3-18 さらば、アウロ・プラーラ! いざ、次の国へ!
「全員ジョッキ、グラスは持ったな!
では、今回の主役、〈永久の約束〉の二人に乾杯の音頭を取って貰おう!
トワ・アルヴロット、ネジャロ、壇上へ!」
「え!?ちょ、ちょっと……」
ジョッキを掲げ、ノリノリで壇上へと上がっていくネジャロに対し、トワはギルドの職員にグイグイと押されている。
「こんなことするって聞いてないんですけど……」
「ハハハ、今言いましたからね」
人前に立つことに慣れていないため、異空間倉庫から外套を取り出し、顔を隠すように被る。
「おいおいお嬢、せっかくの晴れ舞台だ。堂々としてりゃいいんだよ」
「あー!返して〜……」
無情にも、頭から被った外套は剥奪され、ネジャロの首に巻かれてしまった。
チラリと壇下の人々を見る。
――わー!めっちゃ見られてる!?
恥ずかしさに耐えられなくなり、サッとネジャロの後ろに隠れる。
「ダンジョンの中じゃ、誰よりも頼もしいのにな」
「まあ、上がってくれただけいいでしょう。
それに、見てくださいよ、集まった男たちの顔。完全に落ちましたね」
「あー……もうお嬢には相手いるぜ」
「おっと、そうだったんですか。これは失礼しました」
――丸聞こえだっつの!
ノゾミさんは咳払いをして、声を張り上げる。
「初めに、〈永久の約束〉の活躍をここに紹介させてもらう!
彼らが倒したボスは、現在二体!」
「マスター、先程もう一体追加されました。
第五のボス、クリスタライズゴーレムです」
「え?」
ギルド職員の報告を聞いた途端、ぐりんとこちらに向き直り、事情を聞かれた。
「え、えー。失礼した。
今回の宴準備のための数時間で、第五ダンジョンのボス、クリスタライズゴーレムまで倒されていた……。
よって、〈永久の約束〉が討伐したボスは三体!
第一ダンジョン、ゴブリンキング!
第三ダンジョン、新種、ブラキティラノ!
第五ダンジョン、クリスタライズゴーレムだ!」
「「うおぉーー!!!」」
「まだだ!
全員、気を失わずに聞いて欲しい。
彼らが、ここ、アウロ・プラーラで冒険者登録をしたのは……ほんの、一ヶ月前だ!」
この報告を聞いた何人かの冒険者が、膝から崩れ落ちるのが見えてしまった。
――哀れな……
「少し脅しすぎたな。
安心するがいい、冒険者諸君。
先程、あんなに可愛らしい姿を見せてくれたこの少女、トワ・アルヴロット嬢は、神話の魔法と呼ばれている、空間魔法と時間魔法が使える」
ノゾミさんは、適正魔法の紹介と共に、ネジャロの陰から引っ張りだそうとしてくる。
い゛〜や゛〜と、精一杯踏ん張っていたが、ネジャロに裏切られ、ひょいと抱えられてしまった。
恥ずかしさで熱くなった顔を手で覆い、嵐が過ぎ去るのを待つ。
「ほらどうだ、とても可愛いだろう!
だが残念だったな男性と、一部女性諸君。
彼女には、もう決まった相手がいるらしい」
トワが、ネジャロに持ち上げれた時は「おおーー!」だったのが、恋人がいる発言で「おおぅ……」となったのが聞こえる。
「やめてやめて!ほんと恥ずかしいから!」
「ハハハ、すまないね。
歳をとって、これ程興奮したのは久しぶりだったものでね」
ノゾミさんが謝ったことで、ネジャロによる宙ぶらりん状態は終わり、再び陰に隠れる。
「さて、次はネジャロ君の紹介だ!
もしかしたら、冒険者諸君にとって、こちらの方がダメージが大きいかもしれないな!」
見た目は、か弱い美少女よりも弱いとパンチを受け、さらにもう一撃、ボディーブローが待ち受けていると聞かされた冒険者たちの顔は、引きつっている。
「彼の特徴だが、魔力が無い!
そして、適正魔法も無い!
これだけ聞いたら、どこにでもいる普通の冒険者だ。
だが、彼は鍛えた!
二ヶ月間休みなく走り続け、自分の何倍も重い岩を持ち上げ、鍛えた!
その鍛え上げられた肉体で、数十年間、誰一人として持ち上げることすら出来なかった剣。
流星剣・シュヴァルツを、自らの刃とした!」
ネジャロは、シュヴァルツの話題が出たのと同時に、背負った剣を抜き、真っ黒な刃を高々と掲げて見せた。
さては、打ち合わせでもしてたな。
「彼は、鍛え続けることで、神話の魔法と並び立つ力を得た!
冒険者たちよ!強くなりたければ、弱い自分は捨てろ!
魔物に負けた時、言い訳をするのは止めろ!
それが出来ぬものは、いつまで経っても強くはなれん!」
ノゾミさんの迫力ある演説が終わり、辺りはシーンと静まり返っている。
中には、涙を流すものまでいた。
「さあ、乾杯の合図をどうぞ」
――えぇー!?この空気の中で乾杯すんの?
意味わかんないでしょ!
「ほら、お嬢」
ジョッキを突き出し、ぐっと顎で合図を送ってくる。
「え、えっと……か、かんぱーい!」
「「かんぱーい!!!」」
――あれぇ?さっきまでのお通夜みたいな雰囲気どこぉ?
トワとネジャロの合図で、宴会場に爆音が響いた。
「少し悪ふざけが過ぎましたね。
まあ、冒険者のノリだとでも思ってください。
そのうち慣れますから」
「はいぃ……」
この時、トワの中で、冒険者=パリピの式が出来上がっていた。
慣れないことから解放されたトワは、アランとベルテがいるところに戻ってきた。
「恥ずかしくて死ぬかと思いましたー……」
「可愛かったよ、トワ」
「はい。とっても!
ですが、お嬢様を困らせるのはいただけませんね。
帰ったらネジャロはきっちりシメてやります!」
壇上近くで人々に囲まれ、呑気に飲み食いしているネジャロは、どうやらやられるようだ。
南無ー。
「僕たちも食べよう。
それと、今日くらいはお酒を解禁しようかな!」
「また苦しみますよ」
ベルテにやられるネジャロはともかく、アランは自ら死地へと向かうらしい。
愚かな勇者だ……
「私たちも行きましょう、お嬢様。
それと、いくつかレシピも手に入れましたので、楽しみにしててくださいね」
宣言通り、しっかりレシピを入手、もとい、盗めたらしい。
ベルテの料理スキルを甘く見た調理人の落ち度だ。
さらに美味しく進化させてやる。
宴会は大いに盛り上がり、アランはお酒に溺れ顔を真っ赤にし、ネジャロは冒険者たちと取っ組み合いをして、敗者たちで山を築いている。
女子二人は多くの料理を少しづつ食べ、お気に入りを探している。
そんな時、ノゾミさんが声をかけてきた。
「次は、第二か第四、どちらを攻略されるのですか?」
「あー、その事なんですけど、近々別の国へ行こうと思ってまして」
「そうだったのですか……それは、残念ですね。
このペースなら、数年もすれば白月級まで届くでしょうに」
―― 一月でボス三体討伐なんだけど?
このハイペースで数年って、無理じゃん。
「ところで、どちらの国へ行かれるのですか?」
「手紙をくれた人に会いに、ヴァルメリア帝国へ行こうと思ってます」
「ヴァルメリア帝国ですか。
でしたら、軍関係者にはお気をつけください。
なにやら、最近は軍備を拡張しているとの噂が聞こえてくるので」
――騎士団がしつこく勧誘してくるのはそのせいかな。
「分かりました。できるだけ近寄らないようにします」
ノゾミさんとの会話後も、美味しいものを食べ探し続け、苦しいくらい満腹になったので、宴会は切り上げて、浴場へと向かった。
「ゔー、苦しい」
「私も、食べすぎました……」
食べ探しでダメージを負った二人だが、収穫はあった。
お互い、気に入ったものを見つけ、少し異空間倉庫に分けておいたのだ。
旅の間で材料や作り方などを研究したり、小腹がすいた時のおやつ代わりにもなる。
転んでもただでは起きないという訳だ。
お腹も満たされ、お風呂で一日の疲れを癒した二人は、宿へと帰るなり、すやすやと寝てしまった。
一方その頃、宴会場では。
酔いつぶれた冒険者たちが、突っ伏し、寝ていた。
床にはあれやこれやが散乱し、まさに地獄絵図。
アランとネジャロもその中にいた。
◇◆◇
その後、しばらく時間は空き、ついにアウロ・プラーラを発つ日となった。
異空間倉庫の中にしまっていた馬車&馬を出し、乗り込む。
お別れには、忙しいはずのノゾミさんや、第一から第五までの各ギルドのマスターたち。
それに、〈月光の導き〉の方たちや、多くの冒険者たちまで来てくれた。
戻ってこようと思えば、いつでも戻ってこれるのだが、花束やら何やら色々と贈られ、感極まってしまった。
ベルテが馬車を発進させ、アウロ・プラーラと別れを告げる。
こうして、長いようで短い、ダンジョン都市国家アウロ・プラーラでの生活は終わった。
次なる目的地は、ヴァルメリア帝国。
はっきり言ってどんな国か分からない!
少しの不安はあるが、それでも一行は馬車を進める。
第三章、完です!
数話ショートストーリーと、登場人物まとめを挟んで、四章へと突入します!(p`・ω・´q)