3-7 覚醒させた対価を払ってもらいましょうか。
グロ⚠注意⚠です!
(ノ°ο°)ノ
第一ダンジョンのボスを討伐し、ご馳走を楽しみに宿に戻ってきたトワの気分は最悪だった。
何度探しても、アウロ・プラーラにも、氷龍の住まう山にも、ありえない事だが、グレイス王国にもいない。
どこにも、三人の仲間の、生物としてのベルテが存在しなかった。
恐怖でカチカチなる歯を食いしばり、生物では無いベルテを探す。
いた。いや、あった。
ベルテの骸は、汚らしい、一通りもほとんどないような場所に、無惨に晒されていた。
身体中に深い切り傷が付けられ、手足はおかしな方向に曲がり、綺麗だった顔は、判別がつかないほどぐちゃぐちゃに切り刻まれていた。
「……ベルテさん」
震える足のまま近寄り抱きしめる。
「なんっで、こんな、酷いこと。
ベルテさんが、何を……」
溢れた涙が止まらなかった。
「あなたは、どうしたい?
こんなに酷いことをされて、それでも生きたい?」
骸となったベルテは、なにも答えない。
「私は、どうしたら……」
時間を巻き戻せば、たとえ死んでいようとも、肉の一片、髪の毛一本あれば元に戻せる。
しかし、受けた痛みや苦しみは、記憶として残り続ける。
さらに、死体になるという、普通なら一度しか経験しない、最悪な記憶までも蘇らせてしまう。
トワにはそれが分かっていた。
だからグレイス王国で、アテル伯爵に殺された女性たちを蘇らせなかった。できなかった。
「……ごめんなさい。ベルテさん。
私のわがままで時間を戻します。
あなたには、幸せになって欲しい。
こんな目に遭わせるために連れ出したんじゃない!」
こんな形でお別れするのが嫌だったトワは、自分の都合でベルテを蘇らせる。
もしかしたら、心が壊れてしまっているかもしれない。
私のことを、嫌うかもしれない。
それだけ、死体になるという感覚は耐え難いものなのだ。
それでも、蘇らせた。
「お嬢様、私は……ッ!?」
時間が巻き戻され、元のきれいな状態に戻ったが、死に耐えられず、吐いてしまった。
トワは汚れることを気にもせず、抱きしめ、頭を撫でる。
「ごめんなさい。
私のわがままで、あなたを心を穢しました。
恨んでもらって構いません。
一生をかけて償います。幸せにします。
だから、どうか……」
「いえ、いいえ、お嬢様……
私は、あなたに命を救われました。
感謝こそすれ、恨むことなどありえません。
私の方こそ、お嬢様に一生尽くします。
本当に、本当に、ありがとうございます」
ベルテが落ち着くまで、そのままの体勢で慰め続けた。
「もう、大丈夫です。ご迷惑をおかけしました。
それと、服をダメにしてしまって申し訳ありません。
すぐに戻って新しい服を、」
「いえ、そんなことはいいんです。
それより、何があったか、言える範囲で教えてください」
服だけ、異空間倉庫にある悪魔の衣装にさっと着替え、宿の部屋へと転移する。
「トワ!それにベルテも。どこに行ってたんだい?
そろそろご馳走を、どこに食べに行くか決めないと」
「ごめんなさい、アラン。
今は、ネジャロの部屋に行っててください。
それと、今日、私の夕食はいりません」
「え?どうして?」
「……いりません」
理由は言わず、アランを部屋の外に追い出す。
これから語られるであろうことは、乙女の、個人の尊厳の甚だしい侮辱だろうから。
「では、ベルテさん。できるだけ辛くない範囲でいいですから」
「はい……」
ベルテはしばらく顔を伏せたあと、思い出すように語り出した。
「昼食を摂るために、食堂に並んでいたら、赤っぽい鱗の蜥蜴人の男二人と、灰色の髪色で、肌が日に焼けた男に声をかけられました。
「白い女の仲間か」と聞かれて、知らないと言ったのですが、そのまま路地の方へ連れていかれてしまって……」
――私の、せい?
心を穢しただけでなく、死ぬ原因まで……
「それで、その……服を破られて、」
「いいです、もう言わなくていい。
辛かったでしょう。本当にごめんなさい。
ベルテさんを汚したのは、その三人だけですか?」
「いっいえ、もう一人。
茶髪の、貴族風な服を着た男があとから来て、剣で私のことを……」
――茶髪の貴族服?
そう言われ思い浮かんだのは、ギルドでアランを傷つけた、バカ侯爵だ。
――あいつかァ!あそこで殺しておけば!あそこでェ!
「……辛い思いをさせてごめんなさい。
これは私の責任だわ。
ベルテさん、今日はアランとネジャロさんと行動を共にしてください。
大丈夫よ。安心して。
すぐに平和になるわ」
不安そうな顔のベルテの頭を優しく撫で、ブラックウルフのお面を付け、フードを被る。
そして、食堂にいるバカ侯爵、メラン侯爵の元へ転移した。
◇◆◇
「ひと仕事したあとの食事は気分がいい。
もうそろそろ見つけた頃かな?
あー、もうちょっと分かりやすい場所に晒しておくべきだったかな。
まあいいか。侯爵たるこの僕をバカにした報いだ。
ハッハッグゥッ!?」
一瞬の出来事で、ほとんどのものが気づかなかっただろう。
その場には、メラン侯爵が食べようとしていた、高そうな夕食だけが残されていた。
◇◆◇
ギルドで見た顔で空間把握をかけ、食堂にいることが分かったトワは、メラン侯爵の目の前に転移し、一瞬で、ベルテが殺害された路地まで連れ去っていた。
「お前が殺した女。その時一緒にいた三人を呼びなさい」
「なッ、どこだここは!お前はなんだ!」
状況が飲み込めていないバカに面を取り、顔を見せてやる。
「お、おまえは、あの時の……」
「三人を呼びなさい。そうしたら殺さないであげるわ。」
ギルドでやったように腕を切り飛ばし、今度は死なないように傷口の時間を止める。
「逃げようとすれば、全身を細かく切り刻むわ。
そうなりたくなかったら三人を呼びなさい。
逃げても無駄よ」
そう言い残し、その場から消える。
――もう逃がさない。お前はもう捉えた。
◇◆◇
一時間ほどで、あの路地にメラン侯爵と、他三人が集まっていることが分かった。
愚かにも、全員が完全武装している。
集まった四人の元へ転移する。
到着した瞬間、メラン侯爵以外の手脚を切り飛ばし、異空間倉庫へ放り込む。
「な、何が、起きた?
ハッ、僕はもういいんだよな!ならこの腕、腕を治してくれよ。
頼む!こんなんじゃまともに生活できない!」
「……」
「もう二度とあんなことはしない!
僕の家からも賠償金を出す!
二度と目の前に現れないことも誓う!だから頼む!」
「お前、家族がいるのか?」
「あ、ああ。僕は侯爵の息子だ。
金は山ほどある。賠償金も期待してくれて構わない。だから腕を……」
「フッ、フフフ……」
――この個体は本当に、愚かすぎて笑いが込み上げてくる。
「なにが、おかしい……」
「お金なら、全員殺して全部奪うわァー。
それと、生きて返すわけないじゃない」
「なッ!騙したのかこの悪魔!」
これから先はうるさくなりそうなので、異空間に隔離する。
ギャーギャー喚く死に損ないの傷口に触れ、集中して、あるものを探す。
――見つけた。
時間減速をかけて、時間を何億倍にも引き伸ばし、集中して探り出したメラン侯爵の神経を引き裂いた。
――空間切断ってこんなに小さくて細いものでも切れるのね。
なんでもやってみるものだわ。
そして、バラバラに切り刻み、異空間倉庫に保管する。
――あとで一族全員、殺して晒し者にしてあげましょう。
私に仇なす者は容赦しないわ。
この日、トワの中で虚ろな状態だった妹の魂が、完全に覚醒した。
そして、二つの魂は混ざり合い、残虐な悪魔へと成った。
◇◆◇
異空間倉庫の中の、手足のない三人はどうなるのかというと、答えは第二ダンジョンにある。
「やっと着いたわ。結構遠かったのね」
第二ダンジョンへは来たことがなかったので、目視転移を繰り返し、数分かけて辿り着いた。
中は腐敗臭が漂う、アンデッドモンスターの住処だ。
モンスターの反応がある場所まで進むと、グロテスクな見た目のモンスターがワラワラと起き上がってくる。
そこに異空間倉庫を開き、三人を捨てる。
手脚がないのだから成すすべがない。
「さようなら。もうしばらく地獄を楽しんで」
三人の、劈くような悲鳴を聞き、宿へと戻った。
夕食をどうしようかと考えていると、ベルテが近づいてくるのが分かる。
「お嬢様!」
ハーフとはいえ、猫人族の察知能力は中々のものみたいだ。
「ベルテさん、もう大丈夫よ。
あなたを襲った奴らは消えたから」
その言葉で色々と察したのだろう。
涙を流しながら謝ってくる。
――何を謝っているのかしら?
私は当然のことをしただけだというのに。
私は、かつて兄にされたように、抱きしめて頭を撫でる。
「大丈夫よ。もう大丈夫。
いい子ね。よしよし」
◇◆◇
その日の夕食はいらないと伝えたが、全員待っていてくれたようで、食堂の一区画を貸し切って、盛大に宴会が行われた。
その頃にはベルテも元気を取り戻し、美味しい食事に舌鼓を打っていた。
私も、美味しい食事を沢山食べられて大満足だ。