3-15 巨獣ブラキティラノ?戦 後編
「うーん、どうしようかな?これ」
復活したばかりのブラキティラノは、トワによって細切れにされていた。
「無尽蔵に再生できるわけではなさそうだけど……」
ブラキティラノと戦い始め、かれこれ三時間程。
その間、ブラキティラノが再生を始めた瞬間、トワに破壊されるという工程が繰り返されていた。
なぜ、トワが無尽蔵に再生できるわけではないと考えたかだが、答えは魔石の色だ。
魔石とは、ダンジョン産の魔物の心臓兼、魔力タンクの役割を果たしている。
魔力タンクの役割があるからこそ、外の魔物と違って、魔法を安定して使えるのだ。
そして、ブラキティラノの魔石の色は、黒に近い紫。
この三時間で何度も再生を繰り返したことで、ほんの少しだけ、色が薄くなってきている。
「おー、やっぱりどんどん薄くなってきてるな!
これならそのうち再生できなくなるだろ」
「そうですねー。何日後か、何週間後か。はたまた何ヶ月とかかるかもしれませんけど……」
最早その場に座り込み、再生してくる肉片を片手間で消し飛ばしている。
「もうちょうどいい時間ですし、お昼にしましょう」
朝からダンジョンにこもり、ちょうどお腹が空く頃合である。
というわけで、ブラキティラノの魔石の目の前で昼食タイムだ。
異空間倉庫から暖かなお弁当を二つ取り出し、一つをネジャロに渡す。
このお弁当は、昨夜ベルテが作ってくれたものだ。
「お、美味しい!ベルテさんまた腕を上げましたね」
「ああ、店の味にも負けない、というか、オレはこっちの方が好きだな」
いつぞやの出店で食べたものや、宴会で食べたものまで、レシピを知らないものもあるだろうに、しっかり美味しくできている。
二人は美味しいお弁当を瞬く間に平らげ、再び魔石の対処を考える。
一応、手は無くなはい。
魔石を抜き取り、異空間倉庫に放り込んだ時、再生は起こらなかった。
つまり、時間を止めてしまえば良いということだ。
ただ、それは最終手段だ。
魔石は、魔力タンクの性質から、電池のような使い方をされる。
魔法具に装着され、魔力を吸われて初めて価値あるものとなる。
時間を止めてしまえば、ただの綺麗な石に過ぎない。
ブラキティラノの魔石は、十メートルほどあり、馬鹿げた魔力貯蔵量だ。
これを活用できるなら、きっと素晴らしいものができるだろう。
しかし現実は、魔力が少しでも残っていれば、あの巨体の再生に使われてしまう。
八方塞がりである。
「うん、これは無理ですね。
時間を止めて、後はギルドの方に任せてみましょう」
「うっし、なら帰るか」
ネジャロはシュヴァルツを背負い、魔石を担ごうとするが、それを止め、異空間倉庫にしまう。
「力は隠しておくんじゃなかったのか?」
「はい。でも今回の功績で赤金級は確実でしょうから、もう隠しておく必要も無いかなと」
というわけで、第三ギルドへと転移だ。
◇◆◇
「これは、〈月光の導き〉の皆様!お帰りなさいませ。
成果はどうでしたか?」
ブラキティラノのことを報告しに戻ってきた四人は、受付嬢の言葉でざわざわとしている広場を進む。
〈月光の導き〉はアウロ・プラーラ、トップのパーティ。
握手をねだられたり、サインをねだられたり、冒険者の間ではアイドルのような存在だ。
「悪いな、通してくれ。ああすまん、また後でな。
……ふー、カウンターに来るだけで一苦労だ」
「ふふ、人気者は辛いですか?」
「期待されている証拠だろうな。そう考えたら辛くなどない。
まあそれは置いといて、第三のボスの情報だ」
情報、という言葉を聞き、受付嬢は一枚の紙を取り出す。
さっきまでの、のほほんとしていた空気は無くなり、重く変わる。
「初めに、今回の結果は失敗だ」
「え、失敗ですか……」
トップが勝てなかったのだ、驚くのも無理は無い。
「ああ、まずは容姿だが、このギルドよりも遥かに大きく、四本足で、首が長い。
そして顔には、肉食動物のような牙が並んでいた」
この世界には、恐竜というものの知識は無い。
もしあれば、トワと同じように、ブラキオサウルスとティラノサウルスのキメラみたいだと言っただろう。
「このギルドよりも大きいって、さすが第三ダンジョンですね」
「次に戦法だが、とにかく単純だった。
攻撃魔法は一切使ってこず、その巨体で叩き潰そうとしてくるだけだ。
動きも、そこまで早くはなかったな」
あの巨体で動きも速かったら、〈月光の導き〉は全滅していただろう。
「最後に、俺たちが勝てなかった理由だが、どんなに攻撃しても、魔石に傷をつけようとも、すぐに再生された。
恐らく、この国の冒険者総出で攻撃しても勝てないだろう」
「めっちゃくちゃ硬いってことを伝え忘れてるっすよ、リーダー」
「ああ、そうだったな」
「そこまで、桁違いなんですね」
受付嬢は伝えられた情報をまとめ、最後に指定難易度、上限突破と書き記し、紙を職員に持たせる。
「これを中央ギルドへお願いします」
受付嬢から紙を受け取った職員は、短く返事をすると、第三ギルドを出て行った。
「それでは、〈月光の導き〉の皆様、お疲れ様でした。
討伐できなかったことは残念ですが、情報を持ち帰ってくださったこと、感謝します。
ごゆっくりお休み下さい」
受付嬢は綺麗な礼をして、通常の業務へと戻ろうとするが、大きな杖を持った女性に止められた。
「まだ、なにかございましたか?」
「ええ。リーダー、可愛いお嬢ちゃんからの伝言を伝え忘れてるわよ」
「おっと、すっかり忘れてたな。
俺たちでも無理なんだから、あれを倒せるのは赤金級以上の実力者だけ、とのことだ。俺もそれには同意だ。
それと、二人組の橙銀級のパーティだったな。
様子見だけにしとけって伝えたから、無事だとは思うが、一応な」
「えぇ!?別のパーティが挑んだのですか?
無茶ですよ!〈月光の導き〉が四人で勝てなかったのに、二人でなんて。
それで、そのパーティーメンバーの容姿はどんな感じでしたか?」
受付嬢は、第三・捜索願いと書かれた紙を一枚取り、ペンを持つ。
「真っ白で凄い美人な人族の女の子と、俺よりもかなり大きい、黄黒の縞模様の虎人族だったな。
女の子の方は丸腰で、虎人の方は真っ黒なでかい剣を持ってた」
その報告を聞いた受付嬢は目を見開く。
「そのパーティーの女の子、昨日橙銀級に上がったばかりなんですけど!
あぁーもう、無茶しちゃって!
名前はトワ・アルヴロット。パーティ名は〈永久の約束〉。
えっと、虎人族の方は……」
「私がどうかしました?」
つい最近、聞いたことのある声が聞こえ、受付嬢の手が止まった。
顔を上げると、一度見たら忘れられないほど美しい、純白紅瞳の女の子と、威圧感漂う虎人族の男性がいた。