3-12 ダンジョン貴族。永久の約束
前半は、別の国の騎士団の隊長視点です。
我らヴァルメリア帝国の精鋭、人魔混成騎士団。
ロッゾ皇帝陛下の命を受け、アウロ・プラーラの最難関ダンジョンへと挑戦している。
「さあ、全員気を引き締めろ!
目標、前方トロル。散開!」
強力な魔物と戦うための円陣。
これは、背後から効率的にダメージを与えると共に、ヘイトを取る者への負担を、極力まで減らしたやり方だ。
本当なら、正面から正々堂々一騎打ちをしたいところだが、こんな化け物相手に一騎打ちなんてしたら確実に死ぬ。
「くぅッ……」
やはり強い。
こちらはまともに食らえば、一撃で殺られる。
それなのに、相手は何度切っても、魔法を打ち込もうと平然と立ち上がってくる。
そもそも、外皮が硬すぎなんだ!
帝国の剣はさすがと言うべきか、致命的な刃こぼれは無い。
だが、それもいつまで持つか分からない。
早めに決着を付けたいところだが……
「セイッ!」
浅い傷を作っただけか……
次は私の対面にいる隊員が攻撃を加える番か。
いや、体勢を大きく崩している。
今なら目を狙えるッ!
「はぁァ!」
グチャっという感覚が剣から伝わってくる。
このまま押し込むッ!
剣を根元まで深く差し込む。
すると、何度も立ち上がってきたトロルがついに倒れた。
「隊長!ついに倒せましたね!
我々の力は最難関ダンジョンでも通用しますよ!」
「ああ、そうだな。だが、気を緩めるな!怪我人は早急に治療を済ませろ。
たかが一体倒しただけでは、祖国へは帰れんぞ!」
怪我人は三人か。
あのトロルと戦って、これだけの被害ならば及第点だろう。
「隊長!怪我人の治療、終わりました!」
「よし、武器は問題ないか?
なければこのまま奥へと進む」
「全員問題ありません!」
「よし!ならば次の魔物を探す。
我らヴァルメリア帝国の力を見せてやろうぞ!」
人魔混成騎士団は、トロルの魔石を回収し、隊列を組んで奥へと進んでゆく。
「次の広間が見えてきたぞ!
全員、戦闘態勢に入れ!」
剣を抜き、いつでも飛び出せるように慎重に歩を進めてゆく。
「蛇の体!目標はライオネルスネーク!
散開!」
広間に入り、全員が目標を取り囲もうとした。
「――水?」
隊長含め、全員がライオネルスネークに気を取られていて気が付かなかったが、その広間にはもう一体、ジャイアントシューヴァがいる。
「隊長!上、上です!」
「何!?もう一体いたのか!全員退避ー!」
組かけていた円陣を解き、一斉に元いた通路へと逃げ込む。
しかし、後方から、ジャイアントシューヴァの水撃を受け、半数が吹っ飛ばされる。
「ぐおォ!」
まずい、通路が。
クソッ。他の隊員はどうなった?
私のところに二人。あとの五人は逃げられたのか?
「うわぁぁぁ!」
なッ!?よりによってライオネルスネークの目の前に!
考えるより先に、剣を持って走り出していた。
冷静に考えれば、たった一人で勝てるわけが無い。
それでも隊員を見捨てることはできなかったのだ。
「クソッ。間に合ってくれ!」
◇◆◇
騎士たちが交戦する近くの通路に転移したトワとネジャロは、どちらが早く倒せるか競争していた。
「お嬢、先に行かせてもらうぜ!」
「あ!ずるい!」
とは言っても、トワの攻撃魔法の射程は約20メートル。
視界に入れただけで、次の瞬間には絶命しているのだ。
いくら足の速いネジャロがフライングしようとも、ずるいのはトワの方だろう。
「オラァ!」
新しく手にした流星剣・シュヴァルツだが、もうしっかり使いこなしているようだ。
「どうだお嬢!こっちはもう終わったぜって、そっちも終わってるか……」
残念そうなネジャロの視界には、既に頭と胴体がおさらばしてしまった、ジャイアントシューヴァが映っている。
トワは、走りながら風の刃のダミー詠唱をして、射程に入った瞬間、首を切り裂いていた。
僅差だったが、射程の長さのおかげでトワの勝利である。
「まだまだですね、ネジャロさん。
もっと速く走らなければ、私には勝てませんよ!」
ギリギリだったくせに随分偉そうである。
それでも、効果てきめんだったようで、ネジャロは悔しそうに、もっとトレーニング!と叫んでいる。
「なんなんだ……?あんたたちは」
――あ、競争に夢中になって忘れてた。
そういえば、騎士たちを助けに来たんだったっけね。
「ただの通りすがりの冒険者パーティですよ。それじゃあ、私たちはこれでー」
騎士たちの前で異空間倉庫を使う訳には行かないので、ネジャロに倒した魔物を持ってもらい、退散しようとするが、
「待ってくれ!まずは私たちを助けてくれたこと、感謝する。
そして、君の強さを見込んで、是非ヴァルメリア帝国の騎士団に入隊してくれないか?
皇帝陛下へ、私自ら推薦しよう!」
と、言葉を並べてくるが、その視線の先にネジャロがいないように思える。
「あの、あなたたちを助けたのは私だけではありませんが」
「ああ、悪いが、我が国は獣人族を排斥しているからな。
あの虎人族を招くことはない」
――くっだらな。人族ってなんでこんなに差別大好きなんだか……
「申し訳ありませんが、あなたたちの国に興味はありません。
行きましょう。ネジャロさん」
「ま、待ってくれ!一度、私たちの国に来」
「お嬢は興味ねぇつったんだ。これ以上怒らせんな」
隊長らしき人の言葉を遮るネジャロは、警告するような口ぶりで伝える。
それもそのはず、メラン侯爵にアランが傷つけられたとき、激昂し、腕を切り飛ばす瞬間を見ているのだから。
そして、ベルテが差別を受けていることでも憤りを感じ、近寄る悪意から守ろうとしているのも知っている。
ネジャロは頭は良くないが、決して馬鹿では無い。
これまでのトワの行動から、仲間を傷つけられたり、侮辱されることを良しとしない性格なのは分かっている。
だから警告してあげたのだ。
だが、途中で遮られた隊長らしき人は、警告に気が付かなかったようで、
「どけ、虎人族風情が!我々の邪魔をするな!」
行く手を遮るネジャロを突き飛ばそうとする。
まあもちろん、そんなもの効くわけが無いのだが。
「もう一度言うぞ。これ以上、お嬢を、怒らせるな」
最後に思いっきり威嚇し、倒した魔物を引きずってトワの後を追った。
◇◆◇
「いやー、ほんと人族は困ったヤツらが多いですよね。ネジャロさんは大丈夫でしたか?」
「ああ、自分より弱いやつが何言ってようと、弱い犬ほどなんとやら、だ!」
トワが切れなかったことに一安心したネジャロは、引きずってきた魔物をトワに渡した。
「今日だけでも、結構な数倒しましたよねー」
多くの魔物がシュヴァルツに一刀両断されている。
当の本人はただの試し斬りのつもりらしいが、切られる側からしたら堪ったもんじゃない。
その後は、途中で出会った魔物を切り裂きながら、ダンジョンの入口まで歩いて戻った。
狩った魔物は23体。
うち、17体がシュヴァルツの錆となった。
それをギルドに持ち込んだ時には大騒ぎ。
一体一体が第一ダンジョンのボスクラスなのだから、当然と言えば当然か。
メラン侯爵の騒ぎがあったので、パーティ勧誘されたりはしなかったが、広場にいた冒険者たちが、ヒソヒソしているのは聞こえていた。
魔石と素材の売却でお金はたんまり。
トワの冒険者ランクも、橙銀級へと上がった。
しかし、ネジャロの冒険者ランクはまだ上がらない。
次の赤金級ともなれば、上級貴族レベルの扱いだ。
そんなにポンポン上げられないのは分かるが、必要貢献度多すぎではなかろうか?
「あの、赤金級以上の方っているんですか?」
「はい。一つのパーティーだけですが、〈月光の導き〉というパーティが赤金級です」
「白月級はいないんですか?」
「はい。冒険者ギルドが創設されて以来、誰一人白月級まで上り詰めた方はいません」
――まじか。そんなに厳しいの……
「さて、橙銀級となりましたので、パーティ名を登録できますが、どうされますか?」
「あー、んー…………〈永久の約束〉!」
「〈永久の約束〉ですね。確認致しました。
次に、家名はどうされますか?」
――そっか、家名かー……
私の見た目から取って、アルビノとか?
トワ・アルビノ……いや、なんか違うな。
アルビノ、アル……アルヴ。アルヴロット……
トワ・アルヴロット、か。いいな。
「アルヴロットでお願いします」
「かしこまりました。重複は……問題ありません。
それでは、トワ・アルヴロット様。
並びに、パーティ名〈永久の約束〉、登録致しました。
おめでとうございます」
こうして、トワ・アルヴロットはダンジョン貴族となり、ネジャロと共に、〈永久の約束〉の活躍の幕が上がったのである。