表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/101

3-12 ダンジョン貴族。永久の約束

前半は、別の国の騎士団の隊長視点です。

 

 

 我らヴァルメリア帝国の精鋭、人魔混成騎士団。

 

 ロッゾ皇帝陛下の命を受け、アウロ・プラーラの最難関ダンジョンへと挑戦している。

 

 

「さあ、全員気を引き締めろ!

 目標、前方トロル。散開!」

 

 

 強力な魔物と戦うための円陣。

 

 これは、背後から効率的にダメージを与えると共に、ヘイトを取る者への負担を、極力まで減らしたやり方だ。

 

 

 本当なら、正面から正々堂々一騎打ちをしたいところだが、こんな化け物相手に一騎打ちなんてしたら確実に死ぬ。

 

 

「くぅッ……」

 

 

 やはり強い。

 

 こちらはまともに食らえば、一撃で殺られる。

 

 それなのに、相手は何度切っても、魔法を打ち込もうと平然と立ち上がってくる。

 

 

 そもそも、外皮が硬すぎなんだ!

 

 帝国の剣はさすがと言うべきか、致命的な刃こぼれは無い。

 

 

 だが、それもいつまで持つか分からない。

 

 早めに決着を付けたいところだが……

 

 

「セイッ!」

 

 

 浅い傷を作っただけか……

 

 次は私の対面にいる隊員が攻撃を加える番か。

 

 

 いや、体勢を大きく崩している。

 

 今なら目を狙えるッ!

 

 

「はぁァ!」

 

 

 グチャっという感覚が剣から伝わってくる。

 

 

 このまま押し込むッ!

 

 

 剣を根元まで深く差し込む。

 

 すると、何度も立ち上がってきたトロルがついに倒れた。

 

 

「隊長!ついに倒せましたね!

 我々の力は最難関ダンジョンでも通用しますよ!」

 

「ああ、そうだな。だが、気を緩めるな!怪我人は早急に治療を済ませろ。

 たかが一体倒しただけでは、祖国へは帰れんぞ!」

 

 

 怪我人は三人か。

 

 あのトロルと戦って、これだけの被害ならば及第点だろう。

 

 

「隊長!怪我人の治療、終わりました!」

 

「よし、武器は問題ないか?

 なければこのまま奥へと進む」

 

「全員問題ありません!」

 

「よし!ならば次の魔物を探す。

 我らヴァルメリア帝国の力を見せてやろうぞ!」

 

 

 人魔混成騎士団は、トロルの魔石を回収し、隊列を組んで奥へと進んでゆく。

 

 

「次の広間が見えてきたぞ!

 全員、戦闘態勢に入れ!」

 

 

 剣を抜き、いつでも飛び出せるように慎重に歩を進めてゆく。

 

 

「蛇の体!目標はライオネルスネーク!

 散開!」

 

 

 広間に入り、全員が目標を取り囲もうとした。

 

 

「――水?」

 

 

 隊長含め、全員がライオネルスネークに気を取られていて気が付かなかったが、その広間にはもう一体、ジャイアントシューヴァがいる。

 

 

「隊長!上、上です!」

 

「何!?もう一体いたのか!全員退避ー!」

 

 

 組かけていた円陣を解き、一斉に元いた通路へと逃げ込む。

 

 しかし、後方から、ジャイアントシューヴァの水撃を受け、半数が吹っ飛ばされる。

 

 

「ぐおォ!」

 

 

 まずい、通路が。

 

 クソッ。他の隊員はどうなった?

 

 私のところに二人。あとの五人は逃げられたのか?

 

 

「うわぁぁぁ!」

 

 

 なッ!?よりによってライオネルスネークの目の前に!

 

 

 考えるより先に、剣を持って走り出していた。

 

 冷静に考えれば、たった一人で勝てるわけが無い。

 

 それでも隊員を見捨てることはできなかったのだ。

 

 

「クソッ。間に合ってくれ!」

 

 

 

 ◇◆◇

 

 騎士たちが交戦する近くの通路に転移(テレポート)したトワとネジャロは、どちらが早く倒せるか競争していた。

 

 

「お嬢、先に行かせてもらうぜ!」

 

「あ!ずるい!」

 

 

 とは言っても、トワの攻撃魔法の射程は約20メートル。

 

 視界に入れただけで、次の瞬間には絶命しているのだ。

 

 いくら足の速いネジャロがフライングしようとも、ずるいのはトワの方だろう。

 

 

「オラァ!」

 

 

 新しく手にした流星剣・シュヴァルツだが、もうしっかり使いこなしているようだ。

 

 

「どうだお嬢!こっちはもう終わったぜって、そっちも終わってるか……」

 

 

 残念そうなネジャロの視界には、既に頭と胴体がおさらばしてしまった、ジャイアントシューヴァが映っている。

 

 

 トワは、走りながら風の刃(ウィンドカッター)のダミー詠唱をして、射程に入った瞬間、首を切り裂いていた。

 

 僅差だったが、射程の長さのおかげでトワの勝利である。

 

 

「まだまだですね、ネジャロさん。

 もっと速く走らなければ、私には勝てませんよ!」

 

 

 ギリギリだったくせに随分偉そうである。

 

 それでも、効果てきめんだったようで、ネジャロは悔しそうに、もっとトレーニング!と叫んでいる。

 

 

「なんなんだ……?あんたたちは」

 

 

 ――あ、競争に夢中になって忘れてた。

 

 そういえば、騎士たちを助けに来たんだったっけね。

 

 

「ただの通りすがりの冒険者パーティですよ。それじゃあ、私たちはこれでー」

 

 

 騎士たちの前で異空間倉庫(アイテムボックス)を使う訳には行かないので、ネジャロに倒した魔物を持ってもらい、退散しようとするが、

 

 

「待ってくれ!まずは私たちを助けてくれたこと、感謝する。

 そして、君の強さを見込んで、是非ヴァルメリア帝国の騎士団に入隊してくれないか?

 皇帝陛下へ、私自ら推薦しよう!」

 

 

 と、言葉を並べてくるが、その視線の先にネジャロがいないように思える。

 

 

「あの、あなたたちを助けたのは私だけではありませんが」

 

「ああ、悪いが、我が国は獣人族を排斥しているからな。

 あの虎人族を招くことはない」

 

 

 ――くっだらな。人族ってなんでこんなに差別大好きなんだか……

 

 

「申し訳ありませんが、あなたたちの国に興味はありません。

 行きましょう。ネジャロさん」

 

「ま、待ってくれ!一度、私たちの国に来」

 

「お嬢は興味ねぇつったんだ。これ以上怒らせんな」

 

 

 隊長らしき人の言葉を遮るネジャロは、警告するような口ぶりで伝える。

 

 

 それもそのはず、メラン侯爵にアランが傷つけられたとき、激昂し、腕を切り飛ばす瞬間を見ているのだから。

 

 そして、ベルテが差別を受けていることでも憤りを感じ、近寄る悪意から守ろうとしているのも知っている。

 

 

 ネジャロは頭は良くないが、決して馬鹿では無い。

 

 これまでのトワの行動から、仲間を傷つけられたり、侮辱されることを良しとしない性格なのは分かっている。

 

 

 だから警告してあげたのだ。

 

 だが、途中で遮られた隊長らしき人は、警告に気が付かなかったようで、

 

 

「どけ、虎人族風情が!我々の邪魔をするな!」

 

 

 行く手を遮るネジャロを突き飛ばそうとする。

 

 まあもちろん、そんなもの効くわけが無いのだが。

 

 

「もう一度言うぞ。これ以上、お嬢を、怒らせるな」

 

 

 最後に思いっきり威嚇し、倒した魔物を引きずってトワの後を追った。

 

 

 

 ◇◆◇

 

「いやー、ほんと人族は困ったヤツらが多いですよね。ネジャロさんは大丈夫でしたか?」

 

「ああ、自分より弱いやつが何言ってようと、弱い犬ほどなんとやら、だ!」

 

 

 トワが切れなかったことに一安心したネジャロは、引きずってきた魔物をトワに渡した。

 

 

「今日だけでも、結構な数倒しましたよねー」

 

 

 多くの魔物がシュヴァルツに一刀両断されている。

 

 当の本人はただの試し斬りのつもりらしいが、切られる側からしたら堪ったもんじゃない。

 

 

 その後は、途中で出会った魔物を切り裂きながら、ダンジョンの入口まで歩いて戻った。

 

 

 狩った魔物は23体。

 

 うち、17体がシュヴァルツの錆となった。

 

 

 それをギルドに持ち込んだ時には大騒ぎ。

 

 一体一体が第一ダンジョンのボスクラスなのだから、当然と言えば当然か。

 

 

 メラン侯爵の騒ぎがあったので、パーティ勧誘されたりはしなかったが、広場にいた冒険者たちが、ヒソヒソしているのは聞こえていた。

 

 

 魔石と素材の売却でお金はたんまり。

 

 トワの冒険者ランクも、橙銀級へと上がった。

 

 しかし、ネジャロの冒険者ランクはまだ上がらない。

 

 

 次の赤金級ともなれば、上級貴族レベルの扱いだ。

 

 そんなにポンポン上げられないのは分かるが、必要貢献度多すぎではなかろうか?

 

 

「あの、赤金級以上の方っているんですか?」

 

「はい。一つのパーティーだけですが、〈月光の導き〉というパーティが赤金級です」

 

「白月級はいないんですか?」

 

「はい。冒険者ギルドが創設されて以来、誰一人白月級まで上り詰めた方はいません」

 

 

 ――まじか。そんなに厳しいの……

 

 

「さて、橙銀級となりましたので、パーティ名を登録できますが、どうされますか?」

 

「あー、んー…………〈永久の約束〉!」

 

「〈永久の約束〉ですね。確認致しました。

 次に、家名はどうされますか?」

 

 

 ――そっか、家名かー……

 

 私の見た目から取って、アルビノとか?

 

 トワ・アルビノ……いや、なんか違うな。

 

 アルビノ、アル……アルヴ。アルヴロット……

 

 トワ・アルヴロット、か。いいな。

 

 

「アルヴロットでお願いします」

 

「かしこまりました。重複は……問題ありません。

 それでは、トワ・アルヴロット様。

 並びに、パーティ名〈永久の約束〉、登録致しました。

 おめでとうございます」

 

 

 こうして、トワ・アルヴロットはダンジョン貴族となり、ネジャロと共に、〈永久の約束〉の活躍の幕が上がったのである。

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ