、そもそも全然、全くと言っていいほど違う。

 

 

 兵士が持ってきた剣は、完全に透明なのだ。見えないのだ。

 

 なのに、何故かそこに刃があることが分かるし、ちゃんと切れる。

 

 

 この透明物体を金属と言い張るのは、金属光沢に真っ向から反しているので、なんか変な感じだが、間違いなく金属のようなものではある。

 

 確かに、こんなものが大量にあるのであれば、少なからず話題になるだろうし、横流しの線は消えたと思っても良さそうだ。

 

 

 だとするとますます謎だ。

 

 知らない言語に知能を持つ魔物、透明な金属まで出てきてしまった。

 

 

 もういっそ、異世界からの侵攻ですと言ってくれた方が、考えなくていいから楽なまである。

 

 というか、本当にそう考えてしまってもいいのかもしれない。

 

 それなら、どこの国に行こうと、ヴァルメリア帝国とだけ戦っていてくれれば関係ないのだから。

 

 

「〈アイレムラヴ〉との戦争は三ヶ月毎に起きてまして、もう三日後ですね」

 

 

 ――おい誰だ、関係ないとか言ったやつ。

 

 おもっくそ巻き込まれるやつじゃないか!

 

 

「じゃあ、こんな所でおしゃべりしてる場合じゃないでしょ。

 戦場に行かないと!」

 

 

 無理やりおしゃべりの場に引きずり出した本人が何言ってんだか……

 

 兵士たちの心情はこんなところだろう。

 

 

「それなら大丈夫ですよ。

 どうせ、どっから来るかわからないですから。

 そのための城壁と砲です」

 

「あ、なるほど。

 確かに立派な壁でしたもんね」

 

 

 ――どこから来るか分からないか……

 

 いざとなったら転移(テレポート)で逃げられるし、ちょっとこの戦争、観てみようかな。

 

 

 異世界からの侵略者の可能性も出てきたことで、その実態を掴もうという魂胆だ。

 

 

「お話、聞かせてくれてありがとうございました。

 それでは、ご武運を」

 

 

 つい敬礼をしてしまったが、兵士たちはなんだろうという顔しながらも、ノリよく返してくれた。

 

 

 とても戦争の三日前とは思えない程、明るい雰囲気だ。

 

 きっと、大した規模のものでは無いのだろう。

 

 

 情報を入手できたし、ロセウス子爵家に帰ろうと兵士の詰所を出る。

 

 後ろで、「あんな可愛い子が赤金級冒険者か」とか言うのが聞こえたが、わざわざ反応はしなかった。

 

 

「お待ちしていましたよ、トワ様。

 さあ、一緒にどこを巡りますか?」

 

 

 ――やっべ、忘れてた。

 

 

 踵を返し、路地へと逃げ込む。

 

 死角になった瞬間、転移(テレポート)

 

 

 イニーカは、またもや突然消えるトワに困惑するが、反面、トワは安堵の表情だ。

 

 ――いやー、危ない危ない。

 

 だがな、鬼ごっこで私に勝てると思うなよ!

 

 

 フッフッフッと、怪しい笑みを浮かべながら帰るトワであった。

 

 

 

 

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