3-17 次の行先は……。ついでに、
いい感じのところで切れなくて、長くなってしまいましたm(_ _)m
無事、赤金級になったトワは、アランとベルテを宴会に誘うために宿へと戻っていた。
「ベルテさん、ちょっとここで待っててください。アランを呼んできます!」
「はい。了解、しました……どうしたのでしょうか?」
いきなり転移で現れて、すぐに消えてしまったので、ベルテは事態が飲み込めていない。
それは、商店街にいたアランも同様だ。
「アラン、一旦宿に帰りますよ!」
「え、うわっ!」
◇◆◇
「第三のボスはどうなったの?
というか、普通に転移使ってたけど……」
「それはバッチリ倒しましたよ。
力を隠さなかったのは、ほら!」
胸で赤く光るプレートを指さす。
「それって、赤金級のプレート!?
そっか、おめでとう!」
「流石です、お嬢様!信じておりました」
わいわい騒いでいる二人を止めて、倒したボスの魔石は、中央ギルドで展示されていることや、この後の中央ギルド主催の宴会のことを伝える。
「じゃあ、宴会ついでに魔石を見に行こうかな。ベルテはどうする?」
「ご主人様について行こうと思います」
というわけで、二人を宴会に誘うことはできた。
ただ、宴会の前に二人に相談しなければならないことがある。
「この二通の手紙、どちらも同じ国からのものなんですけど……」
ポケットに入れていた手紙を取り出し、テーブルの上に置く。
「一通は、ここに来る途中、退治した盗賊が持っていた剣とロケットの持ち主から。
もう一通は、今日、ボスと戦う前に気まぐれで助けた騎士団からです。
次に行く国はまだ決まってないと思ったので、一応候補にと」
「……トワは、この騎士団に入るつもりなのかい?」
手紙を読み終えたアランが顔を上げ、的はずれなことを聞いてくる。
いや、普通、こんな手紙を見たら誰でもそう思うのかもしれないけど……
「まさかまさか。そもそも一度、対面で断ってますし」
「なら、次の国はここでいいんじゃないかい?
別に、どこに行くって明確に決めてる訳でもないからね」
「私も構いません」
一応、全員の了承は得られたが……
「一つ、不安があるんですよね。
この国、獣人族を排斥しているらしくて、入国の時は異空間倉庫に入ってもらえばどうとでもなりますし、滞在中も、ロセウス子爵を頼れば、恩もあるので無下にされることは無いと思うんですが……」
アランの一行には、獣人族が二人いる。
ネジャロは赤金級で、上位貴族と同等の立場となったから問題ないだろうが、ベルテはどうなるか分からない。
完全ではないとはいえ、半分は獣人族だ。
なら別の国にするかと言われると、それも避けたいところ。
なにせ、アウロ・プラーラは大陸の北の端。
接している国は、件のヴァルメリア帝国と、既に滞在したことのあるグレイス王国しかない。
転移でグレイス王国まで戻って、別の国に行けばいいのか?
否、グレイス王国から一番近いのはここだ。かなり時間がかかる。
グレイス王国からアウロ・プラーラまで、二ヶ月もかかったことから、他の国へは半年近くの馬車旅になってしまう。
「私は、お嬢様と一緒にいられるのでしたら、どんなところであっても構いません!」
「ということだし、そもそも、赤金級二人に橙銀級一人だ。
ちょっかい出そうとする輩がいるとは思えないんだよね」
――まぁ、それもそうか。
「分かりました。ベルテさん、必ず護りますから安心してください」
「あ、ありがとうございます。ふふっ」
――なにかトラブルが起きそうなら、直ぐに逃げられるし、大丈夫かな。
そもそも、この世界で鬼ごっこをするのだとしたら、トワを捕まえられるものはいないだろう。
「じゃあ、次の行先も決まりましたし、宴会を楽しみましょうか!
ギルド主催ですからね!タダで飲み食いできますよ!」
ボス討伐で多額の報酬を得たというのに、なんとも貧乏臭いことである。
◇◆◇
「お、帰ってきたな、お嬢。
んで、次の行先はどこになったんだ?」
「ヴァルメリア帝国に決まりました」
「そうか。なら、オレもベルテのことは見といてやるから心配すんな!」
ネジャロにベルテのことは話していないのだが、何故かバレてしまった。
顔に出ていたのだろうか?
「宴会の準備がまだまだかかるらしいが、どうする?」
会場になるであろう大きなホールを覗くと、まだテーブルが並べられている最中だった。
「私は、断られなければ、厨房で料理の手伝いに行ってこようかと思います」
「んー、じゃあ僕は、会場の設営を手伝おうかな。トワもやるかい?」
会場の設営は、多くの冒険者が手伝っている。
これだけいるなら特に人手はいらないだろう。
料理も、ベルテが行くなら美味しいものが出てくるのは確定だ。となると……
「いえ、第五ダンジョンのボス討伐に行ってこようかと思います。
倒せるうちに倒しておかないと、次が生まれるまでの時間が無駄ですから」
第一のゴブリンキングと、第三のブラキティラノは倒し、クールタイム中。
第二のアンデッドと、第四の虫は生理的に無理。
なら、第五のゴーレムボスを倒す?壊す?しかないだろう!という訳だ。
「ええ!?今から行くの?」
「はい。ササッと行って、パパっと倒してきます。
宴会の時間までには帰って来れると思うので大丈夫です。
誰か、一緒に行きますか?」
「おっし、オレは行くぜ!」
参加者はネジャロだけのようだ。
善は急げと、連続目視転移で、第五ダンジョンへ向かう。
第五ダンジョンには行ったことがないので、この移動方法になってしまう。
ネジャロは、目的地に着いてから、転移で連れてくる予定だ。
街の屋根伝いに、目視転移を繰り返す。
一回の移動距離は、攻撃魔法の射程同様20メートル程しかない。
広大なアウロ・プラーラを移動するには、少々時間がかかる。
それでも、数分とかからずに第五ダンジョンの入口に到着した。
そのまま奥へと突き進み、行く手にいるゴーレムは破壊してゆく。
空間魔法への抵抗力は、第三の巨大魔物よりもかなり高い。
まあ、別に困るほど硬い訳でもないため、いいストレス発散になるなとか考えていた。
「よし到着!」
最下層直前まで辿り着いたトワは、ネジャロを呼ぶために一度、中央ギルドへと戻る。
「ネジャロさーん。行きますよー」
「うおっ!?早いな。
てか、いきなり後ろから声かけるのやめてくれ。すげーびっくりした」
驚いて毛を逆立てているネジャロを連れ去り、再び最下層へと戻ってきた。
「ここが第五ダンジョンか。
なんか、他のダンジョンと随分違うな」
そういえば、と壁に触れてみる。
他のダンジョンは岩壁が剥き出しだが、ここは金属で造られている。
完全に人工物に見えるが、この世界にそこまでの技術はないだろうから、なんとも不思議だ。
不思議と言ったら、ダンジョン産の魔物はどこから生まれてくるのかとか、なぜ、外の魔物には魔石がないのかとか色々あるが、ファンタジーすげ〜で片付けてしまっている。
「とにかく、宴会が始まる前に片付けちゃいましょう!」
本日二度目のボス戦だ。
「……クリスタライズゴーレム。すごい綺麗」
第五ダンジョンのボスは、全身が宝石のようにキラキラと輝く巨大な、いや、大きなゴーレムだった。
体の至る所から、宝石が棘のように飛び出し、見るものを威圧する、のだろう。
普通なら。
ただ、ちょっと前にブラキティラノと戦っていた二人には、威圧感など全く感じなかった。
「よし、まずはオレから!」
シュヴァルツを構え、突進する。
ゴーレムの懐まで潜り込んだネジャロは、膝に生えている棘目掛けて斬り上げ、すぐさま斬り下ろす。
一連の流れで棘はポッキリと折れ、床に転がった。
負けじと、ゴーレムはなかなか素早いパンチを繰り出す。
しかし、シュヴァルツで受け流され、衝撃で少し吹っ飛ばさせるも、空中で宙返りして綺麗に着地した。
「……なんか、弱くねぇか?」
「そうですね。とにかく硬いって言われてましたけど、案外簡単に折れましたね」
試しに、ネジャロに放った拳に空間破壊をかけると、少しの抵抗の後、拳は砕け散った。
舞い散る宝石が綺麗だ。
確かにそこらにいた雑魚ゴーレムよりかなり硬いものの、壊せないほどでは無い。
はっきり言って、拍子抜けもいいところだ。
硬いは硬いが、それを上回る火力があれば大して強くない。
なんか残念と、ネジャロと共に大きな体をどんどん砕いてゆき、一メートルほどの魔石を抜き取り、倒した。
ブラキティラノの時のように復活することも無く、床に散らばっている宝石も消える様子は無い。
「いいお金になりそうですね」
「そうだな。アズーラ工房に持ってけば、いいもの作ってくれんじゃねぇか?」
「ネジャロさん、天才!」
ダンジョンで出た素材はギルドに売ることも、自分で加工することもできる。
なら、アクセサリー職人に任せてもいいだろうということで、アズーラ夫妻にクリスタライズゴーレムの残骸を押し付けてきた。
例のごとく、転移でいきなり現れるのだが、グレイス王国の人達は、トワが色々ぶっ飛んだ性能をしていることは知らないので、とても驚かれた。
「全部渡してきました。
しばらくしたらいい物ができているでしょうから、楽しみですね!」
なんともあっさりと、第五ダンジョンのボス戦は終わってしまった。
◇◆◇
「ただいまでーす。
これ、第五のボス、クリスタライズゴーレムの魔石です。
鑑定お願いしまーす」
一日に高難易度ダンジョンのボスを二体も討伐して、案の定ギルド内は大騒ぎになったが、実際に戦った本人たちは、クリスタライズゴーレムを強敵とは思っていない。
だが、ネジャロが軽々と折った棘。
あれは、〈月光の導き〉のメンバーですら、かなり苦労するものだ。
本体なんぞ、まともに攻撃したら、剣の方が折れるというもの。
トワと一緒にいることで感覚がおかしくなっているが、ネジャロの力もまごうこの事なきぶっ壊れ。
それが、流星剣・シュヴァルツによって強化されているのだから、他と比べては可哀想である。
魔石の値段は、ブラキティラノのものには遠く及ばないが、それでも白金貨25枚にもなった。
残念ながら冒険者ランクは上がらなかったが、アウロ・プラーラで ( 生理的に無理なやつ以外 ) 全てのボスを倒したので、トワは満足だ。
超新星の如き活躍をした〈永久の約束〉は、アウロ・プラーラで伝説となり、後に各国に広がってゆく。
それが面倒な事態を引き起こすのだが、まだ知る由もない。
冒険者たちの、サインやら握手やら、魔法を見せて欲しいやら、色々なリクエストに答えていると、ノゾミさんが大声で呼びかける。
「準備は整った!
これより、〈永久の約束〉赤金級昇格祝いを開宴する!!!
今宵は、食って飲んで大騒ぎだ!」
「「うおぉーー!!!」」
今までで一番騒がしい夜が始まった。