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5-4 見つからない敵

 

 

 ヴァルメリア帝国に到着した一行は、各々の目的のため、二手に分かれて行動していた。

 

 トワとベルテは情報収集だ。

 

 

「先ずは、戦争関連のことをエルマさんに聞きに行きましょう」

 

 

 次の行先を決めるにも、ヴァルメリア帝国と戦争状態になる国は避けたい。

 

 そのため、ただの予想では無い、確定的な情報が欲しい。

 

 

 そして、トワにはもう一つ、手に入れたい情報がある。

 

 

 ――ベルテさんを殺した、メラン侯爵の家族。

 

 今まで訪れた国にはいなかった。

 

 それなら、アウロ・プラーラから二番目に近いこの国にいる可能性は高い。

 

 

 この件は、仲間の誰にも、当事者のベルテにすら言うつもりは無い。

 

 大切な仲間を傷つけられた報復として、メラン侯爵の跡取りらしき人物を殺した。

 

 そして、その禍根を残さぬよう、一族諸共消し去る。

 

 ただそれだけの事だ。

 

 

 敵と定めた者をどうしようと、どうなろうとトワの心には何ら響かない。

 

 傍からしたら異常なのだが、それを咎める者はこの場に存在しない。

 

 

 

 ベルテを連れて、エルマの私室の扉をノックする。

 

 

「トワとベルテです。

 少しお聞きしたいことがあるのですがー」

 

「あらあら、どうぞ入って」

 

 

 そう言われたので、ドアノブに手をかけようとするが、向こう側からメイドが開けてくれた。

 

 ありがとうと、短くお礼を言い、部屋へ入る。

 

 

「お茶をよろしく頼むわね」

 

「かしこまりました」

 

 

 そこまで長居するつもりは無いのだが、折角のもてなしなのだから、ありがたく頂こう。

 

 

 案内されたソファに腰掛け、膝の高さほどのテーブルに目をやると、小さな額縁に入った写真が映った。

 

 その写真には、ロケットの中でも見覚えがある二人の人物と、その腕に抱かれた小さな男の子が写っていた。

 

 

「この男の子は?」

 

「あらあら、私たちの息子、ラウナのことが気になったのかしら?

 今は、家督を継いで、ブラウン伯爵の補佐としてのお仕事をしているのよ」

 

 

 ――ん、ブラウン?あのストーカー野郎の家か。

 

 

「もういい歳なんだから、そろそろお相手を見つけてきて欲しいのだけど。

 ねぇ、トワさん、どうかしら?うちの子。

 かっこよく育ったのよ」

 

「ごめんなさい。もう恋人がいますので」

 

「あら、そうだったのね。残念」

 

 

 隣で、ベルテがニマーっとした顔をしているが、トワは気づかない。

 

 だが、対面にいるエルマは違うようで。

 

 ハッとした顔になったと思ったら、小さく、そういうことなのねと呟いた。

 

 

 無事、誤解されたようだ。

 

 

「それで、聞きたいことって何かしら?」

 

 

 話出そうとした瞬間、扉をノックする音が聞こえ、メイドがカートを押しながら戻ってきた。

 

 テーブルに、いい匂いがする紅茶とクッキーが並べられる。

 

 

 試しに一口飲んでみると、味わったことのない、優雅な香りが広がった。

 

 

「あらあら、お口に合ったかしら?」

 

「はい!とっても美味しいです。あ!」

 

 

 一口だけのつもりだったのだが、気付かぬうちに全部飲み干してしまっていた。

 

 

「ふふふ、嬉しいわ。

 うちの子は、あんまり好きじゃないみたいだったから」

 

 

 ――こんなに美味しいお茶を嫌うとは。

 

 さてはラウナめ、馬鹿舌だな。

 

 

 とっても失礼なことを考えているうちに、またお茶が注がれた。

 

 ついつい手が伸びてしまう。

 

 

「お嬢様、お聞きになることがあったのでは?」

 

「あ!そうでした」

 

 

 ベルテが止めてくれたことで、ようやく本来の目的を思い出した。

 

 

「ヴァルメリア帝国の戦争、相手国はどこなのでしょうか?

 旅をしているので、その国は避けようと思っていまして」

 

「あらあら、その事が知りたかったのね。

 ただ、私も詳しくは知らないの。

 兵士さんたちから聞いた話になるけど、それでもいいかしら?」

 

 

 構いませんと頷く。

 

 

「相手は、魔物らしいわ。

 でも、ちょっと特殊な魔物だって言ってたわ」

 

「特殊な魔物、ですか?」

 

「ええ、なんでも、知能があるし言葉も喋るそうよ」

 

 

 アウロ・プラーラで沢山の魔物を屠ってきたトワだが、言葉を介する魔物など見たことがない。

 

 知能のレベルは分からないが、連携や作戦のようなものはゴブリンキング位しか使ってこなかった。

 

 それも、お粗末なものだったが。

 

 

「ある時ね、兵士さんが攻めてきたゴブリンを何匹か捕まえて、尋問したらしいのよ。

 そうしたら、何を言ってるか殆ど聞き取れなかったけど、ほとんどのゴブリンが〈アイレムラヴ〉と言っていることは分かったみたいよ」

 

 

 ――アイレムラヴ、国名だろうか?

 

 

 そんな国があるか聞いてみたが、誰も知らないとの事だ。

 

 

 魔物の国なるものがあったとしても、人が支配する地上に建国することは出来ないだろうと考え、空間把握(マップサーチ)を広げる。

 

 探索する場所は地下。

 

 半径は限界となる、馬車で三ヶ月程の距離。

 

 ギリギリ、アウロ・プラーラが入る位の距離だ。

 

 

 ――洞窟はいくつかある。

 

 けど、普通の魔物が少しいる程度。

 

 これは……アウロ・プラーラのダンジョンか。

 

 ……うわッ、まって最悪。第四(虫の)ダンジョン観ちゃった、キモチワル。

 

 

 空間把握(マップサーチ)の結果、ちょっと吐き気を覚える光景が観えたが、知能ある魔物の国や集まりのようなものは確認できなかった。

 

 

 ベルテにだけ、〈アイレムラヴ〉は見つからなかったと伝え、部屋にカバンを忘れたから取ってきてと、先に戻らせる。

 

 

「教えてくれて、ありがとうございました。

 最後にもう一つ、メラン侯爵と言う家に心当たりはありますか?」

 

「あらあら、いいのよ、これくらい。

 それで、メラン侯爵家だったわね。

 あの家は、ほんの一月ほど前に、違法薬物の製造と販売の罪で、処刑されてしまったわ」

 

「そう、だったんですね。ありがとうございました。

 それでは、私は少し外に出てきます。

 お茶、とっても美味しかったです!」

 

 

 ――まさか、私が滅ぼす前に全員死んでいたとは。

 

 でも、殺したあいつは、家族が処刑されることを知らなかったみたいだけど……明るみに出る前に、子供だけ逃がしたってとこかな。

 

 

 一族諸共さらし者にするつもりで取って置いたメラン侯爵( の跡取り? )の死体だが、要らなくなってしまった。

 

 処理するのも面倒だったので、アウロ・プラーラに飛び、第二ダンジョンのアンデッドたちに放る。

 

 これで、冒険に挑んだが不運にも魔物に殺され、食べられてしまった冒険者の出来上がりだ。

 

 

 仕事が一つ片付き、ロセウス子爵の家へと戻る。

 

 そして、すぐに外へ行く支度を整える。

 

 

 戦争の相手国がはっきりしない以上、もう少し聞きまわる必要がありそうだ。

 

 

「ひとまず、エルマさんが聞いたように、兵士たちから詳しく話を聞いてこようと思います。

 それからのことは、その都度考えます」

 

「はい、お気をつけて」

 

 

 ベルテは、この国に入国したことになっていない。

 

 一人だけ留守番させるのは申し訳ないが、もうしばらくの辛抱だ。

 

 

 すぐに戻ってきますと伝えて、トワは兵士たちが忙しなく走り回る街へと繰り出した。

 

 

 

 

Twitterを始めました。

何故か電話番号が認証できなくて、始めようにも無理な状態だったのですが、ようやく認証が通りました。


今更ですが、よろしくお願いします(๑ ˙˘˙)/


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