4-3 異形との出会い
エルフィエンドが目覚めてから三日が経った。
初めは上手く力が入らないようで、立ち上がったりすることは出来なかったが、回復魔法をかけ、リハビリを続けているとすぐに良くなった。
これで、彼女たちが倒れていた洞窟を調べることができる。
調査隊のメンバーは、トワたち四人にエルフィエンドを加えた五人だ。
「それじゃ、皆さん行きますよー」
五人で輪を作り、洞窟内部へ転移する。
「すごいな、ホントに着いた……変な感じだ」
いつものメンバーは、慣れてしまって声一つ上げないが、エルフィエンドが起きて体験するのは初めてだ。
キョロキョロと辺りを見回している。
「やはり、ここには魔力がありませんね」
「では、手分けして調べてみましょうか。
皆は洞窟の中をお願いします。
私は外を見てきます」
洞窟の中は比較的マシだが、外は極寒だ。
トワは異界の護りで無効化できるが、他の者は数分も持たないだろう。
「大丈夫だと思うけど、気をつけてね。
何かあったら、すぐに声を上げるか転移してね」
「はい、了解です。
そちらも、何かあったら何でもいいので合図してください。
全員観ておくので、すぐに戻れます」
全員が頷き、各々散らばってゆく。
洞窟の外は一面の銀世界だ。
何かあるかと調べても、雪、雪、雪。
それならば、空から見てみようと、連続目視転移で雲の上まで上がるが、特に変わった様子は無い。
雲の内部も普通の雪雲だ。
ではでは、雪の中はどうだと、辺りの雪を手当り次第異空間倉庫へ放り込んでゆく。
とんでもない量の雪が消え地面が見えたが、特に何も出てこない。
――外はハズレかな?っと
洞窟内でベルテが手を振っているのが分かったので、一旦戻る。
「何かありましたか?」
「いえ、何もないんです。
なので、外はどうかと思ったのですが……」
こちらも何も無かったと、首を横に振る。
「でしたら、私も外に行こうと思います。
そこで魔力の流れを感じてみようかと」
「外は極寒ですよ。
どんなに着込んでも、数分もいられません」
「では、少しだけでいいのでお願いします。
それに、私なら何か分かるかもしれません!」
随分と乗り気なベルテに押され、数秒間だけ許可することにした。
ベルテと手を繋ぎ、先程雪を消しまくった場所へと転移する。
二人で外に降り立った瞬間、ベルテだけ、足に力が入らなくなったように膝から崩れ落ちた。
「ベルテさん!?」
いきなり倒れたベルテは、寒さでやられた訳ではなく、魔力欠乏という状態になっていた。
ひとまず、アウロ・プラーラの医務室へと連れ帰る。
カーテンで仕切られ、他の患者たちに見られていないため、ベルテの状態を巻き戻す。
「申し訳ございません。
結局ご迷惑を……
ですが、地面に魔力を吸われる感覚がありました」
「無事ならそれでいいんですよ。
でも、地面ですか……調べてみましょう。
洞窟に戻りますけど、大丈夫ですか?」
「はい、問題ありません」
手を繋ぎ直し、洞窟へ戻る。
「何か分かったかい?」
「はい、ベルテさんが地面に魔力を吸われたと。
なので、地面を掘って調べてみます」
ベルテをアランに預け、外に出る。
――地中までは、見えないよね……
それなりの距離があろうと、建物の中だろうと観ることができる空間把握だが、入口のない地中を観ることは出来ない。
「被害が凄いことになるから、あんまりやりたくないんだけど……」
原因調査のため仕方ないと腹を括り、足元に空間破壊をかける。
できるだけ狭い範囲を指定したが、地面には境界線がないため調整が難しく、数十メートルの範囲が砕け散った。
「うわぁ……」
元は地雷原だったのかと言われても否定できないほど、ボコボコになってしまった地面を探すが何も無い。
仕方ないので、何度か繰り返す。
三回ほど繰り返した時点で、地面の材質が変わった。
「これ、溶岩かな?」
先程までの土とは違い、手に取った黒い塊は、ザラザラとした石だ。
エルフィエンドの話だと、ここは死んだ火山との事だったので、活火山だった頃まで掘り進んだということだろう。
詳しい年代は分からないが、数百年前に起きた戦争よりも前の地表という事だ。
さらに何度も空間破壊をかけ、何キロ掘り進んだかも分からなくなった頃、やっとそれらしい何かを見つけた。
「あー、長かったー!
もう異空間倉庫土だらけになっちゃったよ……」
火山の底から見つかった何かには、冷えた溶岩がこびり付き、大きな岩のように見えるが、
「うそ、これ生きてるんだけど……」
とりあえず、こびりついた岩石を剥がそうと掴んで引っ張ってみるが、小さな欠片がポロッと砕けるだけだ。
非力な腕力ではどれだけかかるか分からない。
「ネジャロさんなら大丈夫かな?」
ベルテは魔力が吸われた結果、魔力欠乏に陥った。
それなら、元々魔力を持たないネジャロであれば、吸われることはないのではないか。
そう考え、ネジャロを呼びに、洞窟へと戻る。
「すごい音が響いてきたんだけど、一体何をしてたんだ!?」
洞窟に戻った瞬間、エルフィエンドに詰め寄られた。
洞窟の入口は雪で塞がれているため、外の様子を見ることは出来ない。
確かに、これでは不安にもなるか。
「地面を掘り進んでたんです。
そしたら、地下深くにそれっぽいのを見つけまして。
ただ、岩に埋まっちゃってるので、ネジャロさんを呼びに来たんです」
「ん、オレの出番か!」
「あ、でも!少しでも辛くなったら言ってくださいね。
魔力欠乏が起きるかもしれないので」
「おお、分かった!」
ネジャロを連れて、火山の底に戻るが、手は繋いだままだ。
「何ともないですか?」
「ああ、何ともないな」
どうやら予想は当たったようだ。
「で、あれをどうにかすればいいわけか」
「そうなんですけど、あれ、中で何かが生きてるんですよ。
異形種だということしか分からないので、十分に警戒してください」
ネジャロは、任せろ!と頼もしい笑顔を見せ、岩の塊を剥がしてゆく。
どこまで体があるのか分からないため、トワは下手に魔法が使えない。
そのため、ただ見ていることしか出来ない。
ネジャロの剛腕により、巨大な岩石はバリバリと剥がされてゆき、異形種の姿が見えてくる。
四本の足が見え、長いしっぽが見え。
片翼と大きな棘が生えた歪な背が見え。
ついに顔が見える。
その姿は、くすんだ白っぽい色をした、巨大な龍だった。
「何だァ、これは?」
その龍の状態は睡眠となっており、触っても、ちょっと殴ってみても反応がない。
「ネジャロさん、思いっきり顔を叩いてみてください」
「お、おう」
大きな顔に、平手打ちが炸裂する。
すると、さすがに痛かったのか、龍に動きがあった。
ゆっくりと、額の中央の大きな一つ目が開かれる。
「……いきなり何をする、小さき者よ」
その言葉は、いつもトワたちが話している言葉とは違うものだった。