3-13 勘違い
「おめでとうございます!お嬢様!」
「おめでとう。ひとまず目標の橙銀級だね」
「ありがとうございます。二人とも」
第三ダンジョンでの乱獲の末、見事橙銀級に上がり、宿へと帰ってきていた。
「それで、家名とパーティ名はどうしたんだい?」
家名はアルヴロット。パーティ名は〈永久の約束〉に決まったと伝える。
ちなみに、アランの家名は、ウィルディスだそうだ。
「ベルテ・アルヴロットかー……いいですね」
「トワ・ウィルディス……それか、アラン・アルヴロットか。うん、悪くないね」
ベルテとアランが家名で遊んでいるが、それがトワの耳に届くことはなかった。
そして、昇格祝いの宴会である。
前回同様、食堂の一角を貸し切り、盛大に飲み食いする。
ネジャロに流星剣・シュヴァルツを譲ってくれた、鍛冶屋のおじちゃんも参加している。
「早速、第三ダンジョンの巨大魔物共を大量に仕留めたらしいじゃね〜か〜!
お前に剣を託して正解だったぜ〜!」
おじちゃんは、鍛冶屋にいた時は無口で、渋い感じを出していたのに、酒を飲んだらとても饒舌になってしまった。
顔を真っ赤にしながらネジャロに絡んでいる。
「おい、おっさん。あんまり飲みすぎると、明日死ぬぜ!」
前回の宴会で学んだのか、アランもネジャロも、お酒の量をセーブしている。
よって、せいぜいほろ酔い程度と言ったところだろうか。
ベルテは、前回あんな目にあったのに……と呆れ顔だが、きちんとセーブできるなら大丈夫だろう。
そんなベルテだが、
「はい、お嬢様。お口を開けてください。」
トワに料理を食べさせては、自分もそのスプーンで食べていた。
――やっぱりベルテの距離感が近い。
「あの、ベルテさん?随分距離が近いように思」
「普通ですよ。いつも通りです」
「いや、でも」
「それに、たくさん戦ってきてお疲れでしょう?
お嬢様のお口にスプーンを運ぶことくらいさせてください!」
「いや、そんなに疲れてはないんですけど」
「本当なら、常にお嬢様のそばにいたいんです。
ですが、ダンジョンにまでついて行っては、足手まといになってしまいます。
ですから、せめてこれくらいのことはさせてください!」
と、こんな感じでやけに押しが強い。
結局、何を言っても言いくるめられ、口を開けて待機させられてしまった。
そんな感じで、運ばれてくる料理が次第に消えてゆき、鍛冶屋のおじちゃんがダウンしたことでお開きとなった。
宴会は誰かがダウンしたら終わり、という流れが出来つつあるのかもしれない。
転移で鍛冶屋まで送り届け、一行は浴場へと向かった。
今日はまだ日をまたいでおらず、浴場には、そこそこの客が来ている。
「さあお嬢様。お体洗いますね」
ここでもベルテの距離が近いが、何を言っても折れないだろうと思い、体を委ねた。
お返しにベルテの体を洗ってやり、二人で浴槽に浸かりにゆく。
「気持ちいいですねー」
「そうですねー……」
やっぱりお風呂は最高だと、気持ちよくだらけていると、
「おいおい、醜い混血種じゃないか。お湯が汚れるから浴槽につけないでくれよ」
ガラの悪い客が、ご丁寧に絡んできた。
「嫌なら離れていればいいでしょう。
なのに、わざわざ近寄ってきて文句言うとか、なんなんですか?お猿さん以下なんですか?」
せっかく気持ちよくなっているのにと、面倒くさそうに口撃だけした。
「はあ?お前さぁ。ちょっと顔がいいからって調子乗ってんじゃねぇぞ?
ここは実力社会なんだ。あたしに逆らおうってんなら容」
「はいはい、雑魚は黙っててくださいね」
ベルテが今にも殴りかかりそうになっていたので、時間を止めて適当に押し流す。
「もう大丈夫ですよ、ベルテさん。
あのチンピラは数時間動けなくしてやりました。
それに、ベルテさんはとってもきれいですよ。あっちのチンピラの方がよっぽど醜いです」
「いえ、そんな。きれいだなんて。
でも、ほんとに不愉快な人でしたね。
お嬢様はちょっと顔がいいなんてレベルじゃないんですから!」
――あ、怒るのそこなんだ……
邪魔なチンピラを排除し、のぼせるギリギリまで湯に浸かってから、部屋へと戻った。
「さぁお嬢様。一緒に寝ましょう」
毛布をめくり、私の横のスペースにどうぞと言わんばかりに、ベットをポンポンと叩いている。
もうベルテの押しの強さは諦めた。
大人しくベルテと同じベットで横になる。
「お嬢様。いつも私を助けていただいて、本当にありがとうございます」
「もしかして、だから今日はそんなに……そんなこと、気にしなくていいんですよ」
「いえ、それだけでは……あの、お嬢様」
「なんですか?」
「その。お慕いしております」
「嬉しいです。ありがとうございます」
前半までは、良い主従の会話だった。
問題は後半だ。
ベルテは、恋心で慕っていると言ったのだが、トワはそれを、感謝とか、尊敬の類いとして受け取り、嬉しいと言った。
そしてそれは、さらなる勘違いを生む!
「え!?本当にいいのですか?」
「? いいも何も、ベルテさんには一生をかけて償う、幸せにするって誓いましたから。
そんな相手に慕っていると言われるのは、とっても嬉しいです」
「お嬢様!」
「よしよし」
噛み合っていない会話を補完するなら、こうなる。
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「え!? ( ご主人様とお付き合いしているのに )本当にいいのですか?」
「? いいも何も、( 蘇らせた時に、魂を穢してしまったので、 ) 一生をかけて償う、幸せにすると誓いましたから。
そんな相手に ( 尊敬の方の ) 慕っていると言われるのは、とっても嬉しいです」
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それはもう綺麗に食い違っている。
ベルテは、叶わない恋だったはずの、トワと付き合うことが出来たと喜ぶ。
トワは、自分のわがままで魂に深刻な傷をつけてしまった相手に、尊敬していると言われ喜ぶ。
一体、これからどうなるのやら。
二人は同じベットの中で、抱き合うようにして眠りについた。
「ちゅっ……おはようございます、お嬢様」
「おはよう、ベルテさん」
ベルテは、トワの額にキスをした。
しかし、昨日の行動や会話から、それくらいのことは特に気にならなくなっていた。
服を着替え、まだ起きてこない男子組を待たずに朝食を摂る。
「今日は、第三ダンジョンのボスを見てこようかなと思うんです。
倒せそうなら、そのまま倒してきちゃいますけど」
「第三ダンジョンのボスってことは、アウロ・プラーラで一番強い敵ってことになりますよね?」
「第五ダンジョンのゴーレムボスとどっちが強いか分かりませんけど、間違いなくトップクラスですね」
「何度も言いますけど、お気をつけください。
お嬢様がとても強いのは理解しておりますが、油断だけはなさらないでくださいね」
心配性なベルテの頭を撫で、朝食を食べ終える。
――ネジャロが起きてきたら、第三のボスとご対面と行きましょうか!
とっても百合百合してきましたね。
いつ食い違っていると気づくのでしょうかヽ('ㅅ' ;ヽ三 ノ; 'ㅅ')ノ